エメリアエ(宝の寿)|ピクタ・コレクタ・コンプトは同じ種? 窓の質感で見分ける
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エメリアエHaworthia emelyae / 宝の寿
系統軟葉系・レツーサ群
自生地南ア西ケープ
見分けの鍵窓面の白点とざらつき
園芸店やオークションで「ピクタ」「コレクタ」「コンプト」という名札を見たことがあるでしょうか。日本語圏ではこの三つが、まったく別の植物のように並べて売られています。ところが公開されている分類データベースを突き合わせると、いずれも Haworthia emelyae(エメリアエ / 和名 宝の寿)という一つの種の内側に収まります。
この記事は、その「一つに集まる」構造を、書誌データと保全評価の実測値だけで組み立てた事典です。名前がなぜ四つに割れたのか、いま何がどこまで確定していて、どこがまだ割れているのか。そして名札が当てにならないなら、代わりに何を見ればいいのか——窓面の質感という、写真で確かめられる手がかりまで順にたどります。
この記事でわかること
- 「ピクタ」「コレクタ」が エメリアエ基本変種の異名として整理されていること
- 認められている変種は 4 つだけで、そのうち写真で示せるのは 2 つしかないこと
- 学名がいまも 2 つの体系で割れていること(コンプトの名前が 2 通り生きている)
- 名札の代わりに見るべき所 = 窓面が白点か、網目か、平滑か
エメリアエとは — 4 つの名前が集まる場所
PLACEMENT / MEASURED 2026-07-24
日本の 4 つの呼び名は、1 種の内側のどこに入るか
ツルボラン科 AsphodelaceaeASPARAGALES / ALOOIDS
ハオルチア属 HAWORTHIA(軟葉系・万象・玉扇)
認められている 4 変種 ACCEPTED VARIETIES(GBIF 実測)
出典 = GBIF Backbone Taxonomy(key 2780433 の children を API で実測)/ World Flora Online 分類版 2026-06。2026-07-24 取得
日本語圏で別々の商品として扱われている名前は、分類の側ではひとつの種の内側に整理されています。国際的な分類データベース GBIF のバックボーン分類では Haworthia emelyae Poelln. が受理名で、その下に認められている変種は 4 つだけ。「ピクタ」も「コレクタ」も、基本変種 var. emelyae の異名として登録されています。「コンプト」は var. comptoniana、つまり 4 変種のうちの 1 つにあたります。
この記事が最初に伝えたいのは、それらが「似ている別の植物」ではなく「同じ植物の別の呼び方」だという点です。もちろん見た目には幅があります。白い点がびっしり乗る株もあれば、点がまばらで褐色の筋が目立つ株もある。その幅がそのまま名前の数になってしまったのが、この一群の歴史です。
上の 2 株は、同じ名前で同じ場所に並んでいます。それでも白点の量はまるで違います。手前の株だけを見て「これがピクタ」、奥の株だけを見て「これはエメリアエ」と分けたくなる——この誘惑が、100 年近くにわたって名前を増やし続けてきました。ハオルチア全体の系統の見取り図はハオルチアの品種と系統の全体像にまとめてありますが、この属では「変異の幅」と「別種」の境目が、いまも研究者ごとに違います。
なお、同じ軟葉系でもクーペリー系のように窓が透きとおるグループとは、見るべき場所がまったく違います。エメリアエの窓は透明度を競いません。ざらついた面にどんな模様が乗るか——評価軸はそこにあります。
基本情報 — 学名・自生地・耐寒性
エメリアエの基本データ
Quick Spec
学名
Haworthia emelyae Poelln.(1937)
原記載
Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 42: 271
科
ツルボラン科(Asphodelaceae)
属の扱い
Haworthia のまま(Haworthiopsis へは移っていない)
系統
軟葉系・レツーサ(retuse)群
和名・別名
宝の寿(たからのことぶき)
流通名
ピクタ / コレクタ / コンプト
認められた変種
4(GBIF backbone の children 実測)
基本変種の異名
11 名(GBIF・picta / correcta を含む)
自生地
南アフリカ 西ケープ州(Western Karoo, Klein Karoo to Uniondale)
生育環境
Succulent Karoo の karroid shrubland
越冬の目安
属全体の一般指針として最低 3〜5℃ を下回らない要確認
保全評価
Data Deficient – Taxonomically Problematic(SANBI・2014)
