万象14 章約32分で読めます
ハオルチア万象の育て方と見分け方|丸い窓の紋を楽しむ
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万象Haworthia truncata var. maughanii / まんぞう
魅力丸く並ぶ窓に浮かぶ、白い紋育て方を見る →
丸い窓が寄り集まり、その面に白い紋が浮かぶ。万象は、上から眺める時間が長くなるハオルチアです。
一本の線が枝分かれする窓、地色が広く見える窓。葉ごとの違いを追うと、小さな鉢が一枚のモザイクに見えてきます。
玉扇との配列の違いを確かめながら、育て方、名前と園芸銘の世界へ進みましょう。
万象の見どころ — 丸く集まる窓と、白い紋
観察
全株の中心から、周りの窓を一枚ずつ追う
全体の位置 → 同じ写真の拡大

- 中央の葉内側の窓から外側へ、葉の並びを追う。
- 左の大きな窓白い線と、丸みを帯びた輪郭を見る。
- 手前の窓枝分かれする紋と、その下の側面を見る。


窓の紋を眺めたら全株へ戻り、中心の周りへの並びを確かめます。
同じ栽培株の写真。葉の列数や成長速度を測った図ではありません。 部分拡大は上の同じ写真から。番号は場所を示します。
Photo: Abu Shawka / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(部分拡大)
手前の窓では白い線が分かれ、中央の窓では輪郭の丸みが目に入ります。少し視点を下げると、窓の下には厚い葉の側面。
窓を地面と揃えるために深植えする必要はなく、鉢ではこの立体的な姿も楽しめます。
見どころと育て方
- 丸い窓の紋と、らせん状の葉を見る
- 玉扇と万象は、葉の配列を見比べる
- 玉扇の資料にある栽培条件を万象へ転用しない
育て方 — 窓の高さより、株元と鉢の状態を見る
万象を育てる
かんたん派
すること葉まで埋めず、排水のよい鉢で管理する
楽しみ方丸く並ぶ窓を眺めるなら、株元を確認できる植え方から。
万象へ使える管理の範囲
SANBIのハオルチア属解説にある半日陰を出発点に、鉢の排水を整えます。PlantZAfricaの玉扇(var. truncata)頁にある冬雨・根・花期・繁殖の数値は、万象(var. maughanii)専用の条件ではありません。
鉢は根を見て選ぶ
窓が低いほど光や排水がよくなるわけではありません。根の現状を確認して鉢を選び、受け皿に水を残さず管理します。
鉢・用土の選び方へ。
季節と乾き方を合わせる
同じ曜日に水を足すより、生育の様子と用土の乾きを確認します。この分類群に固有の耐寒限界は示されていません。
凍結を避け、夜の窓際の冷えと鉢の乾き方を確認します。季節の育て方も参照してください。
同定は写真だけでは決まらない — 次に見る 4 か所
観察
万象の広がりと、玉扇の二列を比べる
掲載写真の同じ部位を比較

株全体の配列 → 一枚の輪郭 → 窓の紋の順で比べます。
別株どうしの観察例。丸い一枚だけで名前を決めず、成株の並びと来歴も見る。 写真は共通縮尺ではありません。
万象の別の掲載株:Photo: Consultaplantas / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
玉扇の掲載株:Photo: Salicyna / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
写真 1 枚で決めない — 手元の株の確度を上げる 4つある観察点
01 葉の並び ARRANGEMENT
万象の候補
中心から回るらせん状。上から見た輪郭が円に近い
別を疑う所
左右 2 列に並ぶなら玉扇(var. truncata)側
限界
境界域には中間的な並びの個体が知られている
02 切断面の輪郭 OUTLINE
万象の候補
丸〜ハート形に近い輪郭
別を疑う所
横長の長方形に近ければ玉扇側
限界
若い株・徒長した株では輪郭が崩れる
03 紋の走り方 PATTERN
万象の候補
丸い面の中で放射・網目状に走る
別を疑う所
葉先が尖り、面に格子状の粒が並ぶなら別の群
限界
紋は株ごとの違いが大きく、単独では決め手にならない
04 記録の有無 PROVENANCE
万象の候補
産地・親株・入手経路の記録が残っている
別を疑う所
名札しか手がかりが無い
限界
名札は書いた人の判断であって、検証済みの同定ではない
この表は「答え」ではなく「次に何を見るか」の表です。そう書く理由ははっきりしています。
万象と玉扇は同じ種の 2つある変種であり、しかも両者の分布が接する境界域には、自然にできた中間個体や雑種が存在すると記述されているからです。境界に連続的な個体がいる以上、「上から見て丸いから万象」は候補の提示であって、判定ではありません。
