ハオルチア・ミラビリス|「バディア」「黒御影」は同じ種? 窓の条線と鋸歯で見る複合体
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ミラビリスHaworthia mirabilis / バディア・黒御影の親
系統軟葉系・レツーサ型
自生地南ア西ケープ Overberg
見分けの鍵窓の縦条線と葉縁の小鋸歯
「ハオルチア バディア」で検索して、ここにたどり着いた方が多いかもしれません。バディアは学名の体系では独立した種ではなく、ミラビリス(Haworthia mirabilis)という種の変種のひとつとして置かれています。「黒御影」も「ベークマニー」も同じです。売り場では別々の名前で並んでいる株が、学名の側では 1 つの種の下に集まっている——ここがこの記事の出発点です。
ただし話はそこで終わりません。ミラビリスはハオルチアのなかで最も名前が揺れてきた一群です。2012 年には 10 個もの名前がまとめてこの種の変種へ組み替えられましたが、そのうちのいくつかは、現在広く参照される分類データベースでは元の独立種の位置に戻っています。名前を追いかけるだけでは、いつまでも足場が定まりません。
そこでこの記事では、まず名前がどの層にあるのかを整理し、そのうえで写真で確かめられる見どころ——端面・条線・鋸歯・肌——を 4 か所に絞って示します。自生地のデータ、変種の書誌、買うときに確かめることまで、一次資料の実測値と商用利用できる実写 8 枚でたどっていきます。
この記事でわかること
- 「バディア」「黒御影」が学名のどこに置かれているかを突合表で確かめられる
- 見るのは色ではなく端面・窓面の縦条線・葉縁の小鋸歯・肌のざらつきの 4 か所
- 自生地がどこにどれだけ広がっているか、公開データベースの実測値でわかる
- 2012 年の統合と現行データベースの食い違いをそのまま並べて示す
「バディア」はどこにいるのか — 名前の 3 つの層
ハオルチアの名前は、少なくとも 3 つの層に分かれています。いちばん上に種の名前(ミラビリス)があり、その下に学名として登録された変種の名前(バディア、ムンドゥラ、トリブネリアナ……)があり、さらにその下に日本の売り場だけで通じる呼び名(黒御影、白鳳、青バディア……)が乗っています。この 3 つは別々の仕組みで付けられた名前で、上下の関係を取り違えると、同じ株が別物に見えてしまいます。
実際に確かめてみます。国際的な分類データベース GBIF で Haworthia badia を検索すると、受理名として返ってくるのは Haworthia mirabilis var. badia です(2026-07-24 実測)。同じように Haworthia mundula・Haworthia triebneriana・Haworthia sublineata・Haworthia paradoxa も、すべてミラビリスの変種名が受理名として返ります。独立した種の名前として使われ、いまは変種の位置に置かれている名前が、この種にはいくつも集まっているということです。
名前の 3 つの層 — どの層の名前を見ているのか
FIG.01Naming layers
LAYER 1 — 種
ミラビリス Haworthia mirabilis
1804 年に Aloe mirabilis として記載され、1812 年に Haworthia 属へ移された古い名前 … 国際的なデータベースで受理名として登録されている(出典 IPNI・GBIF・World Flora Online)
LAYER 2 — 変種(学名)
var. badia / var. mundula / var. triebneriana ほか
植物学の手続きに沿って発表され、出版年と掲載誌がたどれる名前 … GBIF が現在受理しているのは 8 変種。多くはかつて独立種だった名前が移されたもの
LAYER 3 — 売り場の呼び名
黒御影 / 白鳳 / 青バディア / 紅ヒトデバディア / 初恋 …
日本の販売・オークションで使われる呼び名 … 学名の手続きとは無関係に付き、同じ名前が別の株を指すこともある。協会の登録品種名とも別(後述)
層をまたいで「バディアはミラビリスとは別物か」と問うと答えが出ません。正しい問いは「バディアという名前は、どの層の名前か」です
この 3 層を分けておくと、売り場でよくある混乱がほとんど解けます。たとえば「バディアとミラビリスはどう違いますか」という問いは、層をまたいでいるので答えが出ません。バディアは学名の変種名(第 2 層)、ミラビリスは種名(第 1 層)なので、両者は並列ではなく包含の関係にあるからです。一方、「青バディアと紫バディアはどう違いますか」は第 3 層どうしの問いなので、学名では答えられません。
系統全体のなかでミラビリスがどこに位置するのかは、ハオルチアの品種と系統の全体像で整理しています。ミラビリスは葉先が切り詰められたように見える「レツーサ型」の一群に属し、この型の内部の見分けはとくに難しいところです。