学名は Haworthia emelyae Poelln.、1937 年に von Poellnitz が記載しました(出典 = 国際植物名索引 IPNI および GBIF バックボーン分類。原記載は Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 42 巻 271 頁)。GBIF では受理名として登録され(usageKey 2780433)、科はツルボラン科(Asphodelaceae)、目はキジカクシ目です。種レベルでは H. retusa subsp. emelyae と H. retusa var. emelyae という 2 つの異名が登録されており、過去には「レツーサ(寿)の一部」として扱われた時期があったことがわかります。
属の扱いも押さえておきましょう。2013〜2014 年の再編で、十二の巻やアテヌアータのような硬葉系は Haworthia 属から Haworthiopsis 属へ、大型で硬い一群は Tulista 属へ移されました。園芸の現場では旧属名がそのまま使われ続けるため混乱しやすいところですが、エメリアエはレツーサ群として Haworthia 属に残っています。「ハオルチア・エメリアエ」という呼び方は、現在の分類でもそのまま通用します。
越冬温度については、この種に固有の一次情報を確認できませんでした。園芸系の二次情報は同一サイトの中でも「安全圏は 5℃」「乾燥していれば氷点下まで耐える」と食い違います。属全体の一般指針として最低でも 3〜5℃ を下回らせず、できれば 5℃ 以上を目安に置き、種固有の数値は要確認として扱います。自生地が Succulent Karoo の乾燥地で、凍結を前提とした環境ではないことは確かです。この目安の根拠と冬の管理はハオルチアの越冬(耐寒性)にまとめています。
「ピクタ」「コレクタ」はどこから来たか
「ピクタ」も「コレクタ」も、1938 年に独立した種として発表された学名です。Haworthia picta Poelln. と Haworthia correcta Poelln.。どちらも H. emelyae と同じ von Poellnitz の記載で、発表誌も同じ Repert. Spec. Nov. Regni Veg.、しかも 1 年ちがいです。同じ研究者が、ほとんど同じ時期に、似た植物へ次々と別の名前を与えていた——その痕跡がいまも流通名として残っています。
そして現在、この 2 つは基本変種 var. emelyae の異名として整理されています。当サイトが 2026 年 7 月 24 日に実測したかぎり、GBIF バックボーン分類・World Flora Online(分類版 2026-06)・SANBI Red List(v2024.1)の 3 つが、いずれも同じ結論を示していました。SANBI の var. emelyae のページには、Synonyms 欄に picta・correcta・breueri・janvlokii などが並んでいます。
| 名前 | 記載者・発表誌(実測) | いまの扱い |
|---|---|---|
| Haworthia emelyae | Poelln. / Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 42: 271(1937) | 受理名(種) |
| Haworthia picta | Poelln. / 同誌 44: 133(1938) | var. emelyae の異名 |
| Haworthia correcta | Poelln. / 同誌 43: 103(1938) | var. emelyae の異名 |
| Haworthia comptoniana | G.G.Sm. / J. S. African Bot. 11: 76(1945) | var. comptoniana の異名 |
| Haworthia schuldtiana var. major | G.G.Sm. / J. S. African Bot. 12: 1(1946) | var. major の基礎異名 |
| Haworthia breueri | M.Hayashi(林)/ Haworthia Study 7: 14(2002) | var. emelyae の異名 |
| Haworthia picta var. janvlokii | Breuer / Avonia 21(3): 52–53(2003) | var. emelyae の異名 |
| Haworthia picta var. tricolor | Breuer / Avonia 21(3): 53–55(2003) | var. emelyae の異名 |
| Haworthia marxii | Gildenh. / Aloe 44: 4(2007) | var. emelyae の異名 |
| Haworthia janvlokii | (Breuer) Breuer / Gen. Haworthia 1: 7(2010) | var. emelyae の異名 |
| Haworthia picta var. comptoniana | (G.G.Sm.) Breuer / Alsterworthia Int. 16(2): 6(2016) | var. comptoniana の異名(Breuer 体系では現役) |