各写真のキャプションに「Commons では〜として掲載」「iNaturalist に〜として投稿された」と書いているのは、誰の判断による同定なのかを示すためです。後半の自生地の 1 枚以外は、すべて撮影者・投稿者による同定にもとづきます。
名札は学名や来歴、出品票は出品時の情報をたどる手がかりです。写真の窓と配列に加えて、親株・実生・株分けの記録を確認します。
名札だけで同定を確定することはできませんが、記された採集・親株・増殖記録は照合に使えます。販売者に確認して、入手時の写真と一緒に残しましょう。
混同注意
「万象錦」として流通する斑入りの個体は、資料では var. maughani f. variegata hort. のように表記されます。末尾の hort. は園芸上の呼び名であることを示す記号で、学術的に記載された分類群ではありません。
斑の入り方は個体の性質であり、分類学的な地位を持つものではない、という前提で扱ってください。
入手時の注意
買う前に確かめたい 3 つ
FIG.04Checklist
CHECK 1
名札より窓を見る
名札は書いた人の判断であって検証済みの同定ではない … 上から見た輪郭・紋の走り方・葉の締まりを自分の目で確かめる
CHECK 2
光の角度が違う写真を見る
紋は光の当て方で飛んだり浮いたりする … 1 枚の写真だけで判断すると、届いた株の印象が違うことがある
CHECK 3
実生株・国内栽培株を選ぶ
種としての H. truncata には愛好家による採集圧が公的に指摘されている … 出所を説明できる販売者から買う
この図鑑は価格の代表値・平均値を掲載しない。集計条件で印象が大きく変わる数値であり、現時点では誠実に示せないと判断しているため
窓の紋と配列を見たら、名札の学名、親株や増殖の記録を確かめます。気に入った形と由来を一緒に選ぶと、入手後も調べる楽しみが続きます。
Haworthia maughanii と書かれていても H. truncata var. maughanii と書かれていても、指している植物は同じです。名札から読み取れるのは「売り手がどの資料を見ているか」であって、株の質ではありません。
なお、店頭や検索で見かける「万像」は「万象」の誤表記で、指している植物は同じです。紋の走り方、上から見た輪郭の丸さ、葉が徒長せず締まっているか、見て確かめられることのほうが確実です。
和名・学名・流通名の対応は名前の対照表で確かめることができます。
流通の規模については、件数だけを示します。オークションの落札履歴を検索できるオークフリー(aucfree)で「万象 ハオルチア」を検索したところ、直近 30 日の落札は 240 件でした(2026-07-24 取得)。
これは検索一致の総件数であり、表記揺れや別品種の混入を含む参考値です。示した件数は取得時点の値であり、価格や入手可能性を保証するものではなく、外れ値の補正も行っていません。
この図鑑はオークフリーなどの落札履歴から平均価格を算出して掲載することはしません。1 件の高額な落札で代表値が大きく動くためです。
それでも 1 つだけ書いておく価値があるのは、同じ検索語の中に、気軽に手が届く普及個体と、桁がいくつも違う銘品が同居しているという構造です。後半の銘の節で扱うように、この差を生んでいるのは種でも変種でもなく銘と個体です。
「万象の相場はいくらか」という問い自体が、実は成立しにくい、万象を買うときに知っておくと役に立つのは、この点だと思います。
SANBIレッドリストの2022年評価は種Haworthia truncataをVUとし、野外採取や生育地の減少を挙げています。これはPlantZAfricaの基本変種var. truncataの解説とは別の資料です。
現行レッドリストの万象var. maughaniiはNEで、種H. truncataの評価を参照する扱いです。購入時は販売株の親株や増殖の由来を確認します。
基本情報 — 学名・自生地・耐寒性
万象の基本データQuick Spec
学名データ・出典の範囲
| 受理名 | Haworthia truncata Schönland var. maughanii (Poelln.) B.Fearn(1966) |
|---|---|
| 流通する旧名 | Haworthia maughanii Poelln.(1932)= 基礎異名 |
| 科 | ツルボラン科(Asphodelaceae) |
| 属の扱い | Haworthia のまま(Haworthiopsis / Tulista へは移っていない) |
| 和名・読み | 万象(まんぞう)。「ばんしょう」表記も流通 |
