玉扇(ハオルチア・トランカータ)|万象との違いと「型」の見分け方・学名と流通名の対応
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玉扇Haworthia truncata / ぎょくせん
系統Haworthia 属・トランカータ群
自生地南ア 小カルー
見分けの鍵左右 2 列に並ぶ截形の窓
玉扇(ぎょくせん)は、葉を扇のように一列に並べ、その先端を水平に切り落としたような姿をしたハオルチアです。学名は Haworthia truncata。英語圏では「horse’s teeth(馬の歯)」と呼ばれます。切り口に見える半透明の部分は「窓」で、自生地では体の半分を地中に埋め、この窓だけを地表に出して光を採り入れています。
そして玉扇は、名前がとても混乱している植物でもあります。園芸店やフリマアプリでは「コンゲスタ」「クラサ」「テヌイス」といった型の呼び名が飛び交いますが、そのうちどれが植物学の分類で、どれが日本の流通のなかで生まれた呼び方なのかは、ほとんど説明されません。この記事では、玉扇そのものの姿と育て方に加えて、この名前の層をひとつずつ分けて整理します。
この記事でわかること
- 玉扇 = 葉を左右 2 列の扇状に並べ、切り落としたような窓を地表に出す姿(万象はらせん状のロゼット)
- 「型」の名前には学名の層と流通の層があり、コンゲスタは流通の呼び名・マグニフィカは別種の名前
- 玉扇は属のなかでは日照に強い部類で、栽培下では根挿しや葉挿しでもよく殖える
- 価格を分けているのは殖やしにくさではなく、窓に入る紋と姿の選抜
玉扇とは — 葉を切り落としたような「窓」を持つ
自生地の断面 — 地表線を挟んだ上下
FIG.01Section
地表より上
葉の切断面(窓)だけが露出する
窓のはたらき … 半透明の切断面から光を採り入れ、地中の葉の内側で光合成する
地表より下
葉の大部分と株の本体が埋まっている
同じ戦略をとる植物 … リトープス、フェネストラリア、ハオルチア・シンビフォルミス
概念図
玉扇 Haworthia truncata は、1910 年に Schönland によって記載された種です。自生地は南アフリカ・西ケープ州の東端、リトルカルー(Little Karoo)と呼ばれる乾燥地帯です。
株は高さおよそ 2cm、幅およそ 10cm ほど。葉の断面はほぼ長方形で、左右 2 列に向かい合って並びます。この「一列の扇」のような並び方が、玉扇という和名の由来です。葉の色は灰色から灰緑色で、表面には白っぽい線や小さな疣(いぼ)状の突起が見られます。そして最大の特徴が、葉の先端が水平に切り落とされたように見えること。学名の種小名 truncata(切り取られた)は、この姿から来ています。
花は目立ちません。20cm ほどの花茎を伸ばし、白い筒状の小さな花を房状に咲かせます。観賞の中心はあくまで、上から見たときの葉の並びと窓の表情です。
基本情報 — 学名・自生地・耐寒性
玉扇の基本データ
Quick Spec
学名
Haworthia truncata Schönland(1910 年記載)
和名・別称
玉扇(ぎょくせん)。英語圏では horse’s teeth(馬の歯)
広く認められる変種
var. truncata(基準変種)と var. maughanii(万象)の 2 つ
自生地
南アフリカ 西ケープ州東端 小カルー(Oudtshoorn・De Rust・Calitzdorp)の冬雨地域
株の大きさ
高さおよそ 2cm・幅およそ 10cm
葉の並び
左右 2 列の扇状。断面はほぼ長方形で、先端が水平に切れる(万象 = var. maughanii はらせん状)
花
およそ 20cm の花茎に、白い筒状の小さな花を房状に
園芸帯・保全評価
SANBI PlantZAfrica: 園芸帯 3(軽い霜)/ Vulnerable
越冬の目安
属全体の一般指針として最低 3〜5℃ を下回らせない。玉扇固有の最低気温は一次情報を確認できず要確認
玉扇と万象の違い — 葉の並びで見分ける
玉扇とよく並べて語られるのが万象(まんぞう)です。どちらも「葉先を水平に切ったような窓」を持つため混同されますが、上から見たときの葉の並び方がまったく違います。
上面視の 3 列対比 — 玉扇・中間的な型・万象
玉扇 var. truncata
葉の並び
左右 2 列・扇状
葉先の形
長方形の切断面
上から見た印象
一列に並んだ板
中間的な型 f. crassa
葉の並び
2 列だが葉先が丸い
葉先の形
丸みのある切断面
上から見た印象
一列だが角が取れる
万象 var. maughanii
葉の並び
らせん状に回るロゼット