基本情報 — 学名・自生地・耐寒性
ミラビリスの基本データ
Quick Spec
学名
Haworthia mirabilis (Haw.) Haw.(1812)
もとの名前
Aloe mirabilis Haw.(1804)
科
ツルボラン科(Asphodelaceae)
属の扱い
Haworthia のまま(Haworthiopsis / Tulista へは移っていない)
系統
軟葉系・レツーサ(retuse)型
流通名
バディア(var. badia)/ 黒御影(var. mundula)
自生地
南アフリカ 西ケープ州(Overberg 一帯)
生育環境
岩がちの斜面・砂岩の崖・礫地(フィンボス)
下位分類群
8 変種(GBIF backbone)
越冬の目安
属全体の一般指針として最低 3〜5℃ を下回らない要確認
保全
var. mirabilis は Sensitive 指定(SANBI・2010)
evidence level
1(公開情報の集約)
この植物は、いまのハオルチア属の名前より古い時代に記載されました。1804 年、イギリスの多肉植物研究者 Adrian Hardy Haworth が Aloe mirabilis として発表し(出典 = 国際植物名索引 IPNI。原記載は Transactions of the Linnean Society of London 7 巻 9 頁)、1812 年に Haworth 自身が Haworthia 属へ移しています(Synopsis Plantarum Succulentarum 95 頁)。Haworthia という属自体はフランスの Duval が 1809 年に設けて Haworth に献名したものなので(出典 = 南アフリカ国立生物多様性研究所 SANBI)、属ができた 3 年後に本人が移したという順番です。種小名の mirabilis はラテン語で「驚くべき」という意味です。
属の扱いも確認しておきます。近年の再編で、十二の巻やアテヌアータのような硬葉系は Haworthia 属から Haworthiopsis 属へ、大型で硬い一群は Tulista 属へ移されました。SANBI は狭義の Haworthia について「38 種、うち 25 種が変種に細分され、あわせて 131 分類群」と記載しています。ミラビリスはこの狭義 Haworthia に残っています。つまり「ハオルチア・ミラビリス」という呼び方は、現在の分類でもそのまま通用します。
越冬温度については、この種に固有の一次情報を確認できませんでした。園芸系の二次情報を見ると、同じサイトのなかで H. mirabilis に −5℃、var. badia に 5℃ という食い違う数値が並んでいることもあり、そのまま引くと誤情報になります。当サイトでは、ハオルチア属全体の一般指針として最低でも 3〜5℃ を下回らない環境で越冬させ、できれば 5℃ 以上を保つという目安を示すにとどめ、種固有の数値は要確認として扱います。確かなのは、自生地に霜が降りないと記録されていること(ただしこれは後述のとおり var. consanguinea についての記述です)だけです。属全体の目安の根拠はハオルチアの越冬(耐寒性)にまとめています。
自生地 — 西ケープ Overberg の岩と崖
この写真が、ミラビリスの葉先がなぜあの形をしているのかの答えです。自生地では株の大部分が岩の割れ目や礫の間に埋まり、地表に出ているのは切り詰められた葉先——つまり窓だけです。乾燥と強い日射から体を守りながら、窓から採り込んだ光で地中の葉が光合成する、という仕組みになっています。窓は「見せるための器官」ではなく「生き延びるための器官」だということです。
栽培株を上から見たときの平たい姿は、この自生の姿の名残です。逆にいえば、鉢の中で株が持ち上がって横から葉が丸見えになっていたら、それは自生地とはかけ離れた状態でもあります。
HABITAT DATA / MEASURED 2026-07-24
自生地レンジ — 公開データベースの実測値
総オカレンス
376 件(うち南アフリカ 330 件)GBIF
座標付きの記録
271 件GBIF
州
座標付き 271 件のうち州名のある 227 件はすべて Western Cape全 376 件でも東ケープは 0 件
緯度レンジ
-34.63 〜 -33.12(中央 90% は -34.52 〜 -33.79)
経度レンジ
19.22 〜 23.38(中央 90% は 19.45 〜 21.38)東端は旧名由来の古い標本
標本ラベルの地名
Greyton / Genadendal / Napier / Caledon / Bredasdorp / Potberg / Swellendam / Riviersonderend / McGregor / Robertson
記録年
