ビスコーサ(Haworthiopsis viscosa)|三列に積み上がる三角柱と、リンネから続く名前
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ビスコーサHaworthiopsis viscosa / ハオルチオプシス・ビスコーサ
系統硬葉系
自生地南ア 西・東・北ケープ州
見分けの鍵葉が三列に並ぶ柱
ビスコーサは、硬い三角の葉が三列に重なって柱のように積み上がる硬葉系のハオルチアです。ハオルチアの見分けは、ふつう葉の面にある模様——窓・白い疣・帯・格子——を見て進めます。ところがこの種だけは、模様ではなく葉の並び方そのものが名前の根拠になっています。しかもその名前は、リンネが 1753 年に付けた Aloe viscosa にさかのぼり、270 年で 6 つの属を渡っていまの位置に着きました。この記事は、その並びと名前を出典つきで整理した事典です。
この記事でわかること
- 「三列」は見た目の印象ではなく、1821 年に立てられた節の名前 Trifariae そのものだということ
- 名前の数が資料で合わない理由——SANBI 39 / IPNI 18 / GBIF 6 は数え方が違うだけで、どれも誤りではない
- 売り場で見る「三角オブツーサ」が、なぜこの植物を指す名前としては成り立たないのか
- 緑の株と真っ赤な株が同じ種だということと、「三列だから」では同定が決まらないこと
ビスコーサとは — 「模様」ではなく「並び」で見る種
この頁 / SPECIES
ビスコーサという「種」の全体像
三列という並びの由来・270 年ぶんの名前・記録の分布・誤用名の整理。「この植物は何者か」を知りたい人のための頁です。
別の頁 / MAP
ハオルチアの種類総覧
軟葉系・硬葉系・万象・玉扇という系統の地図。ビスコーサが硬葉系のどこに座るかを俯瞰したい方はこちらから。
別の頁 / NAMES
名前の対照表
和名・学名・異名を横断検索できる辞書。ラベルの学名だけを突き合わせたいときは、この頁が最短です。
上の 2 枚目・3 枚目はそれぞれ別の記事です — ハオルチアの品種と系統の全体像 と ハオルチアの名前の対照表 からどうぞ。
まず、この植物の立ち位置をはっきりさせておきます。ビスコーサは、葉がやわらかく光を透かす軟葉系ではなく、葉が硬くて厚い硬葉系のハオルチアです。ただし硬葉系のなかでも、姿の作りが少し違います。十二の巻・アテヌアータ・レインワルディといった顔ぶれは、葉の面に載った白い疣(いぼ)の並び方で語られます。竜鱗なら面に交差する線、瑠璃殿なら触ってわかる隆条です。どれも「葉の表面に何が描かれているか」の話です。
ビスコーサはその軸から外れます。この種でまず目に入るのは、面の模様ではなく葉が三列に並んで、株が細い三角柱になるという形です。上の扉の写真を見ると、濃緑の柱が根元から枝分かれして横へ広がっているのがわかります。ひとつひとつの柱は、三角の葉が三方向から交互に積み上がってできています。「模様を見る」ではなく「並びを数える」——見分けの入口がそもそも違う種だ、というのがこの頁の出発点です。
そして、この「三列」は印象論ではありません。後の 03 章で書誌つきに追いかけますが、分類の世界ではこの一群に Trifariae(トリファリアエ)——ラテン語で「三列の」——という節の名前が付けられています。名付けたのは 1821 年のエイドリアン・ハーディ・ハワース、それを 2016 年に現在の属へ引き継いだのが Gildenhuys と Klopper です。姿の話が、そのまま命名法の記録として残っているという点で、ビスコーサは書きやすい種だといえます。
TAXONOMY / MEASURED 2026-08-14
硬葉系は 6 つの節に分かれ、ビスコーサは「三列の節」にいる
ツルボラン科 AsphodelaceaeALOOIDS
ハオルチオプシス属 HAWORTHIOPSIS(硬葉系)/ 6 節・受理種 19
残る 2 節 PHYTOTAXA 265 (2016)
6 節の構成と頁は Gildenhuys & Klopper 2016, Phytotaxa 265(1)(sect. Attenuatae 11 / Koelmaniorum 12 / Limifoliae 13 / Tessellatae 14 / Trifariae 16 / Virescentes 19)。IPNI で各節の書誌を、GBIF で属の受理種 19 を 2026-08-14 に実測
属の名前は書き換わった側です。かつて 1 つだった Haworthia 属は、2013 年以降の整理で 3 つに分けられました。やわらかい葉に窓をもつ一群は狭義の Haworthia に残り、硬い葉の一群は Haworthiopsis 属へ、大型で硬質な一群は Tulista 属へ移っています。ビスコーサは硬葉系なので Haworthiopsis 側です。古い本や古いラベルが「Haworthia viscosa」と書いているのは、この分割より前の体系ということになります。
ただしビスコーサの場合、属の移動は 1 回では済みませんでした。いま Haworthiopsis にいるこの植物は、その前に Tulista にいたことがあり、さらに前は Catevala、その前は Haworthia、その前は Apicra、いちばん最初は Aloe でした。270 年で 6 つの属です。名前がこれだけ動いた理由と、その一つひとつの書誌は 04 章にまとめました。ラベルの学名が古くても、それは間違いではなく「いつの体系で書かれたか」の記録だと考えると、売り場の表記にも落ち着いて向き合えます。
基本情報 — 学名・自生地・耐寒性
ビスコーサの基本データ
Quick Spec
受理名
Haworthiopsis viscosa (L.) Gildenh. & Klopper
掲載
Phytotaxa 265(1): 18(2016-06-09)
基になった名前
Aloe viscosa L. — Species Plantarum 1: 322(1753 年 5 月 1 日)
著者引用
資料で割れる(Gildenh. & Klopper / G.D.Rowley / Breuer)要確認
よく見る旧名
Haworthia viscosa (L.) Haw.(1812)
属を渡った回数
6 属(Aloe → Apicra → Haworthia → Catevala → Tulista → Haworthiopsis)
科
ツルボラン科(Asphodelaceae)
系統
硬葉系(Haworthiopsis / sect. Trifariae)
受理変種
2(var. viscosa / var. variabilis)。受理亜種は 0
シノニム
SANBI 39 / IPNI 18 / GBIF 6(数え方が違う)
自生地
南アフリカ固有。東ケープ・北ケープ・西ケープの 3 州(SANBI)
生育環境
岩がちのカルー斜面・石英パッチ・乾燥フィンボス
植生区分
アルバニー・シケット / フィンボス / ナマ・カルー / 多肉カルー
草姿
三角の葉が三列に重なる柱状。根元から仔を出して塊をつくる
草丈・葉の寸法
公的機関の記載を確認できず要確認
越冬の目安
属全体の一般指針として最低 3〜5℃ を下回らない要確認
保全評価
