MENU
品種アイコン索引
オブツーサ(H. cooperi var. truncata)の写真
オブツーサ
クーペリー(H. cooperi)の写真
クーペリー
ピリフェラ(H. cooperi var. pilifera)の写真
ピリフェラ
シンビフォルミス(H. cymbiformis)の写真
シンビフォルミス
レツーサ(H. retusa)の写真
レツーサ
ベヌスタ(H. cooperi var. venusta)の写真
ベヌスタ
ピグマエア(H. pygmaea)の写真
ピグマエア
ミラビリス(H. mirabilis)の写真
ミラビリス
エメリアエ(H. emelyae)の写真
エメリアエ
万象(H. truncata var. maughanii)の写真
万象
玉扇(H. truncata)の写真
玉扇
十二の巻(Haworthiopsis fasciata)の写真
十二の巻
アテヌアータ(Hp. attenuata)の写真
アテヌアータ
レインワルディ(Hp. reinwardtii)の写真
レインワルディ
リミフォリア(Hp. limifolia)の写真
リミフォリア
ビスコーサ(Hp. viscosa)の写真
ビスコーサ
竜鱗(Hp. venosa var. tessellata)の写真
竜鱗
ムチカ(H. mutica)の写真
ムチカ
軟葉系13 章約45分で読めます

ムチカの育て方と見分け方|平たい窓と淡い筋を楽しむ

砂利のあいだに低く広がるロゼットを斜め上から写した写真。厚い葉が先端で断ち切られたように平らな三角の面になり、その面に淡い縦の筋が数本走る。面は灰緑色にくもり、葉の縁と先は赤褐色を帯びる
断ち切られた葉先と、面に走る淡い筋 Photo: Abu Shawka / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
SPECIMEN — HAWORTHIA MUTICA
ムチカHaworthia mutica / ハオルチア・ムチカ
魅力平たい三角の窓に浮かぶ淡い筋育て方を見る →

平たい三角の面に、淡い筋がふっと浮かぶ。ムチカは、窓の輪郭と厚い葉の境目を眺めるハオルチアです。

斜めからの写真では、低く重なった葉と上を向く窓がよく分かります。まずこの一株の表情を楽しみ、育て方と近縁の見分けへ。

グロエネワルディという名札も、分類史をたどる手がかりになります。

ムチカの見どころ — 平たい窓と、淡く浮かぶ筋

観察
同じ株を、少し高い位置と低い位置から見る
掲載写真の同じ部位を比較
高めから見た窓。三角の面を広く見渡し、淡い線の向きを追う。
高めから見た窓三角の面を広く見渡し、淡い線の向きを追う。
低めから見た厚み。窓の下の濃い側面と、葉の重なりがよく見える。
低めから見た厚み窓の下の濃い側面と、葉の重なりがよく見える。
同じ葉の窓と側面を見つけると、平たい面にも厚みがあることが分かります。
同じ株の別アングル。Commons撮影情報は6秒差。色の変化や管理の前後を示す比較ではありません。 写真は共通縮尺ではありません。
高めから見た窓:Photo: Abu Shawka / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
低めから見た厚み:Photo: Abu Shawka / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

窓の淡い部分と、その下の濃い側面に目を移すと、葉の厚みが見えてきます。窓の端は定規で切ったような直線ではなく、緩く曲がる輪郭。

レツーサなどと比べる際も、この輪郭と筋、株全体のまとまりを組み合わせて眺めます。

見どころと育て方
  • 斜めから窓の輪郭と葉の厚みを見る
  • レツーサとの比較には由来の記録も使う
  • 野外で低く収まる姿を、深植えの指示にしない

育て方 — 窓の形を見ながら、鉢の環境を整える

ムチカを育てる
かんたん派
すること半日陰と排水のよい鉢を出発点にする
楽しみ方窓と筋を眺めるなら、置き場所を安定させるところから。
こだわり派
すること窓の向きと新葉の間隔を記録し、置き場所を変える前に光の条件を確認する。窓辺の光へ。
楽しみ方葉が立つ・開く変化を、置き場所の記録と比べられます。

光を整える

SANBIのハオルチア属の管理解説は、半日陰を勧めています。鉢では水はけも確保します。

強い日差しへ急に移すより、葉の間隔と新しい葉を見ながら置き場所を調整しましょう。季節の育て方も合わせて読めます。

水は鉢と生育を見て

底穴のある鉢で余分な水を排出し、湿った状態を長く続けないようにします。葉がしぼんだときも、先に土の湿りと根の状態を確認。

用土・鉢・ライトの選び方へつなげて考えます。

冬は窓辺の冷えを避ける

この分類群に固有の耐寒限界は示されていません。凍結を避け、夜の窓際の冷えと鉢の乾き方を確認します。

温度の読み方は耐寒性と冬越しへ。

見分けの入口 — 候補までを出して、手順は別の頁へ

観察
窓の輪郭・表面・横顔を、同じ順で比べる
掲載写真の同じ部位を比較
ムチカの掲載株。平たい三角の面に淡い線。窓の下に厚い側面が見える。
ムチカの掲載株平たい三角の面に淡い線。窓の下に厚い側面が見える。詳しく見る →
レツーサの掲載株。上を向く三角の窓に白い筋。葉が外へ折れる位置を見る。
レツーサの掲載株上を向く三角の窓に白い筋。葉が外へ折れる位置を見る。詳しく見る →
ピグマエアの掲載株。三角の窓面に細かい粒が並び、その間を筋が通る。
ピグマエアの掲載株三角の窓面に細かい粒が並び、その間を筋が通る。詳しく見る →
面の模様だけを比べず、一枚の輪郭から厚い側面へ目を移します。
それぞれ別の掲載株。形の比較は候補を探す入口で、変種や販売株の由来を保証しません。 写真は共通縮尺ではありません。
ムチカの掲載株:Photo: Abu Shawka / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
レツーサの掲載株:Photo: Salicyna / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ピグマエアの掲載株:Photo: KENPEI / CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
「ムチカ」と表示されうるもの — 断定でなく「次に見る所」の表
mutica 名義 H. MUTICA
名前の出どころ
Haworth・1821 の記載
照合先の扱い
受理名(GBIF / WFO / SANBI)
次に見る所
葉先が断ち切られているか。ただし程度の問題で線は引けない
groenewaldii 名義 H. GROENEWALDII
名前の出どころ
Breuer・2011 の記載(タイプ標本あり)
照合先の扱い
ムチカのシノニムとして畳まれている
次に見る所
形態と由来を合わせて比較。資料ごとの扱いも確認
レツーサ群の隣 RETUSA / PYGMAEA / MIRABILIS
名前の出どころ
それぞれ独立した受理種
照合先の扱い
SANBI が「ムチカと区別しにくい」と名指し
次に見る所
窓の質感。手順はエメリアエの頁へ。ピグマエアとは花の苞の脈の色(下記)
交配・選抜個体 HYBRID / SELECTION
名前の出どころ
栽培の現場で付けられた呼び名
照合先の扱い
学名の照合先には載らない
次に見る所
葉形と由来を合わせる。親株・増殖の記録を確認