1929 〜 2026(観察 116 / 押し葉標本 104 / 材料標本 51)
崖の生育地の数値
標高 1,000〜1,500 m・年降水量 600〜800 mm・夏 28〜34℃・霜なしvar. consanguinea の記述
本記事の自生地写真
iNaturalist の 4 観察はすべて Greyton(西ケープ州)・research grade
出典 = GBIF occurrence search(taxonKey 2780030)/ SANBI PlantZAfrica(var. consanguinea 頁)/ iNaturalist。いずれも 2026-07-24 取得。州・緯度経度・記録年・記録の種別は座標付き 271 件を母数とした値です
数字で見ると、二次情報の食い違いがはっきりします。座標付きの記録 271 件のうち、州名が入っている 227 件はすべて西ケープ州(Western Cape)です。座標の無いものまで含めた全 376 件に広げると、州名が読み取れるのは 282 件で、内訳は西ケープ 280 件・北ケープ 1 件・米ニューヨーク 1 件——後の 2 件はどちらも植物園コレクション由来の記録です(ニューヨークの 1 件は 1901 年に Kew から入った栽培株を 1903 年に標本にしたもの)。どちらの数え方でも東ケープの記録は 1 件もありません。日本語の園芸データベースには原産地を「東ケープ」と書くものがありますが、GBIF の記録・SANBI の記述・英語版 Wikipedia はいずれも西ケープで一致しています。当サイトは一次記録の側を採ります。
分布の中心は Overberg と呼ばれる西ケープ南部の一帯です。標本ラベルに並ぶ地名——Greyton、Genadendal、Napier、Caledon、Bredasdorp、Potberg、Swellendam——はいずれもこの範囲に収まります。経度の東端に 23.38 という値がありますが、これは Haworthia willowmorensis という古い名前(現在はミラビリスの異名として扱われます)に由来する昔の標本記録です。この外れ値をもって「広く分布する」とは書けません。
生育地の具体的な数値については、範囲を限って引きます。SANBI の PlantZAfrica は、Riviersonderend 山地(McGregor から Greyton にかけて)の南向きの珪岩質砂岩の崖に生え、標高 1,000〜1,500 m、夏の気温 28〜34℃、冬は涼しいが霜は降りず、年降水量は 600〜800 mm で冬季に集中する、と記述しています。ただしこれは var. consanguinea についての記述で、種全体の環境ではありません。同ページはこの変種を「崖という到達困難な生育地に守られている」として保全区分 Rare(希少)としています。
ひとつ注意があります。この記事で使っている自生地の写真 4 枚は、すべて Greyton という 1 か所で撮影されたものです(撮影者も同一)。「ミラビリスの自生地はこういう場所です」と一般化はできません。崖に張りつくものもあれば、上の写真のように礫と枯草の間で平たく広がるものもあり、生育地の幅はこの 4 枚が示す範囲よりずっと広いと考えるべきです。
見るのは 4 か所 — 端面・条線・鋸歯・肌
写真で確かめられる 4 か所 — 上から順に見ていく
FIG.02Where to look
POINT 1 — 端面
葉先が三角形にそぎ落とされる(retuse)
葉の先が斜めに切り詰められ、上を向いた三角形の面ができる … この面が「窓」。まずこの形があるかどうかで、レツーサ型かどうかの当たりが付く
POINT 2 — 窓面の線
縦に走る条線、または網目状の線
端面に縦方向の線が何本も走るか、白っぽい網目が広がる … 線の走り方は個体や変種で差が大きく、同じ名札の株どうしでもそろわない
POINT 3 — 葉のふち
小さな鋸歯(きょし)が並ぶ
葉の縁と、裏側の稜(キール)に細かいトゲ状の突起が並ぶ … 当サイト在庫の 8 枚すべてで確認できた。ただし鋸歯の有無だけで種は決まらない
POINT 4 — 肌
つるりとせず、粒状にざらつく
端面の表面が細かく荒れ、光が散る … 透きとおる窓を持つクーペリー系とは、そもそも評価する軸が違う
この 4 か所は「候補を絞る」ための観点であって、答えを出すためのものではありません。4 つとも当てはまっても、近縁の別種である可能性は残ります
ミラビリスを見るときは、色ではなくこの 4 か所を順番に確かめます。葉先が三角形にそぎ落とされているか、その面に線が走っているか、葉のふちに小さな鋸歯が並んでいるか、面がざらついているか。当サイトが本記事のために目視した 8 枚では、この 4 点がすべて確認できました。逆にいえば、この 4 点はミラビリスであることの証明にはならず、レツーサ型の候補に入れるための入口にすぎません。