| 葉の並び | らせん状の円形ロゼット(玉扇 = var. truncata は左右 2 列の扇) |
| 自生地 | 南アフリカ 西ケープ州 Little Karoo(小カルー)・Calitzdorp の南側の狭い範囲 |
| 野生記録の数 | GBIF 全 27 件(南アフリカ 11 件)/ iNaturalist 16 観察 |
| 保全評価 | Not Evaluated(SANBI Red List 2024.1・変種は個別評価せず種を参照) |
| 冬の確認 | 夜間最低温度を測り、凍結を避ける。冬の置き場所と個別資料を確認 |
いま国際的なデータベースが受理している学名は、Haworthia truncata var. maughanii です。この組み合わせを公表したのは B.Fearn で、1966 年 3 月の National Cactus and Succulent Journal 21 巻 1 号 28 頁が出典です(国際植物名索引 IPNI の登録 ID 60468368-2)。
国際的な生物多様性データベース GBIF でも、この名前が受理名(usageKey 8309276・階級は変種)として登録されています。園芸の現場で見る Haworthia maughanii という名前が誤りというわけではなく、それが 1932 年に von Poellnitz が独立種として記載したときの名前だというだけです。
この経緯は次章で年表にします。
ここで先に片づけておきたいのが、属の扱いです。「万象はハオルチアの硬葉系の代表種」という説明を見かけることがありますが、これは現在の分類とかみ合いません。
2013〜2014 年の再編で、十二の巻やアテヌアータのような硬葉系は Haworthiopsis 属へ、大型で硬い一群は Tulista 属へ分けられました。万象と玉扇はこの移動の対象にならず、Haworthia 属に残っています。
実際、Haworthiopsis maughanii や Tulista maughanii という組み合わせは存在しません。葉が肉厚で硬く見えることから硬葉系だと説明されたのだと思われますが、属の所属は葉の手ざわりで決まるものではありません。
自生地は南アフリカ・西ケープ州の Little Karoo(小カルー)、Calitzdorp の南側にあるごく限られた範囲です。英語版 Wikipedia の Haworthia truncata の項では、var. maughanii の分布が「Calitzdorp 近くの狭い限定的な範囲」であり、基準変種 var. truncata(玉扇)の自然分布のはるか西端にあたると記述されています。
同じ記述には、両変種の境界域に自然の中間個体や雑種が存在することも書かれています。境界に連続的な個体がいることは、あとの見分けの章にそのまま効いてきます。
万象に固有の耐寒限界は確認できていません。SANBIの玉扇var. truncata頁にある冬雨カルー・軽い霜という園芸帯は、万象var. maughaniiの温度限界ではありません。
夜間最低温度を確認し、凍結を避けながら冬の置き場所と水やりを整えます。
SANBIが冬に雨の降る地域と説明するのはvar. truncataの生育地です。この別変種の季節性から、万象を日本で育てるときの夏と冬の危険度に順位は付けられません。
暑い時期も寒い時期も、置き場所の気温・鉢の湿り・株の生育状態を確認します。
分類上の位置づけと関連資料
真上から窓の並びを見たら、斜めから厚い葉の側面も眺めてみましょう。窓と側面が一枚の葉として続く形を楽しめます。
真上では丸い窓と模様、斜めからは窓の下へ続く葉の厚みが見えます。どちらも万象の株姿を観察する角度です。
上の写真は、そのことをいちばんよく示しています。同じ場所で育っている株なのに、窓に走る白い紋の太さ・向き・密度がまったく揃っていません。
太い帯が何本も走る株、細い線が網のように広がる株、ほとんど無地に近い株が同居しています。この個体ごとのばらつきこそが、万象という植物が長いあいだ収集の対象になってきた理由です。
ハオルチアの品種と系統の全体像で整理したとおり、ハオルチアには窓の透明度を競う一群がありますが、万象で競われるのは透明度ではなく、その窓に何が描かれているかです。
葉の並び方にも特徴があります。万象の葉はらせん状に、中心から回りながら出てきます。
だから上から見た輪郭は円に近くなり、丸い窓が寄り集まったモザイクのように見えます。この「らせん状に並ぶ」という性質は、ごく近い関係にある玉扇(ぎょくせん)と見比べると、いちばんはっきりします。
上から見た形丸いモザイクなら万象、左右 2 列に並んだ扇なら玉扇が候補になります。ただし両者は同じ種の 2 変種で、自生地の境界には中間的な個体も知られているため、これだけで言い切ることはできません。