南ア国内 LC(軽度懸念) / GBIF が持つ IUCN は未評価(NE)
個体群動向
Stable(安定)(SANBI・2014 年評価)
一般名
アフリカーンス語 Koedoekos / Kuduskos。英語名は登録なし
流通名
ビスコーサ / ダルマビスコーサ(選抜)/ 竜城(選抜)要確認
この表で最初に引っかかるのは、著者引用です。Aloe viscosa という名前を Haworthiopsis 属へ移す組み合わせは、3 人の研究者から 3 度、別々に発表されています。Gordon D. Rowley が 2013 年 7 月に Alsterworthia International 13 巻 2 号 26 ページで、Gildenhuys と Klopper が 2016 年 6 月 9 日に Phytotaxa 265 巻 18 ページで、Ingo Breuer が同じ 2016 年の 6 月 25 日に Alsterworthia International 16 巻 2 号 7 ページで。国際的な照合先である GBIF は Gildenhuys & Klopper 版を受理名として採り、残る 2 つは疑問名(doubtful)として保持しています。本記事も GBIF に揃えました。
ところが、南アフリカの評価機関はもう一方を使っています。南アフリカ国家生物多様性研究所(SANBI)のレッドリストは、この種を Haworthiopsis viscosa (L.) G.D.Rowley と表記して評価を出しています。どちらかが間違っているという話ではありません。同じ組み合わせが複数回発表されたとき、どれを有効とするかは命名規約の解釈と各データベースの運用で決まります。この頁はGBIF の受理状況を採用しつつ、別の表記が公的機関で使われている事実も書く形をとりました。
2 つ目は、形態の数値が書けないことです。竜鱗や瑠璃殿には SANBI の PlantZAfrica に種ごとの解説頁があり、株の高さや葉の長さがミリ単位で書かれています。ところがビスコーサには、その頁がありません。2026-08-14 に確認したところ、pza.sanbi.org/haworthiopsis-viscosa も haworthia-viscosa も HTTP 404 で、同属の瑠璃殿・アテヌアータ・竜鱗は 200 で開きます。サイトの障害ではなく、この種の頁が作られていないということです。GBIF の記述欄も 0 件でした。したがって草丈も葉の寸法も書きません。
3 つ目は、越冬温度です。上と同じ理由で、本種だけを対象にした耐寒性の一次情報は確認できませんでした。自生地の側から言えるのは、SANBI レッドリストが生育地を「岩がちのカルー斜面、石英パッチ、乾燥フィンボス」と記していること、植生区分にナマ・カルーや多肉カルーが含まれることまでです。カルーは内陸の乾燥地で夏冬の寒暖差が大きい地域ですが、それは南アフリカの気候であって、日本の屋外で越冬できるという意味ではありません。実用上はハオルチア属全体の一般指針として最低 3〜5℃ を目安に置き、種固有の数値は要確認として扱います(この目安の根拠はハオルチアの越冬(耐寒性)にまとめています)。
保全評価は 2 つの答えが並びます。GBIF が保持する IUCN のカテゴリは NOT EVALUATED(未評価)で、国際的にはまだ評価されていません。一方 SANBI は南アフリカ植物レッドリストにもとづき本種を Least Concern(LC / 軽度懸念)と評価しています(査定は L. von Staden、2014 年 3 月 27 日)。評価の理由は「広く分布しており絶滅の危機にない」というもので、個体群動向は Stable(安定)と記録されています。国際的な未評価と、南アフリカ国内の軽度懸念は別物です。この種は南アフリカ固有なので、国内評価の対象範囲と分布域はほぼ一致します。
三列の柱 — 節の名前が「三列」を名乗っている
写真の柱をよく見ると、葉が三方向から順番に出ているのがわかります。ひとつの葉のすぐ上には、少しずれた位置に次の葉が出て、その上にもまた同じだけずれた葉が出る。三枚で一周して、四枚目が一枚目の真上に重なる——この繰り返しで、柱を上から覗くと三角形に見えます。ロゼット(葉が渦を巻くように放射状に広がる形)が当たり前のハオルチア類のなかで、この積み上がり方は目で数えられるほどはっきりしています。
そしてこの並び方には、200 年前に付けられた名前があります。1821 年、Haworthia 属の名の由来にもなったエイドリアン・ハーディ・ハワースが、この一群に Haworthia sect. Trifariae という節を立てました。trifarius はラテン語で「三列の、三方向に並ぶ」を意味します。ハワースは、この植物の見どころが面の模様ではなく葉の配列にあることを、節の名前そのものに書き込んだわけです。掲載は 1821 年の 49 ページ。
ここに、もうひとつ小さな一致があります。ハワースが Trifariae の節を立てたその同じ 49 ページで、彼は Haworthia viscosa の変種 3 つ——var. major、var. minor、var. parvifolia——を発表しています(国際植物名索引 IPNI で書誌を実測)。「三列の節」を立てた頁と、ビスコーサの変種を並べた頁が同じだということです。ハワースにとって、この節を代表する植物がビスコーサだったことがうかがえます。
この節名は、2016 年にそのまま現在の属へ引き継がれました。Gildenhuys と Klopper は Phytotaxa 265 巻で Haworthiopsis 属の記載を拡張し、旧 Haworthia 亜属 Hexangulares で認められていた 6 つの節を Haworthiopsis に適用しました。そのうちの 1 つが Haworthiopsis sect. Trifariae (Haw.) Gildenh. & Klopper(同 16 ページ)です。ビスコーサ本体の新組合せは同じ論文の 18 ページ、その変種 var. variabilis が 19 ページ、次の節 sect. Virescentes が 19 ページに始まります。頁の並びからも、ビスコーサが「三列の節」の中に置かれていることが読めます。
見る場所
ビスコーサ
(並びで見る)
(並びで見る)
十二の巻・竜鱗・瑠璃殿
(模様で見る)
(模様で見る)
第一の手がかり
葉が三列に並ぶ
面の疣・線・隆条
株の輪郭
細い三角柱が立つ
平たいロゼット〜塔
上から見ると
三角に見える
円か放射に見える
葉の面の質
細かい粒でざらつく
白疣・線が主役
節(2016)
sect. Trifariae
Attenuatae / Tessellatae / Limifoliae
左列はビスコーサ、右列は十二の巻の原種(Haworthiopsis fasciata)・瑠璃殿の頁の記述と、本記事に載せた写真の所見にもとづく。節の対応は Gildenhuys & Klopper 2016 の 6 節構成による。写真の同定は撮影者・掲載カテゴリによるものです候補として読む