この表を通して見えるのは、名前が増えた時期と、まとめられた時期がはっきり分かれていることです。1937〜1946 年に集中して独立種が記載され、1979〜1997 年に統合が進み、2003〜2016 年にふたたび細分の名前が加わっています。植物が変わったのではなく、それをどう区切るかという判断が三度ゆれただけです。園芸の流通名は最初の波(1930 年代)で付いた名前をそのまま持ち越しているため、いまの分類とずれて見えます。
名札の混乱は、日本の売り場だけの話ではありません。次の写真は海外の植物園の掲示ですが、こちらは現在の受理名にそろっています。
ただし、名札に書かれた名前は「そう掲示されている」という事実であって、同定の根拠ではありません。上の 2 枚も、Wikimedia Commons の収蔵カテゴリがそう示している、という形で扱っています。名札は「誰が・いつ・どの見解で」付けたかの記録として読むのが、いちばん実態に近い読み方です。
それでも学名は割れている — 2 つの体系
ハオルチアは何種あるのか — 主要 3 見解の併記
統合派 BAYER
種数
約 60 種
立場
変異の幅とみてまとめて数える
エメリアエでは
multifolia を変種として記載(1979)、major を emelyae の変種へ(1997)
中間 BREUER
種数
約 366 種
立場
やや細かく分ける
エメリアエでは
picta を軸に置き直し、picta var. comptoniana とする(2016)
細分派 HAYASHI
種数
約 546 種
立場
さらに細かく分ける(林)
エメリアエでは
breueri(2002)・multifolia(2000)・tricolor(2010)を独立種として記載
ハオルチアが何種あるのかは、研究者によって一桁ちがいます。統合派の Bayer が約 60 種、中間の Breuer が約 366 種、細分派の林が約 546 種。エメリアエは、この三者の立場の違いが実物で見える教科書のような一群です。本記事はそれぞれの見解が「いつ・どの文献で」示されたかを並べています。
この対立が、いちばんはっきり形になっているのがコンプト(コンプトニアナ)の学名です。Bayer 系の整理では Haworthia emelyae var. comptoniana、Breuer 系の整理では Haworthia picta var. comptoniana。後者は 2016 年に発表された比較的新しい組み合わせで、いまも生きています。同じ植物に 2 通りの名前が現役で存在している、ということです。
エメリアエをめぐる名前の 3 期 — 記載 → 統合 → 再分割
FIG.04Timeline
第 1 期 記載
emelyae・picta・correcta・comptoniana が、それぞれ別の独立種として世に出る
1937 Poelln. が H. emelyae を記載(Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 42: 271)/ 1938 同じく H. correcta(43: 103)と H. picta(44: 133)/ 1945 G.G.Sm. が H. comptoniana(J.S.African Bot. 11: 76)/ 1946 同 H. schuldtiana var. major(12: 1)
第 2 期 統合
別々だった名前が、emelyae という 1 つの種の下へ集められる
1979 Bayer が var. multifolia を記載(Natl. Cact. Succ. J. 34(2): 31)/ 1997 Venter & Hammer が comptoniana を emelyae の変種へ(Cact. Succ. J. 69(2): 77)/ 同年 Bayer が major を emelyae の変種へ(Aloe 34(1–2): 6)/ 同年 Halda が retusa の下位へ置く別案も発表
第 3 期 再分割
細分派が新しい名前を足し、Breuer は軸そのものを picta へ移す
2002 林が H. breueri を記載(Haworthia Study 7: 14)/ 2003 Breuer が picta var. janvlokii・var. tricolor(Avonia 21(3))/ 2007 Gildenhuys が H. marxii(Aloe 44: 4)/ 2010 Breuer が H. janvlokii(Gen. Haworthia 1: 7)/ 2016 Breuer が picta var. comptoniana・multifolia var. major などへ組み替え(Alsterworthia Int. 16(2): 6)
年・発表誌・巻号頁はすべて IPNI と GBIF バックボーン分類の登録情報(2026-07-24 実測)
書誌年表
三度ゆれた、というのがこの年表の要点です。1930〜40 年代に別々の名前として記載され、1979〜1997 年に一つへ集められ、2000 年代以降にふたたび分ける動きが起きました。いま流通している名札は、このどこかの時点で止まっていると考えると、売り場の表記のばらつきが説明できます。1990 年代以降に整理された名前で書かれている店もあれば、1930 年代の名前をそのまま使っている店もある、というだけのことです。