とくに 鋸歯は、写真では見落としやすいところです。株を真上から撮ると輪郭に紛れて写らないことが多く、少し斜めから、葉の縁に光が当たる角度で見ると浮かび上がります。上の扉の写真では、紫褐色の葉のふちに細かいトゲ状の並びが読み取れます。
透きとおる窓を持つクーペリー系との比較は、クーペリー系の見分け方で 3 つの軸に分けて整理しています。ミラビリスは「どれだけ透けるか」を見る植物ではありません。面の線と縁の鋸歯、そして質感で見る一群です。
色は手がかりにならない
この 1 枚が、色で名前を決めてはいけない理由をそのまま示しています。同じ鉢に植えられ、同じ環境で育っている株が、右は緑、左は紫褐色です。日本の売り場では「青バディア」「紫バディア」「チョコバディア」のように色を冠した呼び名が使われますが、色は光の量・季節・水の与え方でここまで動きます。買ったときの色が、家に置いたあとも続くとはかぎりません。
自生地でも同じことが起きています。上の 2 枚と、前の節で見た緑の群生は、いずれも同じ Greyton 周辺で、同じ撮影者が記録したものです。それでも、片方は乾いて橙色に縮み、片方は枯草の間で緑を保っています。季節と日射で、同じ場所の同じ植物がここまで違って見えるということです。
写真で品種を判定しようとするとき、多くの人がまず色を見ます。しかし色は、その株の名前ではなくその株が置かれていた環境を映しています。いちばん目立つ情報が、いちばん当てにならないということです。
8 つの変種と、日本の呼び名
var. mundula黒御影

ムンドゥラ var. mundula
白い網目状の線旧 H. mundula流通名「黒御影」
var. triebneriana記録最多

トリブネリアナ var. triebneriana
記録 146 件旧 H. triebnerianaGreyton 周辺
写真で示せる変種は、この 2 つだけです。左は米カリフォルニアの園芸ショーで var. mundula として展示された株、右は南アフリカの自生地で var. triebneriana と同定されている株です。残る 6 変種については、商用利用できるライセンスの写真が存在しません。当サイトは実在する変種・銘の「写真らしい」画像を生成して埋めることはしないため、以下は書誌の表として示します。
左の写真について
左のカードの写真には、この記事の主題そのものが写り込んでいます。投稿者は Wikimedia Commons の説明文で、この株を Haworthia mirabilis var. mundula と記載したうえで、「展示会場の札の同定は誤っている」と自ら注記しています。つまりこの写真の名前は、展示者でも第三者でもなく、投稿者ひとりの判断によるものです。名前が付いた根拠がどこにあるのかは、株そのものからは読み取れません。
| 変種(学名) | もとの名前(basionym) | 独立種の名前としても使われた | 記録数 | 日本の呼び名 |
|---|---|---|---|---|
| var. mirabilis | 基本変種。種そのもの | — | 22 | — |
| var. badia | H. badia Poelln.(1938) | もともと独立種 | 12 | バディア / バデア / バーディア |
| var. beukmannii | H. emelyae var. beukmannii Poelln. | —(エメリアエの変種が出発点) | 12 | ベークマニー |
| var. consanguinea | Bayer が 1999 年に新しく記載 | H. consanguinea (M.B.Bayer) M.Hayashi(2000) | 8 | — |
| var. mundula | H. mundula G.G.Sm.(1946) | もともと独立種 | 2 | 黒御影 |
| var. paradoxa | H. paradoxa Poelln.(1933) | もともと独立種 | 16 | — |
| var. sublineata | H. triebneriana var. sublineata Poelln. | H. sublineata (Poelln.) Breuer(2010) | 12 | — |
| var. triebneriana | H. triebneriana Poelln.(1936) | もともと独立種 | 146 | — |
この表から読み取れることが 3 つあります。1 つめは、8 変種のうち 4 つ——バディア・ムンドゥラ・パラドクサ・トリブネリアナ——がもともと独立した種として記載された名前だということ。さらに consanguinea は 2000 年に林が、sublineata は 2010 年に Breuer が、それぞれ独立種の位置へ引き上げています。8 つのうち 6 つは、どこかの時点で「種」として扱われた名前です。2 つめは、日本の呼び名が付いているのが 8 つのうち 3 つだけだということ。残りの 5 変種は、日本の売り場ではほとんど見かけません。