「並びで見る」と決めると、硬葉系の絞り込みがひとつ楽になります。白い疣が帯や点をつくっているなら、それは十二の巻やアテヌアータの側の話で、十二の巻とアテヌアータの記事が受け持ちます。面に線が交差して四角い区画ができているなら竜鱗の側、触ってわかる隆条があるなら瑠璃殿の側です。それらの模様がどれも主役に見えず、代わりに葉の重なりが三列に数えられるなら、ビスコーサの候補に入ります。系統ごとの姿の違いはハオルチアの品種と系統の全体像で図解しています。
ただし、柱状に伸びる硬葉系はビスコーサだけではありません。レインワルディも上へ塔のように伸びますし、コアルクタータ(Hp. coarctata)も同じような姿になります。違いは葉が何列で並ぶかで、レインワルディの葉は螺旋を描いて着き、白い疣が散ります。「柱だからビスコーサ」ではなく「三列だからビスコーサの候補」——この一段の差が、08 章で扱う同定の限界にそのままつながります。
名前の来歴 — リンネの 1753 年から、6 つの属を渡って
ビスコーサの名前が渡り歩いた 6 つの属 — 記載 → 分割 → 統合 → 再分割
FIG.01Timeline
第 1 期 記載
リンネが Aloe viscosa として発表(1753)
1783 年に Lamarck が Aloe triangularis を別に立てる
第 2 期 分ける
Apicra(1811)を経て Haworthia へ(1812)
Haworth が Syn. Pl. Succ. 90 頁で組み替える
第 3 期 まとめる
Kuntze が Catevala viscosa として扱う(1891)
属をまとめ直す試み。現在はシノニム
第 4 期 再分割
Tulista を経て Haworthiopsis へ(2013 / 2016)
同じ組合せが 3 人から 3 度発表される
いまの受理につながる
属を分ける動き
属をまとめる動き
概念図
この植物の名前は、リンネその人から始まっています。近代的な学名の出発点とされる Species Plantarum(『植物の種』)初版の第 1 巻 322 ページに、Aloe viscosa L. として記載されました。刊行日は 1753 年 5 月 1 日で、これは植物の学名の起点そのものにあたる日付です(IPNI 実測)。当時はハオルチアという属がまだ無く、この仲間はすべてアロエとして扱われていました。ハオルチア類の多くが 19 世紀以降の記載であることを思うと、ビスコーサはかなり古い名前を背負っています。
どれくらい古いかは、同じ属のほかの種と並べるとわかります。2026-08-14 に Haworthiopsis の受理種 19 をすべて照会し、それぞれの「基になった名前」の著者を確認しました。結果は、リンネ由来の名前を持つのはビスコーサだけ。ほかは Haworth、Salm-Dyck、Baker、Marloth、Willdenow、Lamarck、Poellnitz、Bayer といった後代の研究者による記載です。硬葉系のなかで、いちばん先に名前が付いた植物ということになります。
その後、名前は 5 回引っ越しました。1811 年に Willdenow が Apicra viscosa として Apicra 属へ、翌 1812 年に Haworth が Haworthia viscosa として自分の名を冠した属へ移します。売り場や古い図鑑でよく見る「Haworthia viscosa」は、この 1812 年の組み合わせです。1891 年には Kuntze が Catevala viscosa として別の属へ移し、2013 年には Rowley が一度 Tulista viscosa としています。そして最終的に Haworthiopsis へ——というのが現在地です。
ひとつだけ、性格の違う名前が混じっています。1783 年に Lamarck が発表した Aloe triangularis Lam. は、GBIF の分類では異型シノニム——つまり別のタイプ標本にもとづいて独立に立てられた名前が、後にビスコーサと同じものだと判断されたケースです。種小名の triangularis は「三角の」。ハワースが 1821 年に節名で「三列」と書くより 38 年早く、ラマルクは種小名で「三角」と書いていたことになります。姿の第一印象は、200 年以上変わっていないわけです。
種小名の viscosa については、慎重に扱います。ラテン語の viscosus は一般に「粘る、ねばつく」を意味する語ですが、この種にその名が付いた理由を説明した一次資料は確認できませんでした。GBIF の記述欄は 0 件、SANBI レッドリストは語源に触れず、PlantZAfrica には頁がありません。加えて、実際の葉の手ざわりについては「ざらつく」と書かれることが多く、名前と質感が食い違って見えるという点も残ります。語源は断定せず、確認できなかったこととして記録します。
39 と 18 と 6 — 名前の数が資料で合わない
| 階級 | 名前 | 誰が / いつ | いまの扱い |
|---|---|---|---|
| 種(受理) | Haworthiopsis viscosa (L.) Gildenh. & Klopper | Gildenhuys & Klopper・2016-06-09 | 受理名(GBIF) |
| 種 | Haworthiopsis viscosa (L.) G.D.Rowley | Rowley・2013-07-01 | GBIF では疑問名 / SANBI はこちらを使用 |
| 種 | Haworthiopsis viscosa (L.) Breuer | Breuer・2016-06-25 | GBIF では疑問名 |
| 変種(受理) | var. viscosa(基本変種) | — | 受理(GBIF 記録 141 件) |
| 変種(受理) | var. variabilis (Breuer) Gildenh. & Klopper | Gildenhuys & Klopper・2016 基になった名前 = Breuer・2003 | 受理(GBIF 記録 1 件) |
| 種 | Aloe viscosa L. | Linnaeus・1753 | 基になった名前(シノニム) |
| 種 | Aloe triangularis Lam. | Lamarck・1783 | 異型シノニム(別のタイプ標本) |
| 種 | Apicra viscosa (L.) Willd. | Willdenow・1811 | シノニム |
| 種 | Haworthia viscosa (L.) Haw. = 日本語圏でよく見る表記 | Haworth・1812 | シノニム |
| 種 | Catevala viscosa (L.) Kuntze | Kuntze・1891 | シノニム |
| 種 | Tulista viscosa (L.) G.D.Rowley | Rowley・2013 | シノニム |
| 変種・型 | var. major / var. minor / var. parvifolia(Haworth・1821)/ var. concinna / var. indurata(Baker・1880)/ var. caespitosa(Poellnitz・1938)/ var. cougaensis(1945)/ var. viridissima(1946)/ var. quaggaensis(1948。以上 G.G.Smith)ほか | 1821〜2003 | いずれも種のシノニム側 |