葉先の形
丸い切断面
上から見た印象
円形に集まった点
万象は、分類のうえでは玉扇の変種 Haworthia truncata var. maughanii として扱われます(独立した種 H. maughanii とする見解もあります)。自生地は玉扇の分布域の西端、カリツドープ(Calitzdorp)近郊のごく狭い範囲です。万象そのものの紋の見方と学名の層はハオルチア万象(まんぞう)とはで扱っています。
おもしろいのは、両者の分布が接する境界には、自然にできた中間型や交雑個体が存在することです。玉扇と万象は、はっきり線を引ける別物というより、同じ種のなかの姿の幅として理解するほうが実態に近いといえます。この記事で扱う f. crassa(後述)が「丸い葉先を持ちながら 2 列に並ぶ」中間的な姿をしているのも、その連続性を示しています。
玉扇の「型」を正しく理解する — 学名と流通名は別の層にある
NAME MAP / 2 LAYERS
名前の 2 層マップ — 学名の層と流通の層
上段 — 学名の層BOTANICAL
Haworthia truncataSchönland, 1910
var. truncata基準変種
var. maughanii万象
歴史的に記載された f. tenuis・f. crassa・var. minor は、現在の主要な整理では基準変種にまとめられている
下段 — 流通の層TRADE
「コンゲスタ」「クラサ」「テヌイス」
クラサ
→ f. crassa対応する
テヌイス
→ f. tenuis対応する
コンゲスタ
玉扇の学名としては存在しない(流通のなかの呼び名)対応しない
マグニフィカ
Haworthia magnifica は玉扇とは別の種の名前迷い込みやすい
対応する線対応しない線迷い込みやすい線
上段 = 記載された分類群 / 下段 = 日本の流通で使われる呼び名
ここがこの記事の中心です。玉扇の「型」として語られる名前には、由来の違う 2 つの層が混ざっています。
学名の層には、実際に記載された分類群があります。基準変種の var. truncata、そして万象にあたる var. maughanii。さらに歴史的には、f. tenuis(Poellnitz, 1938)、f. crassa(Poellnitz)、var. minor(Breuer, 2003)といった名前が付けられてきました。ただし現在の主要な整理では、minor と crassa は基準変種に統合されており、いま有効な変種として広く認められているのは var. truncata と var. maughanii の 2 つです。
流通の層は、日本の園芸の現場で使われている呼び名です。「コンゲスタ」は販売の場で実際に使われており、「葉が厚く窓が大きく開いているもの」を指す呼び方として通用しています。ただし、Haworthia truncata var. congesta という学名は、植物名の登録データベースに存在しません(Haworthia congesta という名前はありますが、これは玉扇とは無関係な別の種です)。
そして、注意が必要なのが「マグニフィカ」です。 Haworthia magnifica は 1933 年に記載された独立した別の種で、それ自体が多くの変種を持つグループです。玉扇の下位分類群としての「マグニフィカ」は存在しません。玉扇の型として「マグニフィカ」という名前を見かけたときは、別種の名前が紛れ込んでいる可能性を疑ってください。
なお、流通で言われる「コンゲスタ = 葉が厚く窓が大きい」という特徴は、学名の f. crassa(crassa は「太い」の意)が示す姿とよく似ています。同じものを別の呼び方で指している可能性はありますが、これを確定できる資料は見つかっていません。
型ごとの見分け方 — 窓の形・葉の厚み・株の大きさ
名前の層を分けたうえで、実際の株をどう見るか。手がかりになるのは 3 つです。
TYPE 1
長方形の窓
基準的な玉扇の姿 … 葉先の切断面が角張り、横長に見える
TYPE 2
丸みのある窓
クラサ的な姿 … 切断面の角が取れ、葉そのものも厚みがある
TYPE 3
ごく小さな長方形の窓
テヌイス的な姿 … 記載では葉の長さおよそ 12mm・窓の幅およそ 4mm と、際立って小型
窓の形を見る。 上から株をのぞき込んで、切断面が角張った長方形なのか、角の取れた丸みのある形なのかを見ます。丸みが強いほど、万象寄りの姿ということになります。
葉の厚みを見る。 横から見て葉が分厚く、窓が大きく開いているものが、流通で「コンゲスタ」と呼ばれやすい姿です。