左(万象): Commons では Haworthia truncata var. maughanii として掲載。Photo: Consultaplantas / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
右(玉扇): Commons では Haworthia truncata として掲載。Photo: Salicyna / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
万象と玉扇は、別々の植物ではなく同じ種の 2つある変種です。学名で書くと Haworthia truncata var. maughanii(万象)と Haworthia truncata var. truncata(玉扇)で、種の部分が共通しています。
玉扇そのものの「型」や流通名の対応関係は、この頁では扱いません。見分けの詳細は玉扇(ハオルチア・トランカータ)の記事にまとめてあるので、そちらを参照してください。
この記事はここから先、万象そのものの窓と名前と流通に絞ります。
名前の三層 — 1932 年・1966 年・1997 年
万象は、資料ではH. truncataの変種として扱われます。古い名札は次の年表へ。
学名と分類の来歴を読む
万象をめぐる名前の三層 — 独立種 → 変種 → もうひとつの変種
FIG.01Timeline
第 1 層 記載
Haworthia maughanii Poelln. — 独立した種として世に出る
Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 31: 85(1932)。日本の流通・図鑑サイトの表記はほぼこの層で止まっている。GBIF では基礎異名(basionym)として登録
第 2 層 組み替え
H. truncata var. maughanii (Poelln.) B.Fearn — 玉扇の変種になる
Natl. Cact. Succ. J. 21(1): 28, fig. 4(1966 年 3 月)。IPNI ID 60468368-2。これが GBIF・POWO・SANBI の受理名(usageKey 8309276 / rank=VARIETY)
第 3 層 重複
H. truncata var. maughanii (Poelln.) Halda — 同じ組み替えが別途公表される
Acta Mus. Richnov., Sect. Nat. 4(2): 51(1997)。IPNI ID 1006914-1。GBIF では異名(synonym)扱い。受理されるのは先に出た B.Fearn 版
名前・記載者・年・出版元はすべて国際植物名索引(IPNI)と GBIF backbone の登録情報にもとづく(2026-07-24 取得)
書誌年表
1932年に独立種H. maughaniiとして発表され、1966年に種H. truncataの変種へ組み合わされました。1997年のHaldaの組合せも、その命名史の記録として表に残っています。
maughaniiを独立種として扱うか、種H. truncataに含めるかという分類上の判断です。基本変種var. truncataの中に万象を置くという意味ではありません。
三層目の Halda 版が異名になっているのは、内容が間違っているからではありません。同じ組み替えは先に公表したほうが有効になるという命名規約の原則によるもので、1966 年の B.Fearn 版がすでに存在した以上、1997 年の公表は後追いになります。
手元の資料に H. truncata var. maughanii (Poelln.) Halda と書かれていても内容は同じ植物を指しますが、データベースを引くときは B.Fearn 版で照会するほうが確実です。
| 名前 | 記載者・年 | 出版元 | いまの扱い |
|---|---|---|---|
| Haworthia maughanii | Poelln. 1932 | Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 31: 85 | 基礎異名(basionym)。流通表記はほぼこれ |
| H. truncata var. maughanii | (Poelln.) B.Fearn 1966 | Natl. Cact. Succ. J. 21(1): 28, fig. 4 | 受理名(GBIF usageKey 8309276 / IPNI 60468368-2) |