| 亜種 | subsp. derekii-clarkii / subsp. nigra | Halda・1998 | シノニム(nigra は現行では別の受理種) |
この種で最初に戸惑うのは、シノニムの数が資料ごとに違うことです。南アフリカのレッドリストは 39 件を並べます。国際植物名索引(IPNI)で Haworthia viscosa 系の名前を数えると 18 件。GBIF が受理名の下に持つシノニムは 6 件しかありません。同じ植物について、公的なデータベースが 6 倍以上ちがう数を出していることになります。
「シノニムは何件か」は、数え方で 6 倍変わる(2026-08-14 実測)
FIG.02Names
種明かしは、集計の単位です。GBIF の 6 件は種の階級だけを数えた数字で、変種や亜種のシノニムは受理変種のほうにぶら下がっています。IPNI の 18 件は「Haworthia viscosa」で始まる名前を発表順に並べたもので、他属時代の名前は別に数えられます。SANBI の 39 件は他属時代の名前も種下の名前も全部まとめて一覧にしたものです。「何件が正しいか」という問いは、そもそも成立しません。手元の資料が何を数えているかを見るほうが早道です。
名前が増えた時期にも偏りがあります。IPNI で数えた 18 件を年代別に見ると、1820 年代に 3 件、1940 年代に 3 件、1980 年代に 5 件と山が来ます。1940 年代の 3 件は南アフリカの G.G.Smith が立てた産地の変種で、var. cougaensis(1945)・var. viridissima(1946)・var. quaggaensis(1948)と、それぞれ地名や色に由来する名前が付いています。産地ごとに姿が少し違う植物を、名前で区別しようとした時代の痕跡です。
1980 年代の 5 件は、少し性格が違います。この 5 つはいずれも 1983 年に John Pilbeam が 1 冊の本の 141 ページで発表した「型(forma)」で、f. asperiuscula・f. beanii・f. pseudotortuosa・f. subobtusa・f. torquata が並びます。その本の書名が『Haworthia & Astroloba: Collector’s Guide』——ハオルチアとアストロロバという 2 つの属を 1 冊で扱う体裁でした。この点は 08 章の見分けの話に効いてきます。
ハオルチアで「何種あるか」自体が定まらないことも、この数字の背景にあります。種数の見解は研究者によって桁が変わり、林雅彦氏は 546 種、Ingo Breuer 氏は 366 種、Bruce Bayer 氏は 60 種という数を示してきました。細かく分ける立場と、まとめる立場の幅です。ビスコーサの 39 という数は、この幅がひとつの種の上でどう積み上がるかの見本になっています。この頁はGBIF Backbone の受理状況を採用しつつ、別の見解がある名前についてはその旨を書く形をとっています。
分布 — 西ケープと東ケープ、評価と記録の食い違い
ビスコーサは南アフリカの固有種です。SANBI レッドリストは South African endemic と明記し、分布州として東ケープ州・北ケープ州・西ケープ州の 3 州を挙げています。分布の範囲は「東部および南部の大カルー、小カルー、そして東へ Baviaanskloof と Kouga 山地まで広く分布する」。生育地は「岩がちのカルー斜面、石英パッチ、乾燥フィンボス」で、植生区分ではアルバニー・シケット、フィンボス、ナマ・カルー、多肉カルーの 4 つに顔を出します。乾いた岩場の植物だという点は、上の自生地の写真とよく合います。
ところが、記録のほうを見ると州の内訳が合いません。国際的な生物多様性データベース GBIF に集まった出現記録は種全体で 415 件、うち南アフリカが 323 件です。その州別の内訳を数えると、西ケープ州が 196 件で最多、東ケープ州が 109 件と続きます。ところが北ケープ州は 1 件も出てきません。SANBI が分布州に挙げている州が、記録の側にはまったく現れないということです。
南アフリカの出現記録 323 件の州別内訳(GBIF 実測)
FIG.03Distribution
どちらかを採って一方を消す、ということはしません。SANBI は分布を評価する機関で、標本や文献にもとづいて州を認定します。GBIF に集まるのは誰かが記録として登録したもので、記録が無いことは「そこに生えていない」ことを意味しません。評価ベースでは 3 州、記録ベースでは 2 州——この 2 つを並べて出します。北ケープ州で見かけた株がビスコーサではないという意味にはならない、という点だけ押さえておいてください。
件数そのものにも、読み方の注意が要ります。GBIF の 415 件のうち 259 件が iNaturalist のリサーチグレード観察で、年代の分かる 355 件のうち 217 件(61%)が 2020 年代に集中しています。これは市民科学プラットフォームが普及した結果であって、この 5 年で個体が増えたわけでも分布が広がったわけでもありません。記録の古いものは 1829 年までさかのぼり、標本ベースの記録(118 件)は 1940〜50 年代に山があります。件数は「人がどれだけ見て記録したか」の指標だと考えてください。
| 種(硬葉系) | GBIF 出現記録 | 南アフリカでの記録が多い州 |
|---|---|---|
| Hp. viscosa(ビスコーサ) | 415 | 西ケープ 195 / 東ケープ 101 |
| Hp. coarctata | 403 | 東ケープ 265 |
| Hp. reinwardtii(レインワルディ) | 371 | 東ケープ 233 |
| Hp. attenuata(アテヌアータ) | 310 | 東ケープ 87 |
| Hp. tessellata(竜鱗) | 298 | 北ケープ 137 / 東ケープ 30 |
| Hp. fasciata(十二の巻) | 291 | 東ケープ 203 |
| Hp. limifolia(瑠璃殿) | 223 | クワズール・ナタール 68 |
| Hp. glauca | 222 | 東ケープ 130 |
| Hp. nigra | 136 | 東ケープ 85 |
| Hp. scabra | 107 | 西ケープ 86 |
| Hp. venosa(ベノーサ) | 100 | 西ケープ 64 |
| Hp. longiana / sordida / granulata | 49 / 38 / 37 | 東ケープ・北ケープ |
| Hp. koelmaniorum / bruynsii / woolleyi / pungens / henriquesii | 17 / 9 / 9 / 4 / 0 | ムプマランガ・東ケープほか |
同属のなかで並べると、ビスコーサの位置がよく見えます。受理されている 19 種の出現記録を数えると、ビスコーサの 415 件が最多で、2 位のコアルクタータ(403)、3 位のレインワルディ(371)がそれに続きます。差はわずかですが、硬葉系でいちばんよく記録されている種だということです。iNaturalist の観察も 368 件あり、うち野生の記録が 329 件(89%)を占めます。栽培棚ではなく野外で出会って記録される植物だという性格が、数字にも出ています。