もうひとつ、南アフリカ側の見方も添えておきます。南アフリカ国家生物多様性研究所(SANBI)の Red List は、本種の全国評価を Data Deficient – Taxonomically Problematic(データ不足・分類学的に問題あり) としています(2014 年 5 月評価)。その理由として「他の Haworthia と区別が難しく、属全体が分類学的な改訂を必要とするため、絶滅リスクを評価できない」と明記され、注記ではこの属が「名前の過剰増殖」に悩まされてきたことにまで踏み込んでいます。現地の国家機関自身が、線が引けていないと表明しているのがこの一群です。
認められている 4 変種
var. emelyaeBASE / 白点

基本変種 var. emelyae
白い細点面がざらつく「ピクタ」はここ
var. comptoniana網目 / RETICULATE

コンプト var. comptoniana
淡い網目模様窓が広い旧評価 CR
写真で示せる変種は、この 2 つだけです。左は Commons が var. emelyae として収蔵している株、右は var. comptoniana として収蔵している株です。面の模様がまるで違うのが見て取れると思います。左は白い細点が散る質感、右は淡い線が網の目のようにつながる質感。この差が、この記事でいちばん実用的な見分けどころです。
残る var. major と var. multifolia については、商用利用できるライセンスの写真が存在しません。当サイトは実在する分類群の「写真らしい」画像を生成して埋めることはしないため、4 つ全体は表として示します。
| 変種 | 現在の組み合わせ(発表) | 名前の来歴 | 旧 Red List(2009) | 本記事の実写 |
|---|---|---|---|---|
| var. emelyae | 基本変種(種そのもの) | picta・correcta・breueri・marxii など計 11 名の異名を抱える | VU | あり(4 枚) |
| var. comptoniana | (G.G.Sm.) J.D.Venter & S.A.Hammer / Cact. Succ. J. 69(2): 77(1997) | 1945 年に独立種 H. comptoniana として記載 → 1997 年に emelyae の変種へ → 2016 年に Breuer が picta の変種として別案を発表 | CR | あり(2 枚) |
| var. major | (G.G.Sm.) M.B.Bayer / Aloe 34(1–2): 6(1997) | 1946 年の H. schuldtiana var. major が起点。maraisii → magnifica の変種を経て 1997 年に emelyae へ。2016 年に Breuer が multifolia の変種とする案も | VU D2 | なし(在庫ゼロ) |
| var. multifolia | M.B.Bayer / Natl. Cact. Succ. J. 34(2): 31(1979) | 1979 年に Bayer が変種として記載 → 2000 年に林が独立種 H. multifolia として扱う案を発表 → 2016 年に Breuer が下位に breueri を置く | EN | なし(在庫ゼロ) |
この表でいちばん目を引くのは、コンプトの旧評価が CR(近絶滅種)だという点です。2009 年当時の変種別ステータスでは、var. comptoniana が CR、var. multifolia が EN(絶滅危惧)、基本変種と var. major が VU(危急)。4 つのすべてが何らかの絶滅危惧カテゴリに置かれていました。現在は分類の未確定を理由に種としての DD-T へ一本化されていますが、これは「危険がなくなった」という意味ではなく、評価の前提となる分類が固まっていないという意味です。
もうひとつ、var. major の来歴も象徴的です。1946 年に H. schuldtiana の変種として記載された名前が、maraisii の変種、magnifica の変種を経て、1997 年にようやくエメリアエへ落ち着きました。1 つの変種名が 4 つの種のあいだを渡り歩いたことになります。売り場のラベルが追いつかないのも無理はありません。
自生地 — 礫にまぎれて、窓だけを出す
この 1 枚が、窓面があの形になった理由の答えです。自生地では株の大部分が地中に埋まり、地表に出ているのは切り上がった葉先——つまり窓だけ。乾燥と強い日射から体を守りながら、窓から採り込んだ光で地中の葉が光合成する仕組みです。玉扇やリトープスと同じ戦略で、窓は「見せるための器官」ではなく「生き延びるための器官」です。
鉢の中で株が持ち上がり、横から葉が見えるようになっているとしたら、それは自生の姿からいちばん遠い状態だということでもあります。
HABITAT DATA / MEASURED 2026-07-24