3 つめが、記録数の偏りです。var. triebneriana の 146 件に対し、var. mundula はわずか 2 件しかありません。これは希少性の指標ではなく、記録のされ方の差です。当サイトが自生地写真を持っているのが triebneriana ばかりなのも、同じ偏りの表れです。この数字を「入手しやすさ」と読み替えないでください。
名前の付き方の歴史も、簡単にたどっておきます。国際植物名索引(IPNI)で「Haworthia mirabilis」を検索すると 28 件のレコードが返ります(2026-07-24 実測)。内訳を年代順に見ると、1976 年の Haworthia Handbook で subsp. badia と subsp. mundula が置かれ、1983 年に Pilbeam が 4 つの品種(forma)を、1999 年の Haworthia Revisited で Bayer が var. badia・beukmannii・calcarea・consanguinea・sublineata・triebneriana をまとめて発表しています。いま流通しているラベルの多くは、この 1999 年の整理に由来します。
複合体の揺れ — マグニフィカ・マライシー・ハイデルベルゲンシス
ハオルチアは何種あるのか — 主要 3 見解の併記
統合派 BAYER
種数
約 60 種
立場
変異の幅とみてまとめて数える
ミラビリスでは
2012 年に 10 個の名前を変種へ組み替え
中間 BREUER
種数
約 366 種
立場
やや細かく分ける
ミラビリスでは
2016 年に var. depauperata を発表
細分派 HAYASHI
種数
約 546 種
立場
さらに細かく分ける(林)
ミラビリスでは
複合体の各群を独立種として扱う立場
ミラビリスは、この 3 つの立場の違いが最もはっきり現れる種のひとつです。ハオルチアが何種あるかについては、林の 546 種、Breuer の 366 種、Bayer の約 60 種という 3 つの見解が並立しています。数がここまで違うのは、同じ植物を「別種」と見るか「1 種のなかの変異」と見るかの判断が分かれるからで、ミラビリスはまさにその判断が最も割れる複合体にあたります。
具体例を見ます。2012 年、Bayer は Haworthia Update 誌 7 巻 4 号で、magnifica・maraisii・heidelbergensis・splendens・atrofusca・meiringii・notabilis・scabra・toonensis・mundula という 10 個の名前を、まとめてミラビリスの変種として組み替えました(出典 = IPNI の登録情報)。この整理に従えば、これらはすべて 1 つの種の中の変異ということになります。
ところが、現在の分類データベースはそのとおりになっていません。GBIF の backbone を実際に照会すると(2026-07-24)、Haworthia magnifica・H. maraisii・H. heidelbergensis はいずれも独立した種として受理されており、それぞれ自前の下位分類群を持っています。H. splendens にいたっては、受理名が Haworthia magnifica var. splendens ——つまりミラビリスではなくマグニフィカの変種として扱われています。組み替えられたのは mundula だけが定着した形です。
| 名前 | Bayer 2012 の扱い | GBIF の現行受容(2026-07-24 実測) |
|---|---|---|
| Haworthia magnifica Poelln. | H. mirabilis var. magnifica へ | 独立種として受理(下位 5 分類群) |
| Haworthia maraisii Poelln. | H. mirabilis var. maraisii へ | 独立種として受理(下位 3 分類群) |
| Haworthia heidelbergensis G.G.Sm. | H. mirabilis var. heidelbergensis へ | 独立種として受理(下位 3 分類群) |
| Haworthia splendens | H. mirabilis var. splendens へ | 受理名は H. magnifica var. splendens |
| Haworthia mundula G.G.Sm. | H. mirabilis var. mundula へ | H. mirabilis var. mundula(定着) |