株の大きさを見る。 テヌイスとして記載された型は、葉の長さがわずか 12mm ほどという小型さが特徴でした。手のひらに乗る小ささは、それだけで見分けの手がかりになります。
この 3 点で出せるのは「どの姿に近いか」という候補までです。そのうえで次に見る所は、上から見た葉の並びが左右 2 列の扇状か、らせん状の円形ロゼットか——ここが万象との境界で、型の名前より先に確かめる価値があります。玉扇は実生や交配が盛んに行われてきた植物で、市場に出回る株の多くは連続的な中間の姿をしています。手元の株を一つの型に当てはめきれなくても、それが普通です。
銘(園芸品種名)の世界 — 紋を競う文化
銘はどこまで辿れるか
FIG.05Records
LAYER 1
辿れる層
記録に残る栽培品種名。たとえば ‘Lime Green’ は交配親まで記述が残っている
LAYER 2
辿りにくい層
生産者やコレクターの間で受け継がれる銘。外から記録を確認できないことが多い
銘は記録の辿れる範囲でのみ確かめられる。自由に使える写真がほとんど無いため、この記事では記述と自作図解で示す
玉扇には、窓に入る白い模様(紋)の美しさを競う、日本独自の収集文化があります。優れた個体には銘(園芸品種名)が付けられ、その名前とともに大切に受け継がれていきます。
ただし、この銘の世界には、外から確かめにくいという性質があります。銘は生産者やコレクターのコミュニティのなかで付けられ、流通していくもので、国際的な登録機関に記録されているとは限りません。当サイトが確認できた範囲で、記録として辿れる栽培品種名は H. truncata ‘Lime Green'(葉脈のネットがライムグリーンになるもの。H. cuspidata あるいは H. cymbiformis との交配とされます)のような例に限られます。
写真が出回らないのも、この世界の特徴です。 銘のある玉扇は数が少なく、その画像はほとんどが撮影者に権利のあるものです。そのためこの記事では、銘を写真ではなく特徴の記述と自作の図解で示しています。
玉扇の育て方 — ハオルチアのなかでは日照に強い
BASE
明るい日陰(基本)
ハオルチア全般と同じ。窓辺のレース越しが安心
UP TO
やや強い光まで
玉扇は属のなかでは例外的に、しっかりした日照に慣らすことができる種として知られる
AVOID
避けたいこと
凍結。耐凍性はなく、寒さには弱い
玉扇の栽培は、ハオルチアの基本(明るい日陰・水はけの良い用土・過湿を避ける)に沿って考えれば大きく外れません。詳しい水やりや用土は育て方の記事にまとめています。
玉扇に固有の点を挙げるなら、属のなかでは日照に強い部類だということです。ハオルチアはほぼすべての種が半日陰を好むグループですが、玉扇は十分な日照に順化できる数少ない種として知られています。とはいえ、いきなり真夏の直射に出せば葉焼けします。強い光に「慣らすことができる」であって、「強い光が必要」ではありません。 光が足りずに株がゆるんできたときの見分け方は、徒長の記事で扱っています。
玉扇の越冬と耐寒性 — 霜に当てない
越冬温度の目安 — 下回らせたくないライン
FIG.08Winter
下回らせない
最低 3〜5℃(要確認)
霜・凍結は避ける … これより下は株を傷めやすい
できれば
5℃ 以上を保つ
冬は水を控えめにし、低温と用土の濡れを重ねない
属全体の一般指針。玉扇固有の最低気温は一次情報が確認できず要確認
概念図
越冬温度については、玉扇に固有の最低気温を示す一次情報を確認できませんでした。南アフリカ国立生物多様性研究所(SANBI)の PlantZAfrica は、玉扇(var. truncata)の自生地を小カルー(Oudtshoorn・De Rust・Calitzdorp)の冬雨地域とし、園芸上は「軽い霜」の入る帯(Zone 3)に位置づけていますが、具体的な最低気温の数値は示していません。園芸系の二次情報には数値が並びますが、出所をたどれません。属全体の一般指針として最低でも 3〜5℃ を下回らせず、できれば 5℃ 以上を目安に置き、種固有の数値は要確認として扱います。この目安の根拠と冬の管理はハオルチアの越冬(耐寒性)にまとめています。
確かなのは、自生地が小カルーの乾燥地であり、凍結を前提とした環境ではないという点です。栽培では、冬は水やりをごく控えめにして、窓辺の冷え込みや霜に当てないようにします。屋外で管理している場合は、寒くなる前に室内の明るい窓辺へ取り込んでください。低温そのものより低温と用土の濡れが重なることのほうが株を傷めやすいため、冬に水を控えるのはこの組み合わせを避ける意味もあります。