もうひとつ、州の偏りにも特徴があります。この属は全体として東ケープ州に偏っていて、コアルクタータ・レインワルディ・アテヌアータ・十二の巻・グラウカ・ニグラはいずれも東ケープが最多です。そのなかでビスコーサは西ケープ州で 195 件と、属内で最も多くの記録を西ケープに持ちます。SANBI の記述にある小カルーや大カルー南部が、ちょうど西ケープの内陸側にあたる地域です。「乾いた内陸の岩場に、いちばん厚く記録が残っている硬葉系」という言い方が、データの側からはできます。
緑と赤 — 色は品種の違いではない
この記事には、同じ種の写真が 4 枚載っています。並べると色がまるで違います。扉の植物園の株は濃い緑、いま見ている鉢植えは明るい緑、03 章の株は緑と赤褐色が半々、06 章の自生地の株はほとんど真っ赤です。初めてこの植物を見る方は、4 枚が同じ種だと言われても納得しにくいと思います。実際、色の違いを品種の違いだと考えて別の名前で流通することは、多肉植物ではよくあります。
| この記事の写真 | 置かれていた場所 | 色 | 三列の見え方 |
|---|---|---|---|
| 扉プレート | ハイデルベルク大学植物園の花壇 | 濃い緑 | 柱の稜がはっきり見える |
| 03 章 | バーゼル大学植物園(屋外) | 緑と赤褐色が同居 | いちばんよく数えられる |
| 07 章(この節) | スコピエ植物園の鉢 | 明るい緑 | 葉が伸びて読み取りにくい |
| 06 章 | 南アフリカ東ケープ州の岩場(野生) | 暗赤色 | 塊になって輪郭が埋もれる |
この 4 枚から言えるのは、色と光が結びついていることです。いちばん赤いのは、遮るもののない岩場で撮られた野生の株でした。いちばん緑なのは、屋根の下と思われる鉢植えです。03 章の写真は 1 枚のなかで緑と赤が同居しており、同じ株の集まりでも、光の当たり方の違いがそのまま色の違いになって出ています。強い光でアントシアニン系の色素を出して赤や紫に転ぶのは、ハオルチア類に共通する反応です。
ただし、この 4 枚から言えるのはここまでです。①4 枚とも同じ学名で掲載されていること、②野外の株がもっとも赤く、屋内の鉢がもっとも緑であること、③1 枚のなかで緑と赤が並ぶ株があること——この 3 つ。「色が違う=別の品種」と考える前に、置き場所を思い出してみる価値はある、という程度の話です。
もうひとつ、この節でいちばん実用的なのは 07 章の鉢植えかもしれません。スコピエ植物園のこの株は、葉が細長く伸びて外へ開き、柱の三角形が読み取りにくくなっています。図鑑の写真では三列がくっきり見えるのに、手元の株ではそう見えない——という食い違いは、この植物では珍しくないということです。姿が間延びする原因の一般論はハオルチアの徒長にまとめてあります。
色の話には、名前の側からの裏づけもあります。05 章の表にある変種名を見ると、var. viridissima(いちばん緑の)という名前が 1946 年に立てられています。色の違う個体群に別の名前を与えようとした試みが、実際にあったということです。現在この名前はシノニムとして扱われています。色で分けようとした 20 世紀の試みが、いまは 1 つの種にまとめ直されている——この経緯自体が、色を同定の決め手にしないほうがよい理由になります。
見分けの入口 — 「三列だから」では決まらない
柱状に伸びる多肉は 4 タイプに分かれる — 断定でなく「次に見る所」の表
ビスコーサ HP. VISCOSA
葉の並び
三列。上から見ると三角
葉の面
細かい粒でざらつき、白い疣は目立たない
次に見る所
花が咲いたら花の付き方。属が違えば花が違う
レインワルディ・コアルクタータ HP. REINWARDTII / COARCTATA
葉の並び
螺旋。列として数えにくい
葉の面
白い疣が散る・列をつくる
次に見る所
疣が指に当たるか。レインワルディの頁へ
アストロロバ属 ASTROLOBA
葉の並び
列に並んで柱になる。姿がよく似る
葉の面
種により平滑〜ざらつく
次に見る所
そもそも属が違う。写真だけでは分けられない
この表は「答え」ではなく「次に何を見るか」の表です。できるのは候補を複数挙げて、次に見るべき場所を示すところまでです。とくにビスコーサでは、「三列に並んでいる」だけでは種が決まりません。理由をこの節で 3 つの実例から説明します。
1 つ目の実例は、この記事の自生地の写真そのものです。06 章に載せた iNaturalist の観察(2021 年・南アフリカ東ケープ州)は、現在 3 名の同定が一致してリサーチグレードになっています。ところが同定の履歴を見ると、そのうちの 1 名が最初『Astroloba』と同定し、のちに撤回して Haworthiopsis viscosa に変えていることがわかります(iNaturalist API で 2026-08-14 に実測)。現地で実物を前にした人でも、いったんは別の属だと考えたということです。
2 つ目の実例は、Wikimedia Commons のファイル名にあります。この種のカテゴリには Haworthia viscosa - mislabeled as A spiralis.jpg——「Astroloba spiralis と誤ラベルされていた」というファイル名の写真が実在します。植物園や販売の現場でも取り違えが起きていることを、ファイル名が記録している格好です。ちなみに Astroloba spiralis の基になった名前は Aloe spiralis L. で、こちらもリンネが 1753 年に付けた名前。2 つの植物は、名前の古さまで似ています。
3 つ目の実例は、05 章で触れた本の書名です。1983 年に John Pilbeam が出した本は『Haworthia & Astroloba: Collector’s Guide』という書名で、2 つの属を 1 冊にまとめて扱っています。愛好家向けの実用書がそういう構成をとったこと自体が、この 2 属を並べて見る必要があったことの証拠になります。アストロロバ属には現在 13 の受理種があり(GBIF 実測)、いずれも南アフリカの乾燥地に自生する近い仲間です。
そのうえで、ビスコーサを疑うときの入口を 2 つだけ挙げておきます。ひとつは葉が三列に数えられるか。柱を上から覗いて、葉が三方向から順に出ているなら候補に入ります。螺旋を描いていたり、白い疣が列をつくっていたりするなら、レインワルディやコアルクタータのほうへ向かいます。もうひとつは葉の面が細かい粒でざらついているか。ただし、どちらも「アストロロバではない」ことの証明にはなりません。ここが写真だけでは超えられない線です。
ここから先の絞り込みは、この頁の担当ではありません。硬葉系のなかで名前が絞りきれないとき、あるいは軟葉系との区別からやり直したいときは、見分けの記事をまとめた見分け方ガイドの入口からお進みください。とくに十二の巻とアテヌアータの見分けは、硬葉系で最も取り違えの多い組み合わせを 1 本まるごと使って扱っています。十二の巻の原種(Haworthiopsis fasciata)・アテヌアータ・瑠璃殿にはそれぞれ単体の図鑑頁があります。