ここから引き出せる教訓は、「いちばん新しい見解が正解とはかぎらない」ということです。2012 年の組み替えは 1999 年の整理より新しいものですが、その後の主要なデータベースには反映されていません。学名の世界では、発表されることと広く受け入れられることは別の出来事です。手元の株のラベルがどの体系に由来するのかを、ラベルから読み取ることはできません。
混同注意
「マグニフィカ」という呼び名は、まったく別の場所でも使われます。玉扇(Haworthia truncata)の型として流通する「マグニフィカ型」がそれで、こちらは玉扇の下位分類群として記載されたことがない呼び名です。上の表で扱っている Haworthia magnifica とは別の話なので、名前を見かけたときはまずどちらを指しているかを確かめてください。玉扇側の名前の層については玉扇の記事で整理しています。
近縁との見分け — 「次に見る所」で進める
レツーサ型の近縁 — 断定でなく「次に見る所」の表
ミラビリス H. mirabilis
窓面
縦条線または白い網目が入る傾向
葉のふち
小さな鋸歯が並ぶ傾向
次に見る所
産地番号(MBB / IB など)が付いているか
マグニフィカ H. magnifica
窓面
白い粒が密に乗る傾向
葉のふち
鋸歯あり
次に見る所
そもそも玉扇の「マグニフィカ型」と取り違えていないか
マライシー H. maraisii
窓面
暗色で線が細かい傾向
葉のふち
鋸歯あり
次に見る所
体系によってはミラビリスの変種に置かれる名前
この表は「答え」ではなく「次に何を見るか」の表です。そう書く理由は、南アフリカ国立生物多様性研究所(SANBI)自身が、この属について「分類はまだ完全には解決しておらず、分類群の境界はしばしば不明瞭で、分類群自体が非常に変異に富む」と明記しているからです(出典 = SANBI National Sensitive Species List の var. mirabilis 評価ページ)。同機関はさらに、自らの評価も分類群の認識のしかたに左右される、と注記しています。
つまり、現地の標本を扱う国家機関ですら「線が引けていない」と表明しているのがこのグループです。手元の株について確度を上げたい場合、いちばん効くのは見た目の比較ではなく、採集番号や産地情報が付いているかどうかを確認することです。
扉の写真がその実例です。Wikimedia Commons でのファイル名に「MBB」と産地名「Windsor」が入っています。MBB は Bayer の採集番号を示す略号で、その株がどこで採られた系統に由来するのかを示す記録です。ただし番号は産地の記録であって、その写真が自生地で撮られたことを意味しません。扉の株も、鉢植えか地植えかは写真からは判別できません。
クーペリー・シンビフォルミス・オブツーサとの見分けは軸がまったく違うため、本記事では扱いません。そちらはクーペリー系の見分け方に 3 つの軸としてまとめています。
育て方の要点 — 光・水・冬
LIGHT
明るい日陰が基本
直射は避け、レース越しの窓辺くらいの明るさで … 自生地では岩の割れ目や礫の間に体を隠しており、上からの強光をそのまま受ける想定ではない
WATER
乾いてからたっぷり
水はけを最優先にした用土で、乾湿のメリハリをつける … 真夏・真冬は回数を減らす。褐色に色づくのは日射への反応で、不調のサインとはかぎらない
WINTER
凍結させない
属全体の一般指針は最低 3〜5℃ を下回らないこと … 種固有の耐寒限界は一次情報が確認できず要確認。自生地に霜が降りない記録はあるが、これは var. consanguinea の記述
育て方はハオルチアの基本から外れません。光・水・用土はハオルチアの育て方、用土・鉢・LED・棚の選び方は育成環境ガイド、間延びの切り分けは徒長の原因と直し方にまとめています。
この種で 1 つだけ覚えておきたいのは、褐色や紫褐色に色づくことが必ずしも不調ではないということです。自生地の写真で見たとおり、強い光を受けた株は橙や赤銅色まで振れます。ただし、葉が乾いて縮んでいるなら、それは色づきではなく水と光のバランスが崩れているサインです。色そのものではなく、葉に張りがあるかどうかで判断してください。
入手時の注意 — 名前と、野生採取のこと
買う前に確かめたい 3 つ
FIG.03Checklist
CHECK 1
銘は「登録名」とはかぎらない
売り場の銘の多くは協会の登録品種名ではなく、販売者が付けた呼び名 … 同じ銘が別の株を指すこともあるので、名前ではなく株そのものを見る
CHECK 2
実生株・国内栽培株を選ぶ
南アフリカの国家機関が、この種の基本変種について園芸目的の野生採取を significant(重大)と評価している … 出所を説明できる販売者から買う
CHECK 3
検索語で見つかる量が大きく違う
種名で探すとほとんど出てこず、変種銘で探すと出てくる … 学名で探して「流通していない」と判断しない
当サイトは価格の代表値・平均値を掲載しません。集計条件で印象が大きく変わる数値であり、現時点では誠実に示せないと判断しているためです