殖やし方については、意外に思われるかもしれません。 玉扇は栽培下でよく殖える植物で、実生や仔株はもちろん、根挿しや葉挿しでも殖やすことができると記録されています。他の種とも容易に交雑します。「希少で殖やしにくい植物」というイメージとは、実態が異なる部分です。具体的な手順は増やし方の記事で扱います。
価格が分かれる理由 — 「殖やしにくいから高い」ではない
同じ玉扇でも、指しているものが違う
FIG.07Tiers
TIER 1
実生で殖やされた一般的な株
姿は個体ごとにばらつく。入門として入手しやすい
TIER 2
選抜された個体
紋の美しさや葉の並びの整い方で選ばれた株。数が限られる
TIER 3
銘のある株
選抜個体のなかでも評価が定まり、名前とともに受け継がれてきたもの
3 つの層は、どれも同じ「玉扇」という名前で流通している
概念図
同じ玉扇でも、園芸店の実生苗と、専門店の銘のある株とでは、価格帯が大きく変わります。この差がどこから来るのかを、誤解を解く形で整理しておきます。
前のセクションで見たとおり、玉扇は栽培下でよく殖える植物です。つまり、価格差の理由は「殖やすのが難しいから」ではありません。実際に価値を分けているのは、窓に入る紋の美しさと、その個体が持つ姿の完成度です。上の 3 つの層は、どれも同じ「玉扇」という名前で流通しています。
同じ名前で売られていても、指しているものが違う——これが価格の幅の正体です。買うときには、名前だけでなく、上から見た窓の並びと紋の入り方を自分の目で見て選ぶのがいちばん確実です。和名・学名・流通名の対応は名前の対照表で確かめることができます。
具体的な金額については、この頁では扱いません。当サイトは玉扇の相場について平均価格を掲載していません。
まとめ
- 玉扇 Haworthia truncata は、葉を左右 2 列の扇状に並べ、切り落としたような窓を地表に出す植物です
- 万象は玉扇の変種にあたり、葉がらせん状のロゼットに並ぶ点で見分けられます。両者の境界には自然の中間型もあります
- 「型」の名前には学名の層と流通の層があります。コンゲスタは流通の呼び名で、マグニフィカは別種の名前です
- 玉扇は属のなかでは日照に強く、栽培下ではよく殖えます。価格を分けているのは殖やしにくさではなく、紋と姿の選抜です
- ほかの品種と見くらべたいときは人気品種ランキングで他の品種を見るから、検索データで注目度の高い順にたどれます
FAQ
玉扇と万象はどう見分けますか?
上から見て、葉が左右 2 列の扇状に並んでいれば玉扇、らせん状の円形ロゼットなら万象です。ただし境界には中間的な姿の個体も存在します。
「玉扇 マグニフィカ」という名前を見かけました。
Haworthia magnifica は玉扇とは別の独立した種の名前です。玉扇の変種として「マグニフィカ」は記載されていないため、別種の名前が混ざっている可能性があります。
コンゲスタは正式な品種名ですか?
植物名の登録データベースに Haworthia truncata var. congesta は見当たりません。日本の流通のなかで「葉が厚く窓が大きいもの」を指して使われている呼び名と考えられます。
玉扇は育てるのが難しいですか?
ハオルチアの基本(明るい日陰・水はけの良い用土)から大きく外れません。属のなかでは日照に強い部類で、栽培下ではよく殖える植物として知られています。
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出典
- Haworthia truncata — en.wikipedia.org(記載者・自生地・形態・窓の適応・栽培と繁殖・’Lime Green’)
- Haworthia — en.wikipedia.org(属としての半日陰適応)
- IPNI(International Plant Names Index)— H. truncata Schönland 1910 / f. tenuis Poelln. 1938 / var. minor Breuer 2003 / H. magnifica Poelln. 1933 の記載情報
- GBIF — var. maughanii (Poelln.) B.Fearn 1966 の受理状況、f. crassa Poelln. の登録
- SANBI PlantZAfrica — Haworthia truncata var. truncata(越冬・自生地の気候の出典): 小カルー(Oudtshoorn・De Rust・Calitzdorp)の冬雨地域、園芸帯 3(軽い霜)、Vulnerable。具体的な最低気温の数値は示されていない: pza.sanbi.org
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