育て方の要点 — 光・水・用土・冬
LIGHT
光
種固有の一次情報は確認できず。言えるのは自生地が「岩がちのカルー斜面・石英パッチ・乾燥フィンボス」(SANBI)で、遮るものの少ない乾燥地だということ。本記事の写真では、野外の株ほど赤く、屋内の鉢ほど緑に写る。
WATER
水
同じく種固有の記述なし。自生地は年間降水量の少ないカルーで、岩の斜面と石英の礫地。水が溜まらない場所の植物という前提から、ハオルチア共通の考え方(用土が乾いてから与える)を当てるのが実際的。
SOIL
用土と鉢
SANBI の生育地記述に石英パッチ(quartz patches)が挙がる。石英の礫が地表を覆う立地で、粗い粒と排水が前提になる環境。配合そのものの一次情報は無いため、資材ガイドの一般解を使う。
TEMPERATURE
温度
越冬の具体的な数値は種固有の一次情報が無く要確認(本サイト共通の目安は最低 3〜5℃)。自生地のカルーは内陸の乾燥地で寒暖差が大きいが、それは南アフリカの気候区分であって日本の屋外越冬を意味しない。
この節は、他の品種頁と書き方を変えています。硬葉系の頁は SANBI の PlantZAfrica にある種ごとの解説を土台に書いてきましたが、ビスコーサにはその解説頁がありません。2026-08-14 に確認したところ、瑠璃殿・アテヌアータ・竜鱗の頁はいずれも開くのに、ビスコーサの頁だけが 404。GBIF の記述欄も 0 件です。したがって光量・灌水頻度・用土配合・耐寒温度の一次情報は確認できておらず、この頁では数値を書きません。
そのうえで、自生地の記述から言えることはあります。SANBI レッドリストは生育地を「岩がちのカルー斜面、石英パッチ、乾燥フィンボス」と記します。水が溜まらず、地表が明るく、有機物の少ない場所——これが鉢での用土と置き場所を考えるときの土台です。光については、本記事の写真で屋外・野生の株ほど赤く、屋内の鉢ほど緑に写っていました。濃緑から赤褐色まで動く幅があるとは言えますが、「何ルクスで赤くなる」という数値はありません。用土・鉢・棚の選び方はハオルチアの育成環境ガイド(LED・用土・鉢・棚)に、光と葉色・補光の考え方はハオルチアの育て方は「窓」で決まるにまとめています。
殖え方は、姿そのものが答えになっています。扉の写真でも 03 章の写真でも、柱が根元から枝分かれして塊をつくっているのがわかります。仔株をよく出して群れるのは 4 枚すべてに共通する特徴です。株分けの手順はハオルチアの増やし方に、葉が長く伸びて三列の稜が読み取りにくくなったときの読み方はハオルチアの徒長にまとめました。「図鑑の写真と手元の株が違う」ときに、まず疑うのは品種ではなく環境です。
入手時の注意 — 三角オブツーサ・五重の塔・選抜個体
| 売り場・ラベルで見かける表記 | それが指すもの | 読み方 |
|---|---|---|
| Haworthia viscosa | Haworthiopsis viscosa | Haworth・1812 の組み合わせ。属が分かれる前の表記で、種としての扱いは今と同じ |
| Tulista viscosa / Apicra viscosa / Catevala viscosa | 同上 | 2013 / 1811 / 1891 の組み合わせ。いずれも同じ植物。属をまとめ直す・分け直す試みの跡 |
| Aloe triangularis | 同上 | Lamarck・1783。別のタイプ標本から立てられた名前が、後に同じものと判断された |
| 三角オブツーサ | この植物を指す名前としては成り立たない | オブツーサは軟葉系の別種(Haworthia cooperi var. truncata)。属も系統も違う。詳しくは下の本文 |
| 五重の塔 / Haworthiopsis ×tortuosa | 資料で扱いが割れる | GBIF は交雑起源を示す × 付きの受理名(記録 25 件)、SANBI はビスコーサのシノニムとして列挙 |
| ダルマビスコーサ / 竜城 | 選抜個体の流通名 | 由来を記した一次資料は確認できず。「そう表示されている」事実として扱う |
| var. variabilis | 受理されている変種 | 2 つある受理変種の 1 つ。ただしGBIF の出現記録は 1 件で、外から確かめる手立てはふつう無い |
この頁でいちばん整理しておきたいのが「三角オブツーサ」です。三角の葉が積み重なる姿から、この呼び名が使われることがあります。けれどもオブツーサは、まったく別の植物の名前です。オブツーサ(Haworthia cooperi var. truncata)は軟葉系で、葉の先端が半透明の「窓」になって光を通し、指で押すとぷにぷにと柔らかい。ビスコーサは硬葉系で、葉は硬く、窓はありません。属も系統も違うので、片方をもう片方の一種として呼ぶことはできません。
ただし、この呼び名を使う人を責める話ではありません。流通名は正式な学名とは別のルールで動きますし、姿から連想して名前が付くこと自体はごく自然です。問題になるのは、その名前を手がかりに育て方を調べたときです。オブツーサは葉がやわらかく、窓を透かして光を採る植物なので、光と水の扱いが硬葉系とは違います。「三角オブツーサ」で検索して出てくるオブツーサの育て方をそのまま当てると、前提がずれます。本物のオブツーサについてはオブツーサの頁と、その親種であるクーペリーの頁にまとめてあります。
「五重の塔」は、もっと込み入っています。この名前で流通する植物の学名 Haworthiopsis ×tortuosa について、GBIF は交雑起源を示す「×」を付けた受理名として扱い(基になった名前は 1804 年の Aloe ×tortuosa、出現記録は 25 件)、一方でSANBI レッドリストは Haworthia tortuosa をビスコーサのシノニムとして列挙しています。同じ名前が、一方では別のタクソン、他方ではビスコーサそのものという状態です。どちらを誤りともせず、扱いが割れている事実として書きます。なお GBIF は交配親を記録していないので、何と何の交配かは書きません。
選抜個体の名前は、事実として受け取ります。サイト内の名前の対照表には、ビスコーサの流通名として「ダルマビスコーサ」「竜城」が載っています。これらの由来を記した一次資料は確認できませんでした。選抜個体は、その株がどういう来歴で選ばれたかを外から確かめる手立てが、ふつうありません。こうした名前は「そう表示されている」という事実として受け取り、同定の根拠にはしない扱いにしています。
斑入りや園芸銘についても、扱いを分けています。園芸銘の正式名は日本ハオルシア協会(ISHS が指定する国際栽培品種登録機関 = ICRA)の登録名が正になります。価格については、この頁では扱いません。平均落札価格は掲載していません。
最後に、Wikimedia Commons の在庫から気づいた注意点をひとつ。この種のカテゴリには 21 枚の写真がありますが、そのうち 4 枚には「交雑」「変種か交雑か不明」「別属と誤ラベル」といった注記が付いています。公開されている写真ですら、5 枚に 1 枚は同定に留保が付いているということです。売り場の株のラベルが揺れていても不思議ではありません。名前が一致しないことを、そのまま「偽物」と受け取らない——この植物では、その構えが役に立ちます。