まず、銘の扱いをはっきりさせておきます。ハオルチアの栽培品種名の国際登録機関(ICRA)は日本ハオルシア協会で、同協会は申請にもとづく登録品種の一覧を公開しています。この一覧を実際に確認したところ(2026-07-24 時点・2018 年 3 月更新版)、「バディア」「ミラビリス」「黒御影」を親名とする登録品種は掲載されていませんでした。ミラビリス複合体に関係する登録品種として見つかったのは、マグニフィカ交配の個体品種「紫白(しはく / Shihaku)」1 件のみです(出典 = 同協会サイトの申請登録品種一覧)。
一方、オークションのタイトルには「バディア錦」「青バディア」「紅ヒトデバディア×SAバディア」「バディア×ピクタ」「初恋」といった名前が並びます。これらは登録品種名ではなく、売り場で使われている呼び名です。呼び名そのものが悪いわけではありませんが、「登録された正式な品種名」と受け取ると、同じ名前の別の株を買ったときに話が合わなくなります。和名・学名・流通名の対応は名前の対照表で引けます。
流通の量については、検索語によって見え方がまったく変わります。落札相場検索サイトのオークフリー(ヤフオク!の落札履歴)で直近 30 日の落札を調べると、「ハオルチア バディア」は 24 件、「ハオルチア ミラビリス」は 0 件でした(2026-07-24 取得)。Google の検索候補でも、「ハオルチア バディア」には育て方・白鳳・ピンキー・夕焼けバディア・チョコバディア・紫バディアという 6 つの派生候補が出るのに対し、「ハオルチア ミラビリス」には派生候補が出ません。学名で探して見つからないからといって、流通していないわけではないということです。
これらは検索一致の総件数であり、表記揺れや別品種の混入を含む参考値です。当サイトは価格の代表値・平均値を掲載しません。示した件数は取得時点の値であり、価格や入手可能性を保証するものではなく、外れ値の補正も行っていません。実際に買うときは、その時点の出品をご自身で確かめてください。
最後に、出所についても触れておきます。南アフリカ国立生物多様性研究所(SANBI)の National Sensitive Species List は、基本変種 var. mirabilis を 2010 年に Sensitive(取り扱いに注意を要する分類群)に指定しています。理由として、園芸取引のための野生採取が significant な規模で行われていること、既知の亜個体群が 1 つしかないこと、分布域が 100 km² 以下であること、そして 2018〜2021 年に Haworthia 属の押収記録が複数あることが挙げられています。実生で殖やされた株や、国内で栽培された株を選ぶことには、感情論ではない裏づけがあります。
まとめ
Summary
名前の層をほどくと、複合体の全体像が見えてくる
ミラビリスは、日本で「バディア」「黒御影」として売られている株の学名上の住所です。1804 年に記載された古い種で、8 つの変種を抱え、そのうち 6 つはどこかの時点で「種」として扱われた名前です。名前は 200 年以上動き続けており、いまも体系によって置き場所が変わります。
名前は 3 つの層にある種名・学名の変種名・売り場の呼び名は別の仕組み
見るのは 4 か所端面の三角形・窓面の線・葉縁の鋸歯・肌のざらつき
色では決められない同じ鉢の中でも緑と紫褐色が並ぶ
最新 = 正解ではない2012 年の統合は現行データベースに反映されていない
- ミラビリス Haworthia mirabilis は、日本で「バディア」「黒御影」「ベークマニー」として流通する株を傘下に置く軟葉系の種です
- 1804 年に Aloe mirabilis として記載され、1812 年に Haworth 自身が Haworthia 属へ移しました。硬葉系が Haworthiopsis 属へ、大型硬質群が Tulista 属へ移った後も、本種は Haworthia 属に残っています
- GBIF が受理する変種は 8 つ。うち 4 つはもともと独立種として記載され、さらに 2 つが後年に独立種へ引き上げられています
- 自生地は南アフリカ西ケープ州の Overberg 一帯。GBIF の座標付き記録 271 件のうち州名のある 227 件はすべて西ケープで、全 376 件に広げても東ケープの記録はありません
- 2012 年に Bayer が 10 個の名前を本種の変種へ組み替えましたが、現行の分類データベースでは magnifica・maraisii・heidelbergensis は独立種のまま扱われています
- SANBI 自身が「分類群の境界はしばしば不明瞭」と明記しています
- 買うときは銘より株を見て、実生株・国内栽培株を選ぶ。野生採取をめぐる公的な指摘があります
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FAQ
バディアとミラビリスは別の植物ですか?