| H. truncata var. maughanii | (Poelln.) Halda 1997 | Acta Mus. Richnov., Sect. Nat. 4(2): 51 | 異名(synonym)。IPNI 1006914-1 |
| Haworthia maughani(綴り違い) | Poelln. 1932 | Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 31: 85 | 1 行目と同じ名前だが末尾の i が 1 つ。IPNI はこの綴りで索引している(ID 536125-1)。表記ゆれ |
| var. maughani f. variegata hort. | — | — | 園芸形(万象錦)。学術的な記載ではなく園芸上の呼び名 |
ハオルチアは何種あるのか — 主要 3 見解の併記
統合派 BAYER
種数
約 60 種
立場
変異の幅とみてまとめて数える
万象で言えば
種H. truncataに含まれる変種として扱う
中間 BREUER
種数
約 366 種
立場
やや細かく分ける
万象で言えば
名前を細かく立てる側の資料に旧名が残りやすい
細分派 HAYASHI
種数
約 546 種
立場
さらに細かく分ける(林)
万象で言えば
独立種 H. maughanii の表記が生き続ける立場
記載と照合の詳細
表の下 2 行は、上 3 行とは性質が違います。末尾の i が 1 つになった maughani は 1 行目とまったく同じ 1932 年の名前で、IPNI がこの綴りを見出しに採っているのに対し GBIF は maughanii を採っています。
どちらかが誤記というより索引ごとの表記ゆれなので、検索するときは両方試す価値があります。もう 1 行の「万象錦」にあたる f. variegata hort. は、末尾の hort. が示すとおり園芸の世界で使われている呼び名であって、学術的に記載された分類群ではありません。
斑入りの個体が高値で取り引きされることと、その名前が分類学的な地位を持つかどうかは、まったく別の話です。
ではなぜ「独立種か、変種か」で研究者の判断が分かれるのか。それは、ハオルチアという属をどれくらい細かく分けるかについて、いまも複数の立場が並立しているからです。
ハオルチアの種数は、数える人によって 60 から 546 まで開きます。これは誰かが間違えているというより、この属が変異に富みすぎていて、どこに線を引くかの合意ができていないということです。
この頁は「いま何が受理名か」と「その名前がどの立場から出てきたか」を並べています。ラベルに Haworthia maughanii と書いてあっても、それは古い名前というより、細分する立場の表記が生き続けていると読むほうが実態に近いはずです。
窓は何をしているのか
別の掲載株の窓と側面を詳しく見る
02
窓と側面は、同じ葉の続き
掲載された万象の実写真を観察

- 窓の面丸みのある上面と、その輪郭を見る。
- 厚い側面窓の下へ続く濃い緑の面を見る。
- 白い筋中央の窓で、線が分かれる位置を追う。
葉の先が水平に切れているのは、切られたからではありません。初めて万象を見た人がほぼ決まって口にするのが「これ、上を切ってあるんですか」という質問です。
切ってありません。この植物は最初からこの形で伸びます。
そして切断面のように見えるこの平らな面が、光を取り込むための「窓」です。補足の写真では、丸い上面に細い脈が見え、その下へ厚い側面が続きます。
窓は葉の内部へ光が届く面。掲載写真では丸い端面と、そこから下へ続く厚い葉を観察できます。
SANBIのvar. truncata頁は玉扇を扱うため、その根系や生育地の条件を万象へそのまま移しません。
記載と照合の詳細
窓と葉の側面は、同じ葉の続きです。野外で地表近くに窓が並ぶ姿と、鉢で葉の側面が見える姿を比べて楽しみましょう。
植え込みを深くする指示ではありません。
窓の面に走る白い紋も、この構造と切り離せません。紋は窓の内側の組織が透けて見えているもので、表面に絵の具で描かれているわけではありません。
だから拭いても取れませんし、拭こうとすれば表面を傷めるだけです。後半の自生地の写真では、窓の面が粒状にざらついていることも確認できます。
掲載した野外写真では窓面に粒状の質感が見えます。鉢の株でも、磨いたガラスのような透明さだけでなく、窓の筋や表面をそのまま眺めましょう。
紋 — 万象の鑑賞はここを見る
窓に走る紋 — 流通で使われる呼び名と、見ている特徴
FIG.03Pattern
PATTERN 1
羽紋(うもん)
中央の軸から左右へ細い線が羽のように分かれて走る … 見ているのは「主脈があるか」と「そこから枝分かれするか」
PATTERN 2
雷紋(らいもん)
線が直線的に折れながら走り、稲妻のように角を持つ … 見ているのは「線が曲がるか折れるか」