自生地と記録の量 — 公開データベースの実測値
固有性
南アフリカ固有種SANBI
州
西ケープ州(Western Cape)SANBI
分布域(記述)
Western Karoo, Klein Karoo to UniondaleSANBI
主要ハビタット
Succulent Karoo / karroid shrublandSANBI
GBIF の記録
122 件(うち南アフリカ 90 件。残りは植物園などの栽培由来を含む)下位分類群を含む
iNaturalist の観察
複合体全体で 38 件(var. emelyae 13 / var. comptoniana 8 / var. major 5 / var. multifolia 2 / 変種未特定 10)
個体群の状況
種として 17 亜個体群SANBI NSSL。var. comptoniana についての記述では「known from one locality(1 産地のみ)」
本記事の産地表記
農場名・地区名・座標は書きません(理由は下の本文)保全配慮
出典 = SANBI Red List of South African Plants v2024.1 / SANBI National Sensitive Species List / GBIF occurrence search(taxonKey 2780433)/ iNaturalist API。2026-07-24 取得
当サイトは、この植物の産地を農場名や座標のレベルでは書きません。SANBI の Sensitive Species List が var. comptoniana について「この分類群に関するデータを公開することは、脅威と脆弱性を悪化させうる」と明記しているためです(これは var. comptoniana のページに書かれた記述であり、種全体の記述ではありません)。同じページには、残存個体群の所在を守らなければ絶滅に向かいかねない、とも書かれています。読者の役に立つ情報と、書かないほうがいい情報が明確に分かれる数少ないテーマです。
そのうえで示せるのは、SANBI 自身が公開している分布記述までです。南アフリカ固有種で、西ケープ州の Western Karoo から Klein Karoo、Uniondale にかけて。生育環境は Succulent Karoo の karroid shrubland、つまり低木がまばらに生える乾燥した多肉植物地帯です。
白い礫の中にいると、株の輪郭がほとんど見えません。上の写真は目を凝らしてようやく株の位置が分かる程度で、これが自生地での標準的な見え方です。地表すれすれに広がり、周囲の石と同じ明度に溶け込む——目立たないことが生存戦略だとよく分かります。写真の中央から立ち上がっている細い茎は花茎で、ハオルチアはこの茎を長く伸ばした先に白い小花を疎らに付けます。
ここまでの 3 枚は、撮影者も観察も別々です。それぞれ独立した観察者が、同じ「地面に埋もれて窓だけを出す」姿を記録しています。個体差ではなく、この一群に共通する性質だと考えてよさそうです。なお 3 枚とも iNaturalist で research grade(複数人の同定が一致した状態)ですが、それでも当サイトは「写真の株が var. emelyae である」とは断定しません。示せるのは「iNaturalist の現行同定はこうなっている」という事実までです。
近縁との見分け — 「次に見る所」で進める
エメリアエを疑ったとき、次に見る 1 点
エメリアエ 基本変種 var. emelyae
窓の面
白い細点が散り、褐色の筋が入る
肌
ざらつく(粒感がある)
次に見る所
葉先が三角に切り上がるか / 点が線につながらないか
コンプト var. comptoniana
窓の面
淡い線が網の目状につながる
肌
比較的なめらかで窓が広い
次に見る所
網目が面の端まで届くか / 名札がどちらの体系の名前か
ベイエリ H. bayeri
窓の面
網目が太く整う
肌
つやのある硬質感
次に見る所
網目の太さと規則性 / 産地情報が付いているか
この表は「答え」ではなく「次に何を見るか」の表です。そう書くのは慎重すぎるからではありません。SANBI 自身が本種を Data Deficient – Taxonomically Problematic と評価し、その理由に「他の Haworthia と区別が難しい」と明記しているからです。現地で標本を扱う国家機関ですら線を引けていないグループについて、写真 1 枚から言い当てられると考えるほうが不自然です。
特に紛らわしいのがコンプトとベイエリ(H. bayeri)で、どちらも網目模様を持ちます。ここは見た目だけでは決まりにくく、採集番号や産地情報が付いているかどうかが実質的な決め手になります。逆にいえば、産地情報のない株の名札は、どれだけ具体的に書かれていても「そう呼ばれてきた」以上の根拠にはなりません。
TYPE A
白い点が散る面
細かい点が独立して散り、線につながらない … 基本変種 var. emelyae(流通名「ピクタ」)で語られるのはこの見え方。褐色の筋が混じることも
TYPE B
網の目につながる面