まとめ
Summary
270 年ぶんの名前と、三列というひとつの並び
ビスコーサは、硬い三角の葉が三列に重なって柱をつくる硬葉系のハオルチアです。この「三列」は印象ではなく、1821 年に Haworth が立てた節 Trifariae の名前そのもので、2016 年に Haworthiopsis 属へ引き継がれました。名前はリンネの 1753 年にさかのぼり、270 年で 6 つの属を渡っています。硬葉系の見分けが「葉の模様」で語られてきたなかで、この種だけは「葉の並び」で見ます。
並びで見る唯一の種模様(窓・疣・格子・隆条)ではなく、三列という配列が識別形質
属内で最も古い名前受理種 19 のうち、リンネ由来のバシオニムを持つのは本種だけ
記録は属内最多GBIF 415 件。西ケープ州で属内最多の記録を持つ
三列だけでは決まらない専門家でも Astroloba と取り違える。候補までしか出さない
- ビスコーサの現行の受理名は Haworthiopsis viscosa (L.) Gildenh. & Klopper(Phytotaxa 265: 18, 2016)です。基になった名前はリンネが 1753 年 5 月 1 日に Species Plantarum で発表した Aloe viscosa で、Haworthiopsis の受理種 19 のうちリンネ由来の名前を持つのは本種だけでした
- 「三列」は 1821 年に Haworth が立てた節 Trifariae(= 三列の)の名前で、2016 年に Gildenhuys & Klopper が Haworthiopsis へ引き継ぎました。Haworth は同じ 1821 年 49 頁でビスコーサの変種 3 つを発表しています
- 名前は Aloe(1753)→ Apicra(1811)→ Haworthia(1812)→ Catevala(1891)→ Tulista(2013)→ Haworthiopsis と 6 属を渡りました。売り場でよく見る Haworthia viscosa は 1812 年の組み合わせです
- 著者引用が資料で割れます — 同じ組み合わせが Rowley(2013)・Gildenhuys & Klopper(2016)・Breuer(2016)から 3 度発表され、GBIF は Gildenh. & Klopper を、SANBI は G.D.Rowley を使っています。誤りではなく、採用する整理が違うだけです
- シノニムの数は SANBI 39 / IPNI 18 / GBIF 6 と 6 倍以上ちがいます。これは見解の違いではなく集計の単位の違いです
- 自生地は南アフリカ固有。SANBI は東ケープ・北ケープ・西ケープの 3 州を挙げますが、GBIF の記録では西ケープ 196 / 東ケープ 109 で、北ケープは 0 件。本記事は両方を併記します
- GBIF の出現記録 415 件は Haworthiopsis 19 種のなかで最多でした。ただし件数は記録の多さであって、個体数でも分布の広さそのものでもありません
- 緑の株と真っ赤な株は同じ種です。この記事の 4 枚は、屋内の鉢がもっとも緑、野外の株がもっとも赤く写っています。1946 年には var. viridissima(いちばん緑の)という変種名も立てられましたが、現在はシノニムです
- 本種だけを対象にした公的機関の栽培解説は確認できませんでした(SANBI PlantZAfrica に頁が無く、GBIF の記述も 0 件)。草丈・葉の寸法・耐寒温度は要確認として扱い、数値を書きません
- 保全評価は南アフリカ国内で LC(軽度懸念・2014 年評価・個体群は安定)、GBIF が持つ IUCN のカテゴリは未評価(NE)です
- 「三角オブツーサ」はこの植物を指す名前としては成り立ちません。オブツーサは軟葉系の Haworthia cooperi var. truncata で、属も系統も違います
- 見分けは候補と「次に見る所」までを示す形で扱っており、見分けの記事は見分け方ガイドにまとめています
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FAQ
「三角オブツーサ」という名前で買いました。オブツーサの一種ですか?
いいえ、別の植物です。オブツーサは軟葉系の Haworthia cooperi var. truncata で、葉の先端が半透明の窓になり、葉はやわらかく厚みがあります。ビスコーサは硬葉系の Haworthiopsis viscosa で、葉は硬く、窓はありません。属も系統も違うので、片方をもう片方の一種として扱うことはできません。姿から付いた呼び名だと考えられますが、この名前で育て方を調べると軟葉系の情報に当たってしまい、光と水の前提がずれます。
ビスコーサの学名は結局どれが正しいのですか?
国際的な照合先である GBIF Backbone が現在受理しているのは Haworthiopsis viscosa (L.) Gildenh. & Klopper です(2026-08-14 実測)。ただし同じ組み合わせが 3 人から 3 度発表されており(Rowley 2013 / Gildenhuys & Klopper 2016 / Breuer 2016)、南アフリカのレッドリストは (L.) G.D.Rowley のほうを使っています。どちらかが誤りという話ではなく、どの発表を有効とみなすかの判断が分かれているということです。ここでは GBIF の受理状況を採用しつつ、別の表記が公的機関で使われている事実も書いています。
葉が三列に並んでいれば、ビスコーサと考えてよいですか?
候補には入りますが、決め手にはなりません。葉が列に並んで柱をつくる姿は、別属の Astroloba(アストロロバ属・受理種 13)にも共通します。この記事に載せた自生地の写真は、iNaturalist で同定者の 1 名が最初 Astroloba と同定し、のちに撤回した観察です。また Wikimedia Commons には「Astroloba spiralis と誤ラベルされていた」というファイル名の写真も実在します。現地で実物を前にした人でも取り違える組み合わせなので、写真からの断定はできません。
葉が赤や茶色になってきました。枯れかけですか?
この記事に載せた 4 枚の写真では、野外・野生の株がもっとも赤く、屋内の鉢植えがもっとも緑に写っています。1 枚のなかで緑の株と赤い株が並んでいる写真もあります。色の幅が大きい種だということは言えますが、「何℃・何ルクスで赤くなる」という数値は出典が無く、書けません。葉が縮んで張りを失っているなら水の不足も考えられるので、色と形をセットで見るのが実際的です。光と葉色の一般的な関係は育て方の記事にまとめています。
図鑑の写真のように三列に見えません。別の種でしょうか?
この記事の 07 章に、葉が伸びて三列の稜が読み取りにくくなった鉢植えの写真を載せています。植物園の掲示ではビスコーサとされている株です。同じ名前でも、こう見える株があるという事実として置いてあります(栽培条件の記録が無いため、別種とも徒長とも判断できません)。「図鑑の写真と手元の株が違う」ときに、まず疑うのは品種ではなく置き場所や光の量、という順序をおすすめします。
何℃まで耐えられますか?