PATTERN 3
太紋(ふともん)
線ではなく幅のある帯として白が乗り、窓の面積を大きく占める … 見ているのは「白の面積比」
PATTERN 4
柴紋(しばもん)
細い線が高い密度で絡み合い、網や柴垣のように見える … 見ているのは「線の密度と交差の多さ」
PATTERN 5
緑紋(みどりもん)
白がほとんど乗らず、窓が緑のまま透ける … 見ているのは「白が入らないこと自体を評価するか」
呼び名は流通で使われている語を整理したもので、日本ハオルシア協会などによる公式な定義は確認できていない。実際の株は複数の型が混ざることが多く、この 5 つに必ず収まるわけではない
紋の呼び名は、学術的な分類ではなく流通の語彙です。羽紋・雷紋・太紋・柴紋・緑紋といった言葉は販売サイトやコレクターの記述で見かけますが、公式に定義された用語集は見つかりません。
ですからこの図解は「正しい分類」ではなく、窓を見るときにどこへ目を向けるかの軸として読んでください。線が枝分かれしているか、折れているか、幅があるか、密に絡んでいるか、そもそも入っていないか、見るべき場所さえ決まれば、株ごとの違いは自分で追えるようになります。
実際の株は、この 5つあるどれかにきれいに収まることのほうが少数です。中央は太い帯なのに周縁は細い網目、という株はごく普通にあります。
紋は品種の名前ではなく、個体の顔だと考えてください。
記載と照合の詳細
掲載写真では赤紫の地色と、窓に走る白い線が見えます。色の原因を写真から決めず、線の分かれ方と窓の輪郭を観察します。
写真では照明や反射によって線の見え方が変わります。販売株を比べるときは、同じ株を別の角度から写した写真があると、模様を確かめやすくなります。
買う前に、可能なら光の角度を変えた写真を確認するのが確実です。
銘と品評会 — 同じ万象で価値が分かれる理由
同じ「万象」という名前で、価格が桁で違うことがあります。そしてその差を生んでいるのは、種でも変種でもありません。
個体に付けられた「銘(めい)」という、分類とはまったく別の層です。上の写真のように、時間をかけて育てた大株が品評会で評価される文化があり、優れた個体には固有の名前が与えられ、その名前が付いた株の子孫が取り引きされていきます。
学名は植物の種類を指し、銘は個体の系統を指す、この 2 つは重なりません。
LAYER 1 / 種
Haworthia truncata
植物としての種類を指す層。玉扇も万象もここは共通 … 決めるのは分類学。データベースで検証できる
LAYER 2 / 変種
var. maughanii
種の内側の地理的・形態的なまとまりを指す層 … 決めるのは分類学。ここまでが学名の世界
LAYER 3 / 銘
個体に付けられた名前
特定の 1 個体とその系統を指す層 … 決めるのは園芸の世界。価格の桁を分けているのはここ
この 3 層は、決める人も、検証のしかたも違います。上 2 層は分類学の領域で、記載した文献をたどれば誰でも確認できます。
しかし 3 層目の銘は園芸の領域にあり、誰がいつどの個体に付けたかという履歴がすべてです。同じ var. maughanii でも、銘の付いた系統とそうでない株がまったく違う値段で動くのは、この層が独立して価値を持っているからです。
記載と照合の詳細
銘の正式な扱いについては、はっきりした基準があります。Haworthia 属(および Astroloba・Chortolirion)の栽培品種の国際登録機関(ICRA)は、日本ハオルシア協会です。
国際園芸学会(ISHS)が公開している ICRA の一覧に、登録担当者(林雅彦氏・愛知県豊川市)と 2014 年の任命という情報とともに記載されています。つまり万象の銘は、日本の団体が国際的な登録機関として管理している領域です。
ハオルチアの園芸文化において日本語圏が特別な位置にある、というのはこの事実にもとづく話です。
流通では福竜・ミレニアム・翡翠龍・紫翠といった銘の付いた出品が見られますが、協会に登録された銘かどうかまでは確かめられていません。銘の正式名は協会の登録名が正になります。
買う側にとって実用的なのは、銘は評価の履歴であって、美しさの保証ではないという理解だと思います。紋の好みが自分の中で決まっているなら、銘の有無にかかわらず自分がいいと思った株を選ぶほうが満足度は高いはずです。
花 — 株の姿からは想像しにくい白い小花
掲載写真では、万象として記録された株に白い小花が見られます。SANBIのvar. truncata頁にある9〜10月や花茎約150mmは玉扇の記載で、万象の花期や花茎長へ転用しません。
逆にいえば、花で変種までは絞り込めません。ハオルチア属の花はどの種でもよく似ていて、窓の形がまったく違う品種どうしでも花はほとんど区別がつきません。