淡い線が縦横につながって網目になる … var. comptoniana(流通名「コンプト」)で語られる見え方。近縁の H. bayeri とはここで紛れる
TYPE C
平滑でよく透ける面
粒立ちがなく、光を奥まで通す … 寿(H. retusa)やムチカで語られる見え方。エメリアエ側との最初の切り分けはここ
この 3 つは別々の植物の話ではなく、同じ「窓」という器官の表面の違いです。手元の株の面がどれに近いかを見るだけで、レツーサ群のなかでどのあたりに位置するのかの見当がつきます。同じレツーサ群でも、葉のふちに小さな鋸歯が並ぶ株はミラビリスの候補に入ります。ただし質感は光の当て方でかなり印象が変わります。真上から強い光を当てると点が飛んで見えず、斜めからやわらかい光を当てると急に浮かび上がる。写真だけで「網目がないからコンプトではない」と判断するのは危険です。
なお、窓が透きとおるタイプの見分け方は評価軸そのものが違うので、クーペリー系の見分け方に分けてまとめています。透明度で選ぶのか、面の模様で選ぶのか——買う前にどちらの世界の話をしているのかを決めておくと、迷いが減ります。
名前が 4 つに割れたまま流通している
同じ一群が、4 つの検索語に分かれて出品されている
FIG.08Fragmentation
分類の側では一つに整理されている一群が、売り場では 4 つの入口に分かれています。楽天市場で 4 つの語を検索すると、2026 年 7 月 24 日時点の一致件数はいずれも 3 桁で、しかもほぼ同じ規模でした。これらは検索一致の総件数であり、表記揺れや別品種の混入を含む参考値です。同じ株が複数の語でヒットしている可能性もあります。
それでも見えてくることがあります。買い手は「ピクタが欲しい」「コンプトが欲しい」と思って探しており、それが同じ種の内側だとは知らされていない。専門的な図鑑データベースでも、エメリアエ・ピクタ・コンプトはそれぞれ独立した頁として立てられているのが実情です。示した件数は取得時点の値であり、価格や入手可能性を保証するものではなく、外れ値の補正も行っていません。実際に買うときは、その時点の出品をご自身で確かめてください(参照先 = 楽天市場)。
国内の育種の現場でも、この一群は中心にいます。Haworthia の栽培品種について国際園芸学会(ISHS)が指定する国際登録機関(ICRA)は日本ハオルシア協会で、同協会の公式ブログに掲載された育種の解説(林 雅彦・2023 年)では、コレクタが玉扇・万象と並ぶ主要な育種対象として位置づけられ、コンプトを含む近縁どうしの交配から多くの優良品種が生まれてきたと述べられています。同記事はまた、ピクタのような点模様の系統は変異の幅が小さく育種が頭打ちになりやすい、という見方も示しています(出典 = 日本ハオルシア協会公式ブログ「ハオルシア育種の現状」)。
園芸銘(品種名)の正式な表記は、この協会の登録名を正とするのが筋です。当サイトは登録名の一覧を実測できていないため、この記事では個別の銘には踏み込みません。銘と学名が別の層にある、という考え方そのものは玉扇の「型」の記事で整理しています。和名・学名・流通名の対応は名前の対照表で確かめることができます。
育て方の要点 — 光・水・用土・冬
LIGHT
光
自生地では体を地中に隠している。上からの強光をそのまま受ける想定ではないので、直射は避けてレース越し程度の明るさを基準にする。
WATER
水
乾いてからたっぷり、が基本。乾湿のメリハリをつけ、真夏と真冬は回数を落とす。面がざらついて曇るのは元の質感で、水不足のサインではない。
SOIL
用土
自生地は礫の混じる乾いた地面。水はけを最優先にした粗い粒の配合が合う。株が持ち上がらず低く座るように植えるとよい。
TEMPERATURE
温度
自生地は凍結を前提とした環境ではない。種固有の越冬数値は一次情報が確認できず要確認で、本サイト共通の目安は最低 3〜5℃ を下回らないこと。
光・水・用土の考え方は育て方は「窓」で決まる、株がゆるんで間延びしたときの切り分けは徒長の原因と直し方にまとめています。この一群だけの特別な手順はありません。
この一群で 1 つだけ覚えておきたいのは、面が曇っていても異常ではないということです。透明な窓を持つ品種に慣れていると、ざらついた面や網目模様を「汚れ」「水垢」と誤解しがちですが、これは元からの質感です。拭き取ろうとして表面を傷めるほうが、株にとっては明らかに損失になります。
用土・鉢・LED・棚といった道具立てはハオルチアの育成環境ガイドに集約しています。面の模様は光の量と角度で見え方が変わるので、置き場所が決めにくいときはここから読むのが近道です。
入手時の注意 — 名札と、野生採取のこと
| 分類群 | Sensitive の指定 | 2010 年のリスト | 園芸目的の採取の程度 | 既知の亜個体群 |
|---|---|---|---|---|
| H. emelyae(種) | あり | 掲載なし | Significant(重大) | 17 |
| var. comptoniana | あり | 掲載あり | Significant(重大) | 1 産地のみ |
| var. major | あり | 掲載なし | Significant(重大) | 12 |