窓の輪郭、葉の反り、筋の入り方を比べます。SANBIが近縁との境界の難しさに触れる群なので、株全体と由来の記録も合わせて読みましょう。

南アフリカで実際に標本を扱う国家機関が、自分たちの評価文のなかで「区別できない」と書いているからです。ムチカを評価できないと判断した理由が、まさにレツーサ・ミラビリス・ピグマエアとの判別困難でした。

写真では形の比較ができます。種の境界を詰めるときは、産地や親株の記録と、資料が採用する分類体系まで確認します。

そのうえで、手元の株を見るときの入口を 3 つ挙げておきます。ひとつは葉が先端で断ち切られて平らな面になっているか。

とがって終わるならレツーサ群の外側を先に疑います。ふたつめはその面に走る筋の様子。

みっつめは株が地表すれすれで止まり、上へ伸びないか。ただし、この 3 つがそろってもレツーサやピグマエアの型は残ります。

窓の質感による絞り込みの手順は、エメリアエ(宝の寿)の頁とレツーサ(寿)の頁、ピグマエア(延寿城)の頁にそれぞれまとめてあります。

ひとつだけ、葉ではないところに手がかりがあります。Bayer は、ピグマエアの平滑な型とムチカは葉では区別が難しく、花を比べたときに見つかった違いは「苞(つぼみを包む小さな葉)の脈の色」だけだったと書いています。

Bayerが比較した資料では、ムチカの苞の脈は紫がかり、ピグマエアは緑と記しています。花を写した資料がある場合の補助として読み、全個体に共通する単独の決め手にはしません。

葉や花の写真は比較に使えますが、記載された違いの適用範囲を確認する必要があります。由来の記録と一緒に残すと、後から調べやすくなります。

産地の情報についても、ひとこと添えておきます。「2011年の隣人」節のMBB写真は、ファイル名に MBB という記号と地名が入っています。

MBB は南アフリカの研究者 M.B. Bayer の採集番号に使われる記号で、後半で扱う groenewaldii のタイプ標本の番号(MBB 7801)も同じ系統です。産地や採集番号が付いた株は、確かに何も付いていない株より情報が多い。

ラベルは来歴をたどる手がかりです。記された採集番号を元の記録へ、増殖株なら親株の記録へ照合し、写真の形態と合わせて読みます。

窓面だけでなく葉全体を比べたいときは見分け方ガイドへ。レツーサ、ピグマエア、エメリアエの写真も合わせて観察します。

関連資料:見分け方ガイドの入口

クーペリー系では丸い窓や葉先の毛も比較点になります。大きな系統の違いを眺めてから、手元の株の窓の輪郭へ戻ってみましょう。

関連資料:クーペリー系の見分け方 / ハオルチアの品種と系統の全体像

入手時の注意 — ラベルが割れているときの構え

売り場・ラベルで見かける表記それが指すもの読み方
Haworthia mutica本種Haworth・1821 の名前。照合先が受理している表記
Haworthia groenewaldii照合先はムチカと同じものとして扱うBreuer・2011 の記載。由来のはっきりした名前で、偽物という意味ではない。詳しくは 「2011 年の隣人」節と「名前は畳まれ、写真は分かれたまま」節
Haworthia groenewaldtii(t が 1 つ多い)同上の綴り違いCommons の在庫でも両方の綴りが並存している(14 枚中 5 枚がこちら)
Haworthia otzenii同じくムチカのシノニムG.G.Smith・1945。別種として立てられ、のちに統合された
Haworthia retusa var. mutica同上Baker・1896 と Halda・1997 の 2 通りがある。レツーサの変種として扱った時代の表記
Haworthia mutica var. nigra現在は H. retusa var. nigraBayer が 1999 年にムチカの変種として立て、2012 年に自らレツーサ側へ移した
交配種・選抜個体の呼び名栽培の現場の名前名札を控え、親株・増殖の記録と照合する
受理・シノニムの関係は GBIF Backbone(2026-08-14 照会)、各名前の書誌は国際植物名索引(IPNI)、綴りの内訳は Wikimedia Commons のカテゴリ実測にもとづく。サイト内の名前の突き合わせは名前の対照表へ。

groenewaldii は 2011 年に、タイプ標本と産地の記録を伴って正式に発表された名前で、その後の照合先がムチカに畳んだ、というのが経緯です。名前が畳まれたことと、株が別物であることは、まったく別の話です。

実務的に効いてくるのは、育て方を調べるときです。ラベルの名前で検索すると、綴りの違い(groenewaldii / groenewaldtii)で結果が分かれますし、シノニム側の名前では公的な情報にたどりつきにくくなります。

照合先が受理している名前は Haworthia mutica なので、情報をたどるときはそちらの綴りを起点にするのが早道です。名前の対照表に、旧名と現行名を並べてあります。

産地情報が付いている株については、期待の置き方を変えてください。採集番号や産地名の付いた株は、何も付いていない株より情報が多いのは確かです。

名札だけで種を確定するのではなく、採集・親株・増殖の記録を合わせて確かめます。由来の記録が揃う株では、その情報も比較に役立ちます。

園芸銘の登録資料

斑入りや園芸銘についても、扱いを分けています。園芸銘の正式名を決めるのは日本ハオルシア協会で、同会は 2014 年に ISHS(国際園芸学会)から Haworthia の国際栽培品種登録機関(ICRA)に指定されています。

登録の担当は林雅彦氏で、Haworthia(Haworthiopsis と Tulista を含む)・Astroloba・Chortolirion とそれらの交配種を、ひとつの品種名グループとして扱うという枠組みです(ISHS の ICRA 一覧・2026-08-14 実測)。園芸銘は、協会の登録名が正になります。

銘の正確な表記が必要な方は、協会の一覧を直接ご覧ください。

最後に、保全の側からひとこと。「分布と保全」節で見たとおり、この種の生育地は農業と道路建設で失われつづけており、個体群は減少していると記録されています。

栽培された株を買うことと、自生地の株が減ることは別のことですが、狭い範囲にしか生えない植物であるという事実は、頭の片隅に置いておいてよいと思います。なお、本種の評価文が脅威として挙げているのは農業と道路建設であり、採取・盗掘は挙げられていません。