最低でも 3〜5℃ を下回らせないのが実用の線です(ハオルチア属全体の一般的な指針)。本種に固有の耐寒限界を示す信頼できる一次情報は確認できていません。硬葉系の頁は SANBI の PlantZAfrica にある種ごとの解説を土台にしていますが、ビスコーサにはその頁が存在しません(2026-08-14 に確認。同属の瑠璃殿・アテヌアータ・竜鱗は開きます)。自生地のカルーは内陸の乾燥地ですが、それは南アフリカの気候区分であって、日本の屋外で越冬できるという意味ではありません。
「五重の塔」はビスコーサのことですか?
資料によって扱いが割れます。GBIF は Haworthiopsis ×tortuosa を、交雑起源を示す「×」を付けた受理名として扱っています(出現記録 25 件・基になった名前は 1804 年の Aloe ×tortuosa)。一方、南アフリカのレッドリストは Haworthia tortuosa をビスコーサのシノニムとして列挙しています。つまり一方では別のタクソン、他方ではビスコーサそのものです。どちらを誤りともせず、割れている事実として書きます。GBIF は交配親を記録していないため、何と何の交配かは書きません。
ビスコーサは絶滅危惧種ですか?
南アフリカ国内の評価では Least Concern(LC / 軽度懸念)とされています(査定は L. von Staden、2014 年 3 月 27 日。評価理由は「広く分布しており絶滅の危機にない」、個体群動向は Stable)。一方、GBIF が保持する IUCN のカテゴリは NOT EVALUATED(未評価)です。本種は南アフリカ固有なので国内評価の範囲と分布域はほぼ一致しますが、国際的な評価はまだ行われていないという点は分けて受け取ってください。
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出典
- GBIF Backbone Taxonomy — Haworthiopsis viscosa (L.) Gildenh. & Klopper(taxonKey 9374435・status ACCEPTED・Phytotaxa 265: 18, 2016)。バシオニム Aloe viscosa L.(taxonKey 2780168・Sp. Pl.: 322, 1753)、種階級のシノニム 6 件、受理変種 2、IUCN カテゴリ NOT_EVALUATED。2026-08-14 照会: gbif.org
- GBIF Backbone — Haworthiopsis 属(genusKey 9233780)の受理種 19 と、各種の出現記録件数・南アフリカ国内の州別内訳。Haworthiopsis ×tortuosa(taxonKey 9366899・ACCEPTED・Phytotaxa 265: 22, 2016・記録 25 件)、Astroloba spiralis (L.) Uitewaal(taxonKey 2778292・バシオニム Aloe spiralis L.)。2026-08-14 照会: gbif.org
- GBIF Occurrence — 出現記録 415 件、国別(南アフリカ 323 / 不明 33 / 米国 4 / ベルギー 2 / フランス 1・ナミビアは 0)、南ア州別内訳(西ケープ 196 / 東ケープ 109 / ハウテン 5 ほか)、記録種別、年別(1829〜2026・2020 年代 217 件)、データセット別(iNaturalist 259 ほか)。2026-08-14 照会: gbif.org
- SANBI 南アフリカ植物レッドリスト — Haworthiopsis viscosa の国内評価 Least Concern(査定 L. von Staden、2014-03-27、レッドリスト版 2014.1)、個体群動向 Stable、南アフリカ固有、分布州(東ケープ・北ケープ・西ケープ)、分布範囲、生育地(Rocky karroid slopes, quartz patches and dry fynbos)、植生区分、アフリカーンス名 Koedoekos / Kuduskos、シノニム 39 件、参考文献 7 件。2026-08-14 照会: redlist.sanbi.org
- IPNI(国際植物名索引)— Aloe viscosa L. の原記載書誌(Sp. Pl. 1: 322, 1753 年 5 月 1 日): ipni.org / Haworthia viscosa (L.) Haw.(Syn. Pl. Succ. 90, 1812): ipni.org / Haworthiopsis viscosa (L.) Gildenh. & Klopper(Phytotaxa 265(1): 18, 2016-06-09): ipni.org
- IPNI — 節の書誌。Haworthiopsis sect. Trifariae (Haw.) Gildenh. & Klopper(Phytotaxa 265(1): 16, 2016): ipni.org / その基礎名 Haworthia sect. Trifariae Haw.(1821, 49 頁): ipni.org。Haworth が同じ 1821 年 49 頁で発表した H. viscosa var. major / var. minor / var. parvifolia、G.G.Smith の var. cougaensis(1945)/ var. viridissima(1946)/ var. quaggaensis(1948)、Pilbeam の 5 型(1983, Haworthia & Astroloba: Collector’s Guide 141)、Halda の 2 亜種(1998)、Breuer の var. variabilis(2003)も同索引で確認
- Gildenhuys, S.D. & Klopper, R.R. 2016. Phytotaxa 265(1)— Haworthiopsis 属の記載拡張と 6 節(sect. Attenuatae 11 / Koelmaniorum 12 / Limifoliae 13 / Tessellatae 14 / Trifariae 16 / Virescentes 19)、7 つの新組合せ(H. viscosa を含む)と 2 つの階級変更(H. viscosa var. variabilis を含む)。抄録と書誌を 2026-08-14 に確認(本文は購読制のため未参照): doi.org
- iNaturalist — Haworthiopsis viscosa(taxon 586827)の観察 368 件、うち野生 329 / 栽培 39 / リサーチグレード 318、南アフリカからの観察 330(2026-08-14 実測): inaturalist.org。本記事の自生地写真の観察と同定履歴(Astroloba 同定の撤回を含む): iNaturalist 観察 91416782
- Wikimedia Commons — Category:Haworthiopsis viscosa(ファイル 21 件 + サブカテゴリ 1。うち 4 件に交雑・誤ラベルの注記)。旧名カテゴリ Haworthia viscosa は空。各画像のライセンス版と作者は API で個別に実測
- 本記事が参照した分類整理の一次文献: Rowley, G.D. 2013. Alsterworthia International Special Issue 10 / 13(2)/ Breuer, I. 2016. Alsterworthia International 16(2)/ Gildenhuys, S.D. & Klopper, R.R. 2016. Phytotaxa 265 / Bayer, M.B. 1982. The New Haworthia Handbook. National Botanic Gardens / Raimondo, D. et al. 2009. Red List of South African Plants. Strelitzia 25(いずれも GBIF / IPNI / SANBI の書誌欄に記載。原典は直接参照しておらず、記述はデータベースの登録内容にもとづきます)
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扉の写真: Photo: Daderot / CC0, via Wikimedia Commons(CC0 のため帰属は任意ですが、慣行として明記しています)
本文中の 3 枚(03 章・06 章・07 章)の帰属は各 figure のキャプションに記載しています。サイト全体の画像出典は画像クレジットにまとめています。


