| var. multifolia | あり | 掲載あり | Small or insignificant(限定的) | 6 |
種そのものと 3 つの変種が、南アフリカの Sensitive Species List に載っています。これは「取り扱いに注意を要する分類群」として当局が指定するリストで、種・var. comptoniana・var. major の 3 つについては、園芸取引のための野生採取が Significant(重大) の水準にあると評価されています。根拠としては、この属が国際的な園芸取引で需要を持つこと、そして2018〜2021 年の押収記録と、押収を伴う刑事訴追の事例が挙げられています(いずれも同リストの記載)。
とりわけ var. comptoniana は特別扱いです。同変種のページには「known from one locality(1 産地のみで知られる)」と書かれ、成熟個体が少なく、成長が遅いため採取後の回復が見込みにくいこと、そして採集者が現存する個体群を丸ごと採り尽くしうることまでが評価項目として挙がっています(これらはすべて var. comptoniana のページの記述です)。日本の売り場で「コンプト」の名札を見かける機会の多さと、この記述の落差は覚えておく価値があります。
だからといって「買ってはいけない」という話ではありません。問われているのは出所です。実生で殖やされた株、国内で栽培された株を選ぶことには、感情論ではない裏づけがあります。出所を説明できる販売者から買う、という一点だけで、この問題のほとんどは回避できます。
名札に情報が多いほど、由来がはっきりするとは限りません。上のコレクションのように変種名と産地が併記されていれば手がかりは増えますが、それは栽培者が「そう管理している」という記録であって、第三者が検証した同定ではありません。当サイトも、この写真の株が何であるかは判定しません。名札を読むときは、「誰が付けたか」「いつの見解か」「産地情報が付いているか」の 3 点を見てください。
名前を読むときの注意
「コンプト」と書かれた名札には、Haworthia emelyae var. comptoniana(Bayer 系)と Haworthia picta var. comptoniana(Breuer 系・2016 年)の 2 通りがありえます。どちらが正しいという話ではなく、どちらの体系で書かれた名札なのかという話です。さらに古い在庫では 1945 年の独立種名 Haworthia comptoniana がそのまま使われていることもあります。名札の名前だけで株の中身は決まりません。
まとめ
Summary
4 つの名前は、1 つの種の別の呼び方だった
エメリアエは、日本語圏で「ピクタ」「コレクタ」「コンプト」として別々に売られている一群の学名上の受け皿です。認められている変種は 4 つ、基本変種の異名は 11 名。名前は 90 年のあいだに三度ゆれ、いまも 2 つの体系が並立しています。だからこそ、名札ではなく窓面の質感を見る習慣が効きます。
ピクタ = 基本変種の異名GBIF・WFO・SANBI の 3 者が一致(2026-07-24 実測)
変種は 4 つだけemelyae / comptoniana / major / multifolia
名前は 2 体系が並立emelyae var. comptoniana と picta var. comptoniana
見るのは面の模様白点か、網目か、平滑か
- エメリアエ Haworthia emelyae Poelln.(1937)は、面がざらついて白い細点が乗る、軟葉系レツーサ群のハオルチアです。和名は宝の寿
- 日本の流通名「ピクタ」「コレクタ」は、GBIF バックボーン分類・World Flora Online 2026-06・SANBI Red List v2024.1 のいずれでも基本変種 var. emelyae の異名として扱われています(2026-07-24 実測)
- 認められている変種は 4 つ。「コンプト」は var. comptoniana にあたり、面に淡い網目模様が広がります
- 同じ植物に emelyae var. comptoniana と picta var. comptoniana の 2 通りの名前が現役で存在します。名札は「どちらの体系か」を示すだけで、株の中身を決めません
- SANBI の全国評価は Data Deficient – Taxonomically Problematic。近縁との判別は国家機関ですら難しいと表明されています
- 種と 3 変種が Sensitive Species List に載り、種・var. comptoniana・var. major は園芸目的の採取が Significant と評価されています。実生株・国内栽培株を選ぶ理由には公的な裏づけがあります
- 産地は SANBI が公開している範囲(西ケープ州 Western Karoo から Klein Karoo、Uniondale)までとし、農場名・座標は掲載しません
- ほかの品種と見くらべたいときは人気品種ランキングで他の品種を見るから、検索データで注目度の高い順にたどれます
FAQ
「ピクタ」と「エメリアエ」は違う植物ですか?