基本情報 — 学名・自生地・耐寒性

ムチカの基本データQuick Spec
窓平たい三角形と淡い筋
輪郭厚い葉が低くまとまる
観察窓面・縁・葉の側面を比べる
光種の資料は未確認。株のサインで調整 → 置き場の表
雨の季節資料なし(2026-10-17 時点) → 雨の季節の表
冬凍結と夜の冷えを避ける
学名データ・出典の範囲
受理名Haworthia mutica Haw.
記載Haworth・1821 年(書誌名は資料で 2 通り)
科ツルボラン科(Asphodelaceae)
系統軟葉系(Haworthia 狭義 / レツーサ群)
シノニム6 件(GBIF)。うち groenewaldii と otzenii は別種として立てられた名前
受理変種基本変種 var. mutica のみ
自生地南アフリカ固有。西ケープ州のみ(SANBI)
分布の範囲Bredasdorp から Heidelberg まで(SANBI の記載どおり)
生育環境岩がちの頁岩(シェール)の尾根。植生区分はフィンボス
草姿無茎。記載ではnon-proliferousロゼット(Bayer 1999)
ロゼット径6〜8 cm(Bayer 1999『Haworthia Revisited』)
葉12〜15 枚。葉先が断ち切られ鈍く終わる。透明度は低く、面に数本の縦線(同上)
花花序は分枝せず高さ 20 cm まで。花は白く褐色の脈(同上)。花期の月は確認できず未確認
タイプ標本原標本は現存せず。レクトタイプはキューにある図(icon)(Bayer 1999)
冬の確認夜間最低温度を測り、凍結を避ける。冬の置き場所と個別資料を確認
保全評価(現行)Data Deficient — Taxonomically Problematic(SANBI・2014-03-24)
保全評価(過去)VU(危急)— 1996 年・2009 年の 2 回
個体群動向Decreasing(減少)(SANBI・2014 年評価)
主な脅威農業(小麦・果樹)と道路建設による生育地の消失。減少は進行中
出現記録GBIF 69 件(標本 32 / 観察 23 ほか)。iNaturalist 37 件
語源「先端が無い」— 丸く終わる葉先に由来する、と Bayer が注記
流通名ムチカ。定着した和名は確認できず未確認

形態はBayer『Haworthia Revisited』第24章の記載を参照しています。原標本は保存されず、レクトタイプはキューの図、エピタイプはBayer in KG623/69(NBG)と記されています。

non-proliferousもその記載で、すべての栽培株が仔を出さない意味には広げません。

保存済みのBayer資料では、原標本が保存されておらず、キューの図を名前の基準とすることと、後のエピタイプが記されています。図を基準にすること自体と、分類の境界が難しいことの因果は分けて読みます。

Bayerの公開版は、キューの図と葉先の丸みを名前の説明に使っています。形態と命名の記載を読み、現在の分類評価とは区別します。

種固有の耐寒限界は確認できていません。SANBIの頁岩の尾根という生育地の記述から、日本の鉢の光量や水やりを決めず、属の一般管理と現物の状態を合わせます。

分類上の位置づけと関連資料
この頁 / SPECIES
ムチカという「種」の全体像
評価が動いた経緯・名前の往復・2011 年の隣人・在庫の名義の内訳。「この植物は何者か」を知りたい人のための頁です。
別の頁 / MAP
ハオルチアの種類総覧
軟葉系・硬葉系・万象・玉扇という系統の地図。ムチカが軟葉系のどこに座るかを俯瞰したい方はこちらから。
別の頁 / NAMES
名前の対照表
和名・学名・異名を横断検索できる辞書。ラベルの学名だけを突き合わせたいときは、この頁が最短です。

上の 2 枚目・3 枚目はそれぞれ別の記事です — ハオルチアの品種と系統の全体像 と ハオルチアの名前の対照表 からどうぞ。

まず、この植物の立ち位置をはっきりさせておきます。ムチカは、葉が硬く厚い硬葉系ではなく、葉がやわらかく光を透かす軟葉系のハオルチアです。

軟葉系のなかでも、レツーサ(寿)・ピグマエア(延寿城)・ミラビリス・エメリアエ(宝の寿)と並ぶレツーサ群と呼ばれる一群に入ります。この群の植物はどれも、葉の先端が断ち切られたように平らになり、その面が窓として光を採るという共通の作りを持っています。

そして、この群には共通の事情があります。顔がよく似ていて、境目がはっきりしないのです。

どれくらいはっきりしないかは、南アフリカの評価機関がそのまま書いています。南アフリカ国家生物多様性研究所(SANBI)のレッドリストは、ムチカの全国評価を「Data Deficient – Taxonomically Problematic(データ不足 — 分類学的に問題あり)」としています(評価日 2014 年 3 月 24 日、評価者は L. von Staden、R.R. Klopper、J.C. Manning の 3 名)。

理由は、変異が大きく、とくに東側に分布するレツーサ、そしてミラビリスとピグマエアの一部の型と区別しにくいため、分類が解決するまで絶滅リスクを評価できないというものです。

TAXONOMY / MEASURED 2026-08-14
ムチカは軟葉系のレツーサ群にいる — 図に出る隣は 4 種
属の所属と受理状態は GBIF Backbone(H. mutica = usageKey 2780094 / status ACCEPTED)、評価文と評価日は SANBI 南アフリカ植物レッドリストを 2026-08-14 に照会した実測値

ここで大事なのは、評価がいつも「判定不能」だったわけではないという点です。同じ SANBI の頁には、過去の評価履歴が残っています。

1996 年の評価(Hilton-Taylor)では「Vulnerable(危急)」、2009 年の評価(Raimondo ほか)でも「VU」で、しかも 2009 年のほうには A2bc; B1ab(ii,iii,iv,v) という具体的な基準まで付いています。18 年ぶんの評価が積み上がっていたところへ、2014 年に「評価できない」という判断が上書きされたという順序です。

そして、この「判定不能」は「安心してよい」という意味ではありません。同じ評価頁は、個体群動向を Decreasing(減少)と記録し、脅威として農業(とくに小麦と果樹の栽培)と道路建設による過去の広範な生育地の消失を挙げ、農業拡大による減少は現在も進行中と書いています。

減っていることは分かっている。どのくらい危ないかが決められない、これが 2014 年以降のムチカの状態です。

この記事は、その一点を軸に組み立てました。

断ち切られた葉先 — 見どころが「無いもの」に置かれている

葉先の形と名前の意味を詳しく読む

この写真で見てほしいのは、葉の「先が無い」ところです。多肉植物の葉は、ふつう先へ向かって細くなり、とがって終わります。

ところがこの株の葉は、途中でぷつりと断ち切られたように終わり、その断面が平らな三角の面になっています。面はガラスをすりガラスにしたようにくもり、淡い縦の筋が数本走っています。

葉のなかで、いちばん目に入るのが「終わり方」だという点が、この植物のいちばんの特徴です。

そして、種小名の mutica が指しているのも、まさにそこです。Bayer は『Haworthia Revisited』の本種の項で、この語を 「先端が無い(without a point)」 と注記し、さらに 1982 年の記述として 「この名前は、丸く終わる葉先から来ている」 と書いています。

「何かが有る」ではなく「尖りが無い」で名づけられた種だということです。識別のよりどころが、最初から「欠けていること」に置かれている、この一点が、以下の章で見ていく話の見通しをよくしてくれます。