ハオルチア類には似た花が多く、花だけで属・種・変種を決めません。窓と株全体の写真、由来の記録も合わせて確認します。
実生で殖やしたい場合は別で、そのときは花茎を残して交配することになります。花そのものの見方はハオルチアの花にまとめています。
自生地の写真 — 地表と窓の位置を見る
赤い礫の間に丸い窓が並び、地表と窓面の近さを観察できます。鉢の株とは周囲の環境が違うため、同じ深さに埋めて再現する必要はありません。
この写真については、この頁で唯一第三者の検証を経た同定を示せます。iNaturalist で複数の同定者の見解が一致し、research grade(研究に使える品質)と判定された野生の観察記録だからです。
この頁のほかの写真は、Wikimedia Commons や iNaturalist の投稿者による同定にもとづくもので、この図鑑が独自に判定したものではありません。写真の出所によって、同定の確からしさに段階があるということも、この植物を扱ううえでは押さえておきたい点です。
HABITAT & RECORDS / MEASURED 2026-07-24
記録の数で見る万象 — 野生の記録はどれくらいあるのか
分布(記述)
西ケープ州 Little Karoo・Calitzdorp の南側の狭い範囲英語版 Wikipedia
玉扇との位置関係
基準変種 var. truncata の自然分布のはるか西端。境界域に自然の中間個体・雑種英語版 Wikipedia
生育環境
万象の雨の季節を書いた資料は見つからない。同じ種の玉扇(var. truncata)は冬雨地域で、葉先だけを地表に出して生えるSANBI / var. truncata の記述
GBIF 総オカレンス
27 件(うち南アフリカ 11 件。残る 16 件は植物園の生体コレクション 13 件と標本 3 件)記録そのものが極端に少ない
iNaturalist 観察
全世界で 16 件。うち野外の research grade は 3 件(いずれも西ケープ州 Eden)。うち商用利用できるライセンスの写真は 1 件のみ= 上の写真
保全評価(変種)
Not Evaluated — 亜種・変種は個別評価せず Haworthia truncata を参照SANBI Red List 2024.1
保全評価(種)
Vulnerable — 愛好家による採集圧・小カルーの土地利用変化・ダチョウによる食害SANBI / var. truncata の記述
出典 = GBIF occurrence search(taxonKey 8309276)/ iNaturalist API(taxon 599646)/ SANBI Red List of South African Plants 2024.1 / SANBI PlantZAfrica / 英語版 Wikipedia。2026-07-24 取得
記載と照合の詳細
2026年7月24日の照会では、GBIFは27件、うち南アフリカが11件。iNaturalistは16件で、野外かつresearch gradeの3件はいずれも西ケープ州Edenの記録でした。
その3件で掲載に使えるライセンスを確認できたのが採用した1枚で、公開データ全体や世界中の写真を網羅した数ではありません。
保全のステータスについては、正確に書く必要があります。「万象は絶滅危惧種」という説明を見かけますが、SANBI の Red List(2024.1 版)で万象 = var. maughanii に与えられている評価は Not Evaluated(未評価)です。
現行の変種頁は種内分類群を個別に評価せず、種H. truncataを参照するよう記しています。種頁の履歴には万象の2009年・2012.1版のEN評価も残るため、過去も評価が存在しなかったという意味ではありません。
PlantZAfricaの2009年解説は基本変種var. truncataを扱い、当時のVUという記述を載せています。種の現在の評価はSANBIのH. truncata種頁(2022年評価)を、万象の現在の扱いはvar. maughaniiの頁を分けて確認します。
この事実は、後の「入手時の注意」で実生株を選ぶ理由につながります。
まとめ
丸い窓を一枚ずつ眺め、白い紋が分かれる位置を追う。万象は真上からも斜めからも楽しめます。
鉢では株元と根の状態を見て育て、気になる銘は親株や増殖の記録へたどりましょう。
FAQ
「万象」は「まんぞう」と「ばんしょう」のどちらが正しい読みですか?
園芸では「まんぞう」が広く使われ、「ばんしょう」の表記も見られます。検索するときはハオルチアと合わせると探しやすくなります。
万象は硬葉系ですか、軟葉系ですか?