分類上は同じ一群の、別の呼び方です。当サイトが 2026 年 7 月 24 日に確認したかぎり、GBIF バックボーン分類・World Flora Online(分類版 2026-06)・SANBI Red List(v2024.1)のいずれも、Haworthia picta Poelln.(1938)を Haworthia emelyae の基本変種 var. emelyae の異名として扱っています。ただし「ピクタ」の名札で流通する株の見た目には幅があり、名札からその株の中身までは決まりません。
「コレクタ」と「コンプト」は同じですか?
別の名前に由来します。「コレクタ」は Haworthia correcta Poelln.(1938)で、こちらは基本変種の異名として整理されています。「コンプト」は Haworthia comptoniana G.G.Sm.(1945)に由来し、現在は var. comptoniana という 4 変種のうちの 1 つにあたります。ただし日本の売り場での使われ方は必ずしもこの区分どおりではないため、名札の語だけで判断せず、面の模様(点が散るか、網目につながるか)を見てください。
写真を送れば品種を判定してもらえますか?
確度を上げる方法がひとつあります——採集番号や産地情報が付いているかを確認してください。これが付いていれば、候補は一気に絞れます。逆に見た目だけでは限界があり、南アフリカ国家生物多様性研究所(SANBI)自身が本種を近縁と判別しにくい分類群として評価しています。
何℃まで耐えられますか?
最低でも 3〜5℃ を下回らせず、できれば 5℃ 以上 — これが実用の線です(ハオルチア属全体の一般的な指針)。自生地は Succulent Karoo の乾燥地で、凍結を前提とした環境ではありません。本種に固有の耐寒限界を示す信頼できる一次情報は確認できていないため、この数値は属の指針として使い、要確認としています。
窓が透けません。育て方が悪いのでしょうか?
エメリアエの仲間の面は、もともと透明度で見せるタイプではありません。ざらついた面に白い点が乗るか、淡い線が網目状につながるか——評価軸はそちらにあります。透明な窓を持つオブツーサやクーペリー系とは見るべき場所が違うため、透けないこと自体は不調のサインではありません。拭き取ろうとすると表面を傷めるおそれがあります。
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出典
- GBIF Backbone Taxonomy — Haworthia emelyae Poelln.(key 2780433・ACCEPTED・原記載 Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 42: 271 (1937))、4 変種の children、基本変種の異名 11 件、var. comptoniana / var. major の異名: gbif.org
- IPNI(国際植物名索引)— H. emelyae / H. picta / H. correcta / H. comptoniana / H. schuldtiana var. major / var. multifolia ほかの記載誌・巻号・年: ipni.org
- World Flora Online — 分類版 2026-06 における Haworthia picta(wfo-0000652505)と Haworthia comptoniana(wfo-0000649855)の配置: worldfloraonline.org
- SANBI Red List of South African Plants v2024.1 — 全国評価 Data Deficient – Taxonomically Problematic(2014/05/21)、分布記述、Assessment History の変種別ステータス: 種のページ / var. emelyae のページ(Synonyms 欄)
- SANBI National Sensitive Species List — 種および var. comptoniana / var. major / var. multifolia の Sensitive 指定、採取の程度、亜個体群数、2018〜2021 年の押収記録: 種 / var. comptoniana / var. major / var. multifolia
- iNaturalist — 変種別の観察件数、および本記事で使用した 4 観察: obs 58976331 / obs 306639660 / obs 29848220 / obs 378519799
- 日本ハオルシア協会(国際園芸学会 ISHS が指定する Haworthia 栽培品種の国際登録機関 = ICRA)公式ブログ「ハオルシア育種の現状」(林 雅彦・2023 年): haworthia.ldblog.jp
- 流通の件数 = 楽天市場の検索一致件数(2026-07-24 取得・表記揺れや別品種の混入を含む参考値): rakuten.co.jp
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扉の写真(基本変種のカードにも同じ写真を使用): Photo: Abu Shawka / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
コンプトのカード: Photo: Abu Shawka / CC0 1.0, via Wikimedia Commons(CC0 のため帰属は任意ですが、出所として記載しています)
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