見る場所
この記事の写真から
読み取れること
写真だけでは
決まらないこと
葉の終わり方
断ち切られて平らな面になる どこまで鈍ければこの種か
面の筋
淡い縦の筋が数本走る 本数・太さの範囲
株の高さ
地表すれすれで止まる 実寸(記載では径 6〜8 cm)
色
灰緑〜青灰。縁と先が赤褐色 光の量との対応
花
ムチカの掲載写真には写っていない 咲く月(記載に無い)
産地
写真からは分からない 名札の産地は、元の採集・親株記録と照合する

左列はムチカとして掲載した写真の所見(近縁比較の別種写真を除く)、右列は写真からは決まらない項目(かっこ内は Bayer 1999『Haworthia Revisited』の記載値)。掲載名は撮影者・掲載カテゴリおよび iNaturalist の同定履歴に基づき、写真の所見と合わせて読む候補として読む

記載と照合の詳細

窓の先が丸く終わる形は、近縁にも見られます。ムチカを探すときは窓だけを切り出さず、葉の側面と株全体、由来の記録を一緒に確かめましょう。

レツーサ群のなかで「窓の質感」をどう見分けるかは、別の頁が受け持っています。面が粒立つのか、平滑でよく透けるのか、点が帯として連なるのかという三つある読み方は、エメリアエ(宝の寿)の頁に図解でまとめてあります。

レツーサ(寿)とピグマエア(延寿城)の頁にも、それぞれの立場から見た比較の表があります。ここでは同じ表を繰り返さず、その表がなぜ「候補」までしか出せないのかを見ます。

名前の年表 — 種になり、変種になり、また種になる

種・変種の学名年表を開く
ムチカの名前は 200 年で 2 度「レツーサの変種」へ落ち、そのつど種へ戻っている FIG.01Timeline
第 1 期 記載 Haworth が Haworthia mutica として発表(1821) 1829 年に Aloe mutica の組合せも立てられる
第 2 期 まとめる Baker が Haworthia retusa var. mutica へ(1896) 種から、レツーサの変種へ格下げ(1 回目)
第 3 期 分ける 別種 otzenii(1945)/ 変種 nigra(1999)が立つ 近い個体群に新しい名前が与えられていく時期
第 4 期 また揺れる Halda が再び retusa var. mutica へ(1997) 2011 年には別種 groenewaldii が記載される
記載 まとめる動き(変種へ) 分ける動き(新しい名前) 概念図

ムチカという名前は、1821 年に Adrian Hardy Haworth が付けました。ハオルチアという属名の由来になった、あの Haworth です。

書誌については、資料によって表記が 2 通りあります。GBIF は『Saxifragearum enumeratio』第 2 部 55 頁とし、国際植物名索引(IPNI)は『Revisiones plantarum succulentarum』55 頁とします。

どちらも Haworth が 1821 年に出した同じ本を指していて(前者の後半に後者が収められています)、年も頁も一致しています。原典にはあたっていないため、書誌名は両方を併記します。

そこから先が、この種のややこしいところです。1896 年、Kew の J.G. Baker が『Flora Capensis』第 6 巻 346 頁で、ムチカをレツーサの変種、Haworthia retusa var. mutica 、として扱いました。

独立した種ではなく、レツーサの中の一形態だという判断です。そしてその 101 年後、1997 年に J.J. Halda が、まったく同じ組み合わせを別に立てています(Acta Musei Richnoviensis 4(2): 49)。

100 年をへだてた 2 人が、独立に同じ格下げをしたことになります。

階級名前誰が / いついまの扱い(GBIF)
種(受理)Haworthia mutica Haw.Haworth・1821受理名(usageKey 2780094)
種Aloe mutica (Haw.) Schult. & Schult.f.Schultes 父子・1829
Syst. Veg. ed. 15[bis] 7: 635
シノニム(アロエ属へ移した組合せ)
変種Haworthia retusa var. mutica (Haw.) BakerBaker・1896
Fl. Cap. 6: 346
シノニム(格下げ 1 回目)
種Haworthia otzenii G.G.Sm.G.G.Smith・1945
J. S. African Bot. 11: 72
タイプは Bredasdorp 産(NBG)
シノニム(別種として立てられた)
変種Haworthia mutica var. nigra M.B.BayerBayer・1999
Haworthia Revisited 126
のちに Bayer 自身が retusa 側へ移す(下記)
変種Haworthia retusa var. mutica (Haw.) HaldaHalda・1997
Acta Mus. Richnov. 4(2): 49
シノニム(格下げ 2 回目・1 回目の 101 年後)
種Haworthia groenewaldii BreuerBreuer・2011
Alsterworthia Int. 11(2): 15
シノニム(次章の主題)
変種(受理)Haworthia mutica var. mutica—基本変種
受理・シノニムの関係は GBIF Backbone(usageKey 2780094 とその synonyms)を 2026-08-14 に照会した実測値。各名前の原記載の書誌は国際植物名索引(IPNI)で突き合わせた。H. mutica var. nigra は GBIF のシノニム欄には出ず、IPNI(1014775-1)で確認したもの。
記載と照合の詳細

この表のなかに、写真選びに直接ひびいた行がひとつあります。Haworthia mutica var. nigra です。

この名前は 1999 年に M.B. Bayer が『Haworthia Revisited』126 頁で立てたもので、当時はムチカの変種でした。ところが2012 年、Bayer 自身がこれを Haworthia retusa var. nigra として、レツーサの側へ移しています(Haworthia Update 7(4): 36)。

現在 SANBI と GBIF が持っているのは、レツーサ側の名前です。

この揺れは、写真の説明文にも出ています。Wikimedia Commons にある Haworthia mutica var nigra というファイルは、説明が Haworthia mutica var. nigra と Haworthia retusa var. mutica の間で割れていて、同定が確定できません。

揺れていたのは Commons ではなく、名前そのものだったわけです。同じ植物が 1999 年にはムチカの側、2012 年にはレツーサの側に置かれた、その両方の呼び方が、写真の説明文のなかで同時に生きていた、ということになります。

ここで、ハオルチア属全体の事情にも触れておきます。この属に何種あるかという問いには、研究者によって桁の違う答えが返ってきます。

林雅彦氏は 546 種、Ingo Breuer 氏は 366 種、Bruce Bayer 氏は 60 種という数を示してきました。細かく分ける立場と、まとめる立場の幅です。

SANBI の評価頁も、この属が「似ていることより変異のほうを重く見る名づけが過剰に増えてきた」状態にあると注記し(Bayer and Manning 2012 を引用)、種の概念を解決するには集団レベルの分子的手法による属全体の再検討が必要だとする J.C. Manning の見解(2014 年の私信)を載せています。ムチカの名前の往復は、その属全体の事情がひとつの種の上に現れたものと読めます。