狭義のHaworthia属に含まれる軟葉系の仲間です。丸い窓を持つ葉が、らせん状に並びます。
玉扇との違いを詳しく知りたいのですが
万象はらせん状、玉扇は左右二列に葉が並びます。窓の形と株全体の配列を一緒に見ると比べやすくなります。
何℃まで耐えられますか?
この分類群に固有の耐寒限界は示されていません。凍結を避け、夜の窓際の冷えと鉢の乾き方を確認します。
「万象錦」は別の品種ですか?
斑入りを示す園芸上の呼び名です。錦という語だけで学名上の別変種になるわけではありません。
同じ万象なのに値段が大きく違うのはなぜですか?
窓の紋や斑、株の大きさ、銘と由来など、販売株の条件が異なります。値段だけで同じ銘や品質と判断せず、親株と増殖の記録を確認します。
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出典
- IPNI(国際植物名索引)— H. truncata var. maughanii (Poelln.) B.Fearn(ID 60468368-2 / Natl. Cact. Succ. J. 21(1): 28, fig. 4. 1966)、(Poelln.) Halda(ID 1006914-1 / Acta Mus. Richnov., Sect. Nat. 4(2): 51. 1997)、および基礎異名の索引形 Haworthia maughani Poelln.(ID 536125-1 / Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 31: 85. 1932): ipni.org
- GBIF Backbone Taxonomy — 受理状況(usageKey 8309276 / ACCEPTED / VARIETY / Asphodelaceae)、基礎異名 Haworthia maughanii Poelln., Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 31: 85 (1932)、オカレンス 27 件の国別内訳と記録種別(basisOfRecord)の内訳: gbif.org
- SANBI Red List of South African Plants 2024.1 — Haworthia truncata Schönland var. maughanii (Poelln.) B.Fearn: Not Evaluated(亜種・変種は個別評価せず Haworthia truncata を参照): redlist.sanbi.org
- SANBI PlantZAfrica — Haworthia truncata var. truncata(この頁で「var. truncata の記述」と注記した箇所の出典): Vulnerable、小カルー(Oudtshoorn・De Rust・Calitzdorp)の冬雨地域、園芸帯 3(軽い霜)、葉先だけを地表に出して平らに生える生態、晩春(9〜10 月)に約 150mm の花茎: pza.sanbi.org
- 英語版 Wikipedia — Haworthia truncata: var. maughanii は Calitzdorp 近くの狭い範囲に自生し、葉はらせん状ロゼットに並ぶ(基準変種の 2 列配列と対比)。両変種の境界に自然の中間個体・雑種: en.wikipedia.org
- ISHS 国際栽培品種登録機関(ICRA)リスト — Haworthia / Astroloba / Chortolirion の ICRA = Haworthia Society of Japan(日本ハオルシア協会)、登録担当 林雅彦、愛知県豊川市、2014 年任命: ishs.org
- iNaturalist — 観察の総数と品質区分(taxon 599646 の全 16 件。うち research grade かつ野外の記録は obs 249673047 / 56283963 / 56283964 の 3 件で、後 2 者は CC BY-NC のためこの図鑑では使用不可)。この頁で使用した 2 観察: obs 249673047(research grade・野生個体・南アフリカ西ケープ州 Eden)/ obs 113703942(栽培株・同定は投稿者のみ)
- オークフリー(aucfree)— 「万象 ハオルチア」直近 30 日の落札件数 240 件(2026-07-24 取得。検索一致の総件数で表記揺れ・別品種の混入を含む参考値。平均価格は算出・掲載しない): aucfree.com
- 画像は CC ライセンス画像(PD / CC0 / CC BY / CC BY-SA)のみを使用しています。各画像の作者・ライセンス・出典は 画像クレジット・出典一覧 に掲載しています
Field Note出典と確認日
H. truncataは種、var. truncataはその基本変種、var. maughaniiは万象の変種名です。種の保全評価と、基本変種の生態・管理の解説は別の範囲として読みます。
画像クレジット
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上面観の対比(左・万象): Photo: Consultaplantas / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
上面観の対比(右・玉扇): Photo: Salicyna / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
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追加照合した資料の範囲
maughaniiの掲載写真と分類記録。SANBI var.truncata頁の冬雨・根・花期・播種等は万象へ転用しない。
本文の出品・観察件数は元の調査日を保持。写真の同定名は掲載元の記録によります。


