並列の関係ではなく、包含の関係です。GBIF で Haworthia badia を照会すると、受理名として Haworthia mirabilis var. badia が返ります(2026-07-24 実測)。バディアは学名では独立種ではなく、ミラビリスの変種のひとつという扱いです。ただし研究者によっては独立種として扱う立場もあります。
「黒御影」という名前はどこまで正式ですか?
日本の園芸データベースが var. mundula に当てている流通名として確認できますが、日本ハオルシア協会(ISHS 指定 ICRA)の申請登録品種一覧には掲載されていません。学名の手続きとも別の層にある呼び名です。
写真を送れば品種を判定してもらえますか?
写真 1 枚で決まらないのは、あなたの写真が悪いからではありません。南アフリカ国立生物多様性研究所(SANBI)自身が、この属について分類群の境界はしばしば不明瞭であると明記しています。確度を上げたいなら、見た目の比較ではなく採集番号や産地情報が付いているかを確認するのがいちばん効きます。
何℃まで耐えられますか?
最低でも 3〜5℃ を下回らせず、できれば 5℃ 以上 — これが実用の線です(ハオルチア属全体の一般的な指針)。属の指針を使うのは、本種の数値が信用できる形で揃っていないからです。園芸系の二次情報では同じサイト内で −5℃ と 5℃ が併記されており、そのまま引ける状態ではありません。本種に固有の耐寒限界を示す信頼できる一次情報も確認できていないため、要確認としています。
葉が茶色くなってきました。枯れかけていますか?
この種は光を強く受けると褐色から紫褐色、さらに橙色まで色づきます。自生地の写真でも同じ現象が記録されているため、色づきそのものは異常ではありません。判断の基準は色ではなく張りです。葉が乾いて縮み、しわが寄っているなら、光と水のバランスを見直してください。
ラベルにある「MBB」や「IB」は何ですか?
採集者ごとに振られたフィールド番号で、MBB は M.B. Bayer の採集番号を示します。その株がどこで採られた系統に由来するかの記録なので、名前だけのラベルより情報量があります。ただし番号は産地の記録であって、その個体が野生から採られたことも、写真が自生地であることも意味しません。
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出典
- IPNI(国際植物名索引)— Aloe mirabilis Haw. 1804(Trans. Linn. Soc. London 7: 9)/ Haworthia mirabilis Haw. 1812(Syn. Pl. Succ. 95)/ 変種 27 件の記載情報と出版元: ipni.org
- GBIF — backbone の受理状況(taxonKey 2780030)、受理される 8 変種、シノニム、座標付きオカレンス 271 件のレンジ: gbif.org
- World Flora Online — 分類配置(wfo-0000651903): worldfloraonline.org
- SANBI PlantZAfrica — 属の 3 分割(Haworthia / Haworthiopsis / Tulista)、狭義 Haworthia の 38 種 131 分類群、属名の由来: pza.sanbi.org
- SANBI PlantZAfrica — var. consanguinea の頁。標高 1,000〜1,500 m・年降水量 600〜800 mm・夏 28〜34℃・霜なし・開花 10〜11 月・保全区分 Rare・学名の由来。これらの数値は本変種についての記述であり、種全体の値ではありません: pza.sanbi.org
- SANBI National Sensitive Species List — var. mirabilis の Sensitive 指定(2010)、採取の程度 significant、亜個体群 1・分布 ≤100 km²、2018〜2021 年の押収記録、分類の未解決に関する注記: nssl.sanbi.org.za
- 日本ハオルシア協会(ISHS 指定 ICRA)— 申請登録品種一覧(2018 年 3 月更新)。バディア系の銘の掲載なし / マグニフィカ交配「紫白」の登録: haworthia.net
- iNaturalist — 本記事で使用した 4 観察(いずれも research grade・南アフリカ西ケープ州 Greyton): obs 62344053 / obs 323879846 / obs 231663411 / obs 334374731
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扉の写真: Photo: Abu Shawka / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
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トリブネリアナのカード: Photo: Klaus Wehrlin / CC0, via iNaturalist
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