2011 年の隣人 — groenewaldii という名前

groenewaldiiの記載と来歴を読む
細かい砂利と枯れ枝の混じる乾いた地面に、葉を平らに伏せたロゼットが一株写る。葉先は断ち切られたような三角の面になり、その縁が赤紫に色づく。面には淡い縦筋が通り、細かな土粒が点々と載る。周囲に緑はほとんど見えない
同じ種として掲載されている別の株。葉が地面に平らに伏せ、面の縁が赤紫に色づいている。ファイル名の頭にある「MBB」は、南アフリカの研究者 M.B. Bayer の採集番号に使われる記号で、写真のなかに名札が写っているわけではありません。Photo: Abu Shawka / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

2011 年 7 月、ひとつの名前が新しく立てられました。Haworthia groenewaldii Breuer です。

発表されたのは Alsterworthia International 誌の 11 巻 2 号 15〜17 ページで、図版が添えられています。タイプ標本(ホロタイプ)は南アフリカの NBG(カーステンボッシュのコンプトン標本館)に収められ、標本番号は MBB 7801。

採集したのは J. Groenewald という人物で、種小名はこの採集者にちなみます。産地は四分の一度方眼 3420(-BA)の Buffeljagsrivier と記録されています(いずれも IPNI の登録内容・2026-08-14 実測)。

つまりこれは、由来のはっきりした名前です。誰がいつどこで採り、どの標本館のどの標本を基準にしたかが、全部記録に残っています。

「よく分からないまま流通している呼び名」ではありません。この点は最初に押さえておきたいところで、groenewaldii というラベルの付いた株を「怪しいもの」と考えるのは、この記事の立場ではありません。

項目Haworthia mutica Haw.Haworthia groenewaldii Breuer
発表1821 年・Haworth2011 年 7 月・Breuer
掲載誌Saxifrag. Enum. 2: 55 / Revis. Pl. Succ. 55Alsterworthia Int. 11(2): 15(–17, 図あり)
名前の由来Bayerはmuticaを「先端がない」と説明採集者 J. Groenewald にちなむ
タイプ標本Bayer記載:原標本は未保存。レクトタイプはキューの図、エピタイプはBayer in KG623/69(NBG)ホロタイプ NBG・MBB 7801
タイプ産地同上3420(-BA), Buffeljagsrivier(西ケープ州)
IPNI id536142-177112613-1
GBIF での扱い受理名(usageKey 2780094)シノニム(usageKey 7603499 → 2780094)
両名の書誌・タイプ標本・産地・受理状態は国際植物名索引(IPNI)と GBIF Backbone を 2026-08-14 に照会した実測値。Breuer 2011 の原記載本文は購読・入手の都合により未参照で、上の値は IPNI の登録内容にもとづきます。したがって「Breuer が両者をどの形質で区別したか」は本記事では扱いません。
独立種とする側が挙げた違いBayer の反論(2012)
葉の表面に光沢がある要点は「光沢」と「花期」の 2 つに集約されると整理したうえで、いずれも種を分ける根拠にならないとする
花期が違う(ムチカのほうが約 4 か月早い)4 か月早いこと自体は認める。ただし同じ地域の別種でも他地域と咲く時期がずれる例があり、種の識別形質にはならない
蕾が魚の尾のような形になるその主張の直後に、提唱者自身が「ムチカがどうかは実は知らない」と述べている
若い葉が一貫して横にねじれる(螺旋する)。ムチカには出ないねじれはアロエ類全般に普遍で、近縁のミラビリスの成株にも出る。それを使うと属や科のレベルの差になってしまう
葉に斑点が出る同じ斑点は別の産地のムチカにも出る(写真を添えて示す)
Bruce Bayer が 2012-09-15 に公開した記事「Haworthia mutica(groenewaldii)and its twisted leaves」の内容にもとづく。当サイトはどちらが正しいかを判定しません。左列は Bayer が「そう主張された」と紹介している内容で、原記載そのものではありません。
記載と照合の詳細

Breuer が 2011 年の原記載でどう記述したかは、その本文を参照していないため書けません。IPNI から取れるのは書誌とタイプ標本の情報までです。

ただし、その後この植物を独立種と認めるかどうかをめぐって、公開の場で具体的なやりとりがありました。それは読める形で残っているので、「そう主張された」「そう反論された」という事実としてなら書けます。

Bayerの2012年の文章は、groenewaldiiを独立種と認めるかという議論を、種概念の違いから説明しています。著者の反論と、各データベースが採用した受理関係を分けて読みます。

この文章では、BayerがMarxの立場を形質による種の定義、自身の立場を地理・環境との関係から説明しています。相手の原記載を直接比較した総説としては扱いません。

分類上の見解が異なると、同じ集団を独立種または変種・異名として扱うことがあります。流通株を調べる際も、名札がどの体系に由来するかを確認します。

そして Bayer は、もっと踏み込んだことを書いています。ハオルチアにおいては形質によって種の輪郭を描くことがほとんど不可能で、機能する検索表を作ることに誰も成功していない、と。

これはBayerが2012年の文章で示した種概念と見解です。ハオルチア分類全体の合意や、現在の唯一の到達点としては扱いません。

書けるのは、その後どう扱われたかです。そして、そこが本題になります。

2026-08-14 に照会したかぎり、主要な照合先はそろって groenewaldii を「ムチカと同じもの」として扱っています。GBIF Backbone はシノニム、World Flora Online もシノニム、SANBI のレッドリストはムチカの Synonyms 欄に列挙、iNaturalist にいたっては groenewaldii という独立の taxon が存在せず、その名前で検索するとムチカの taxon に解決されます。

名前の対照表でも、ムチカの行の異名欄に groenewaldii と otzenii が並びます。

ただし、これは「Breuer が間違っていた」という意味ではありません。ある名前を有効な種として認めるか、既存の種に含めるかは、その集団をどこまでの幅で見るかという判断です。

細分派と統合派で種数が 546 と 60 のあいだで動く属では、この種の判断は日常的に起こります。

名前は畳まれ、写真は分かれたまま

異名と記録件数の対応を読む
照合先H. groenewaldii の扱い実測した値
GBIF BackboneシノニムusageKey 7603499 → 受理 2780094(H. mutica)
World Flora Online(2026-06 版)シノニムwfo-0000921788。配置が …/Haworthia/mutica$Haworthia/groenewaldii
SANBI レッドリストシノニムとして列挙H. mutica の Synonyms 欄に H. otzenii とともに記載
iNaturalist独立の taxon が無い名前で検索すると taxon 586793(H. mutica)に解決される
Wikimedia Commonsカテゴリは在るが空Category:Haworthia groenewaldii(pageid 39418818)はファイル 0 枚
5 つの公開プラットフォームを 2026-08-14 に個別照会した実測値。学名を扱う 4 つはそろってムチカ側へ畳んでおり、画像を扱う Commons だけがカテゴリを分けたまま空にしている。

ところが、写真の側は畳まれていません。Wikimedia Commons の Category:Haworthia mutica には、2026-08-14 時点で14 枚の写真が入っています。

そのファイル名を数えると、9 枚(全体の 64%)がファイル名に groenewaldii または groenewaldtii を含みます。しかも綴りは 2 通りに割れていて、groenewaldii が 4 枚、groenewaldtii(t が 1 つ多い)が 5 枚です。

純粋に mutica だけを名乗るファイルは 5 枚しかありません。

Commons「Haworthia mutica」カテゴリ 14 枚のファイル名の内訳(2026-08-14 実測) FIG.02Names
mutica のみを名乗る5 枚
groenewaldtii 表記(t が 1 つ多い)5 枚
groenewaldii 表記4 枚
retusa 表記0 枚
nigra 表記0 枚

逆に、標本と観察の記録の側では groenewaldii がまったく出てきません。GBIF に集まっているムチカの出現記録 69 件について、登録された元の学名(verbatim)を数えると、Haworthia mutica Haw. が 46 件、H. mutica var. mutica が 22 件、H. retusa var. mutica が 1 件で、groenewaldii という綴りは 1 件もありません。

標本館と研究者が登録する側では、この名前はほとんど使われていないということになります。

記載と照合の詳細

整理すると、こういう地図になります。学名を管理する 4つあるデータベースは groenewaldii をムチカへ畳んだ。

標本と観察の記録も ほぼムチカで統一されている。ところが写真アーカイブでは 3 分の 2 が別名のまま並んでいて、綴りまで割れている。

名前の決着と、現場の呼び方のあいだに時間差がある、というのが、いまの状態です。

この記事の写真の選び方にも、そのことが効いています。ムチカのカテゴリは近縁の groenewaldii 個体が多数を占めるため、mutica / var. mutica と明示された個体だけを選びました。

ムチカとして掲載した写真はいずれも、ファイル名・説明文・分類カテゴリのどこにも groenewaldii の語を含みません。それでも「だから確実にムチカだ」とは言えません — 写真の同定は撮影者と掲載カテゴリによるものだからです。

分布と保全 — 「判定不能」のまま減っている

乾いた土と白い石英のかけらに埋もれ、葉先の三角の面だけが地表に並んで顔を出している。面は日に透けて飴色にひかり、内側に淡い筋が走る。周りは枯れた細い枝と根ばかりで、緑の葉は地上に出ていない
南アフリカ西ケープ州での野生の記録(リサーチグレード・栽培個体ではない)。株はほとんど土に埋もれ、葉先の平らな面だけが地表に出ている。白いかけらは石英で、周囲の乾いた土とほとんど同じ色に見える。Photo: Barbara le Roux / CC BY-SA 4.0, via iNaturalist

写真では窓面が地表近くに並び、周囲の土や石と株の輪郭が重なっています。掲載された一株の位置関係を観察する写真です。

写真の窓面は飴色に見え、周囲には白い礫が写っています。一枚の写真から、自生地での普通の姿や日射・乾燥条件を決めることはできません。

窓の面と、そこから下へ続く葉の位置を見比べます。写真を鉢の深植えの指示にせず、栽培では株元と根の状態に合わせます。

鉢の葉の側面が見えることも、観察できる株姿の一部です。地表の写真との似かよりだけで管理の良否を決めません。

評価された対象カテゴリ出典 / 版
Haworthia mutica Haw. var. muticaVulnerable(危急)Hilton-Taylor(1996)
Haworthia mutica Haw. var. muticaVU A2bc; B1ab(ii,iii,iv,v)Raimondo et al.(2009)
Haworthia mutica Haw.Data Deficient — Taxonomically Problematicレッドリスト版 2014.1(評価日 2014-03-24)
SANBI 南アフリカ植物レッドリストの本種の頁にある「Assessment History」の実測値(2026-08-14 照会)。現行評価の評価者は L. von Staden、R.R. Klopper、J.C. Manning。引用は von Staden, L., Klopper, R.R. & Manning, J.C. 2014, Red List of South African Plants version 2024.1。
種(単体の頁がある軟葉系ほか)SANBI 全国評価評価日GBIF 出現記録
H. mutica(ムチカ)Data Deficient — Taxonomically Problematic2014-03-2469
H. retusa(レツーサ〔寿〕)Data Deficient — Taxonomically Problematic2014-03-24190
H. pygmaea(ピグマエア〔延寿城〕)Data Deficient — Taxonomically Problematic2014-03-2469
H. mirabilis(ミラビリス)Data Deficient — Taxonomically Problematic2014-03-19372
H. emelyae(エメリアエ〔宝の寿〕)Data Deficient — Taxonomically Problematic2014-05-21121
H. cooperi(クーペリー)Data Deficient — Taxonomically Problematic2014-03-19549
H. truncata(玉扇)Vulnerable B1ab(i,ii,iii,iv,v)+2ab(…)2022-05-05109
SANBI 南アフリカ植物レッドリストの各種頁と GBIF Occurrence を 2026-08-14 に個別照会した実測値。出現記録の件数は記録された回数であって、野生での個体数でも分布の広さそのものでもない。
記載と照合の詳細

分布そのものは、かなり狭い範囲に収まっています。SANBI は本種を南アフリカ固有とし、分布州として西ケープ州の 1 州だけを挙げ、範囲を「Bredasdorp から Heidelberg まで」と記しています。

生育地は岩がちの頁岩(シェール)の尾根で、植生区分はフィンボスです。この頁が書く産地は、ここまでです。

GBIF の記録にはより細かい地名の入ったものもありますが、掲載しません。

SANBIの評価履歴では、1996年と2009年にVU、2014年に分類上の問題によるDDTが記されています。評価の対象と理由を、それぞれの年の資料に沿って読みます。

2009 年の評価には基準コードまで添えられていて、生育地の減少にもとづく評価だったことが読み取れます。ところが 2014 年、評価の対象が種そのものに変わると同時に、カテゴリは「データ不足 — 分類学的に問題あり」になりました。

くり返しますが、これは危険が減ったからではありません。2014 年の評価文は、ムチカが変異の大きい種で、とくに東側に分布するレツーサ、そしてミラビリスとピグマエアの一部の型と区別しにくいと述べ、分類が解決するまで絶滅リスクを評価できないと明記しています。

そして同じ頁が、個体群動向を Decreasing(減少)とし、脅威として小麦と果樹の栽培、そして道路建設による生育地の消失を挙げ、農業拡大による減少は現在も続いていると書いています。「評価できない」と「危なくない」は別のことです。

脅威が抽象的な話でないことは、具体的な例からも分かります。Bayer は『Haworthia Revisited』のなかで、Breede 川の北側にあった産地について書いています。

そこは戦前に採集されて売られていた場所でしたが、その後は小麦畑になり、いまはカルー植物園のコレクションに 1 クローンが残っているだけだといいます。SANBI が脅威として挙げる「小麦の栽培による生育地の消失」は、こういう形で起きているということです。

同じ本で Bayer は、この種が集約的な農地のなかで、岩がちの頁岩の尾根にかろうじて生き残っているとも書いています。

この表には、そろった傾向が出ています。単体の頁を持つ軟葉系 6 種は、そろって 2014 年に「判定不能」へ入っています。

評価日は 3 月 19 日・24 日・5 月 21 日と近接していて、同じ時期に同じ判断が一括で下されたことがうかがえます。ところが玉扇(H. truncata)だけは 2022 年に評価し直され、Vulnerable という実在のカテゴリが付いています。

比較に挙げたH. truncataは種として評価されています。玉扇という流通上の呼び名や基本変種var. truncataと、種の評価を同じ範囲にはしません。

この表で比べるのは、各評価が示す分類単位と判断理由です。見た目の分かりやすさだけで評価の有無が決まる、とは結論できません。

保護の必要があるかどうかとは別に、名前が定まっていることが評価の前提条件になっているということです。ムチカが「判定不能」の側にいるのは、この植物が丈夫だからでも、数が多いからでもありません。

出現記録は 69 件で、上の表に並べた 7 種のなかでいちばん少ない部類です。

まとめ

淡い筋を追い、窓の縁と厚い側面を見比べる。ムチカの楽しみは、平たい面の小さな違いにあります。

鉢の光と排水を整え、名札と由来の記録も一緒に残しましょう。

FAQ

「groenewaldii」というラベルで買いました。ムチカとは別の植物ですか?
GBIFの2026年8月14日照会ではgroenewaldiiをムチカのシノニムに置いています。独立種として発表された名なので、元の名札と由来も残しておきましょう。
ムチカは絶滅危惧種ですか?
SANBIの2014年評価はDDTで、分類上の問題により評価できない状態です。評価文には生育地への脅威と個体群の減少も記されています。
写真を送れば、ムチカかどうか判定してもらえますか?
窓の形や葉の筋から候補を比較できます。近縁との境界が難しいため、株全体と由来の記録を合わせて見ます。
「ムチカ」という名前はどういう意味ですか?
Bayerは「先端がない」という意味と、丸く終わる葉先に結び付く名前として説明しています。葉先の輪郭を写真で見ながら読むと、名の意味が分かります。
レツーサ(寿)との違いはどこを見ればよいですか?
窓の輪郭、筋、葉の反り方を比べます。SANBIも両者の区別の難しさに触れており、形態に加えて産地や親株の記録を見ます。
何℃まで耐えられますか?
この分類群に固有の耐寒限界は示されていません。凍結を避け、夜の窓際の冷えと鉢の乾き方を確認します。
図鑑の写真のように平らに開きません。別の種でしょうか?
葉の開き方だけで別種には分けられません。新しい葉の間隔、置き場所を変えた時期、株の由来を照合します。
自生地の写真では土に埋まっています。鉢でも埋めたほうがよいですか?
写真の姿を再現するために葉まで埋める必要はありません。鉢では株元の状態と排水を確認して植えます。
道具はここに集約ハオルチアの育成環境と道具|置き場所から選ぶLED・土・鉢・棚 評価文が名指しする相手寿(レツーサ)の見どころと育て方|上を向く窓・近い種類との見分け方 同じ「判定不能」の隣ピグマエアの育て方と見分け方|ざらつく窓と細かな粒を観察 関連記事ハオルチアの種類と選び方|窓・葉の形から比べる図鑑
出典
  • SANBI 南アフリカ植物レッドリスト — Haworthia mutica Haw. の国内評価 Data Deficient – Taxonomically Problematic(評価日 2014-03-24、評価者 L. von Staden・R.R. Klopper・J.C. Manning)、評価理由、南アフリカ固有、分布州(西ケープ)、範囲(Bredasdorp to Heidelberg)、生育地(Rocky shale ridges)、植生区分(Fynbos)、脅威(農業・道路建設)、個体群動向 Decreasing、シノニム(H. groenewaldii / H. otzenii)、評価履歴 3 件、参考文献 7 件。2026-08-14 照会: SANBI レッドリスト Haworthia mutica
  • SANBI 南アフリカ植物レッドリスト — 比較に用いた同属の評価。H. retusa(2215-4033)/ H. pygmaea(2215-4031)/ H. mirabilis(2215-4024)/ H. emelyae(2215-4011)/ H. cooperi(2215-4008)/ H. truncata(2215-4036)の全国評価・評価日・個体群動向を 2026-08-14 に個別照会: SANBI レッドリスト Haworthia 属一覧
  • GBIF Backbone Taxonomy — Haworthia mutica Haw.(usageKey 2780094・status ACCEPTED・publishedIn Saxifrag. Enum. 2: 55, 1821)とその種階級シノニム 6 件(Aloe mutica 1829 / H. groenewaldii 2011 / H. otzenii 1945 / H. retusa var. mutica Baker 1896 / 同 Halda 1997 / H. mutica var. mutica)。2026-08-14 照会: GBIF 種ページ(usageKey 2780094)
  • GBIF Backbone — Haworthia groenewaldii Breuer(usageKey 7603499・status SYNONYM・acceptedUsageKey 2780094)。2026-08-14 照会: GBIF 種ページ(usageKey 7603499)
  • GBIF Occurrence — 出現記録 69 件、国別(南アフリカ 64)、州別(西ケープ 53)、記録種別(標本 32 / 人による観察 23 / マテリアルサンプル 10 / 生体 4)、年代別(2010 年代 21 / 2020 年代 21 ほか)、提供元別(iNaturalist 23 / NBG 18 / Research Collection of Bruce Bayer 10 ほか)、登録された元の学名の内訳。比較に用いた同属 6 種の件数も同 API で実測。2026-08-14 照会: GBIF Occurrence 検索(taxonKey 2780094)
  • IPNI(国際植物名索引)— Haworthia mutica Haw.(Revis. Pl. Succ. 55 / IPNI 536142-1): IPNI 536142-1 / Haworthia groenewaldii Breuer(Alsterworthia Int. 11(2): 15(-17, figs.), 2011 年 7 月・ホロタイプ NBG MBB 7801・採集者 J.Groenewald・産地 3420(-BA) Buffeljagsrivier / IPNI 77112613-1): IPNI 77112613-1 / Haworthia mutica var. nigra M.B.Bayer(Haworthia Revisited 126, 1999 / IPNI 1014775-1): IPNI 1014775-1
  • World Flora Online(分類版 2026-06)— Haworthia mutica Haw. は受理(WFO ID wfo-0000652201)、Haworthia groenewaldii Breuer(wfo-0000921788)と Haworthia otzenii G.G.Sm.(wfo-0000652317)はいずれも mutica の下に置かれる。2026-08-14 に照合 API で実測。WFO のサーバーは証明書の中間鎖を送っていないためリンク検査を通せませんので、リンクではなく WFO ID を記します(worldfloraonline.org で ID を検索してください)
  • iNaturalist — Haworthia mutica(taxon 586793)の観察 37 件、うちリサーチグレード 30 / 野生 31 / 栽培 6。groenewaldii で検索すると独立の taxon が無く本 taxon に解決されること(2026-08-14 実測): iNaturalist taxon 586793。この頁の自生地写真の観察: iNaturalist 観察 148319674
  • Wikimedia Commons — Category:Haworthia mutica(ファイル 14 件。うち 9 件のファイル名が groenewaldii / groenewaldtii)。Category:Haworthia groenewaldii はカテゴリとして存在するがファイル 0 件。各画像のライセンス版と作者は API で個別に実測
  • SANBI PlantZAfrica — 本種の解説頁が存在しないこと(pza.sanbi.org/haworthia-mutica ほか 2 URL が HTTP 404 / 同サイトの別のハオルチアの頁は 200)を 2026-08-14 に実測: SANBI PlantZAfrica
  • Bayer, M.B. 1999. Haworthia Revisited — 24. Haworthia mutica(著者自身が全文を公開しているテキスト。査読誌ではありません)。この頁が引いたのは、原記載の書誌(Revis.: 55, 1821)、タイプが保存されずレクトタイプがキューの図(icon)であることとエピタイプ、mutica の語義注記「without a point」と「丸く終わる葉先に由来する」、形態(無茎・非増殖性・径 6〜8 cm・葉 12〜15 枚・花序は分枝せず 20 cm まで・花は白に褐色の脈)、ピグマエアの平滑型との違いが花の苞の脈の色に限られたこと、生育地が集約的農地のなかの岩がちな頁岩の尾根であること、Breede 川北側の産地が小麦畑になり 1 クローンのみが植物園に残ること、H. otzenii の書誌とタイプ。2026-08-14 照会: Haworthia Revisited 24. Haworthia mutica
  • Bayer, M.B. 2012-09-15.「Haworthia mutica(groenewaldii)and its twisted leaves」— Buffeljags 個体群を独立種と認めるかをめぐる論点(光沢・花期・蕾の形・葉のねじれ・斑点)と、それぞれへの反論。「ハオルチアでは形質で種を線引きすることがほとんど不可能で、機能する検索表を作ることに誰も成功していない」という記述。2026-08-14 照会: Haworthia Updates(2012-09-15)。この頁はこの論争の当否を判定しません
  • ISHS(国際園芸学会)ICRA 一覧 — Haworthia の国際栽培品種登録機関が HAWORTHIA SOCIETY OF JAPAN(日本ハオルシア協会・2014 年指定)であること、登録担当が Dr Hayashi Masahiko であること、対象が Haworthia(Haworthiopsis・Tulista を含む)・Astroloba・Chortolirion とその交配種を 1 つの品種名グループとして扱うこと。2026-08-14 照会: ISHS ICRA 一覧 #100 / 協会の品種名一覧: 日本ハオルシア協会 品種名一覧(PDF から文字情報を機械的に取り出せなかったため、個々の銘はこの頁に引用していません)
  • この頁が参照した分類整理の一次文献: Haworth, A.H. 1821. Saxifragearum enumeratio / Revisiones plantarum succulentarum / Baker, J.G. 1896. Flora Capensis 6 / Smith, G.G. 1945. Journal of South African Botany 11 / Halda, J.J. 1997. Acta Musei Richnoviensis 4(2) / Bayer, M.B. 1999. Haworthia Revisited. Umdaus Press / Breuer, I. 2011. Alsterworthia International 11(2) / Bayer, M.B. & Manning, J.C. 2012. Haworthia Update 7(4) / Raimondo, D. et al. 2009. Red List of South African Plants. Strelitzia 25 / Hilton-Taylor, C. 1996. Red data list of southern African plants. Strelitzia 4(いずれも GBIF / IPNI / SANBI の書誌欄に記載。原典は直接参照しておらず、記述はデータベースの登録内容にもとづきます)
  • 画像は CC ライセンス画像(PD / CC0 / CC BY / CC BY-SA)のみを使用しています。各画像の作者・ライセンス・出典は 画像クレジット・出典一覧 に掲載しています

資料を読むときの補足

公的機関の側には、この種の解説頁がありません。竜鱗や瑠璃殿には、SANBI が運営する PlantZAfrica というサイトに種ごとの解説頁があります。

ところがムチカには、その頁がありません。2026-08-14 に確認したところ、pza.sanbi.org/haworthia-mutica も、変種名や隣の名前でたどった haworthia-retusa-var-mutica・haworthia-groenewaldii も、いずれも HTTP 404 でした。

同じサイトの haworthia-retusa-var-turgida と haworthiopsis-limifolia は 200 で開きます。サイトの障害ではなく、この種の頁が作られていないということです。

その結果、書けない項目も残ります。とくに花期(何月に咲くか)と、栽培の具体的な数値、越冬温度・遮光率・灌水の頻度・用土の配合、は、種固有の一次資料が確認できませんでした。

これらは「未確認」として空けたままにします。

価格については、この頁では扱いません。「ムチカ」というラベルで売られる株に複数の名前が混じることが、この記事で見てきたとおりだからです。

名前ごとの集計がそのまま参考値にならない以上、数字を出すこと自体が誤解のもとになります。

Field Note出典と確認日

本種ではとくにその制約が重く、南アフリカ国家生物多様性研究所(SANBI)自身が「レツーサ、ミラビリスとピグマエアの一部の型と区別しにくい」として評価を保留しています。形態と語源の記述は Bruce Bayer の『Haworthia Revisited』(1999)にもとづきます — SANBI も参考文献に挙げていますが、査読誌ではなく分類学者ひとりの改訂です(Breuer 2011 の原記載本文は未参照)。

花期・耐寒温度・灌水頻度・用土配合は一次資料を確認できず、この頁では書いていません。学名は出典または「未確認」として扱い、価格はこの頁では扱いません。

出現記録の件数は調査・観察の努力量に左右されるため、野生での個体数や分布の広さそのものではありません。また写真の同定は Wikimedia Commons の投稿者・分類カテゴリおよび iNaturalist の同定に由来するもので、この図鑑が検分した結果ではありません。

画像クレジット

この頁の写真は Wikimedia Commons と iNaturalist の CC ライセンス画像です(PD / CC0 / CC BY / CC BY-SA のみ採用・ND / NC は不採用)。ムチカとして掲載した写真は継承ライセンス(CC BY-SA 4.0)で、Wikimedia Commons と iNaturalist からのものです。近縁比較に加えた別種写真の帰属は、比較図に記載しています。

ムチカとして掲載した写真は、ファイル名・説明文・分類カテゴリのどこにも groenewaldii の語を含まないものを選びました(「名前は畳まれ、写真は分かれたまま」節)。
扉の写真: Photo: Abu Shawka / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
本文の観察・比較・野外写真の帰属は各 figure のキャプションに記載しています。

サイト全体の画像出典は画像クレジットにまとめています。

追加照合した資料の範囲

形態・語義・タイプはBayer公開第24章。2012年の反論は著者の見解として読む。

groenewaldtiiはgroenewaldiiよりtが1字多い。

本文の出品・観察件数は元の調査日を保持。写真の同定名は掲載元の記録によります。

  • URLをコピーしました!
目次