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竜鱗(ハオルチオプシス・テッセラータ)格子の窓紋と、独立種になるまでの名前

硬く三角にとがった葉が強く反り返る硬葉系ハオルチアの群生を斜め上から。葉の表面には淡い緑の細い線が縦横に交差して四角い格子模様を描き、日に当たった株は赤紫から赤褐色に色づいている。葉のふちには細かい鋸歯が並ぶ
ヴロツワフ大学植物園の栽培株 Photo: Krzysztof Ziarnek, Kenraiz / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
SPECIMEN — HAWORTHIOPSIS TESSELLATA
竜鱗Haworthiopsis tessellata / テッセラータ
系統硬葉系 自生地南ア 4 州とナミビア 見分けの鍵面に交差する格子の線

竜鱗(りゅうりん)は、硬い三角の葉に細い線が交差して四角い格子を描く硬葉系のハオルチアです。日本では長く「Haworthia venosa var. tessellata」——ベノーサの変種——として紹介されてきましたが、国際的な照合先である GBIF の現行の整理では、Haworthiopsis tessellata という独立した種として受理されています。この記事は、その名前の現在地と、南アフリカ 4 州からナミビアまで広がる分布、そして格子模様の正体を、出典つきでまとめた事典です。

この記事でわかること
  • venosa の変種」という通り名と、いま受理されている独立種の関係。どちらも間違いではない理由
  • シノニム 32 件の内訳と、1942 年の 1 冊だけで 9 件の名前が立った時代の痕跡
  • 南アフリカ 4 州とナミビアという分布の広さを、座標付き記録の実測で確かめられる
  • 格子模様は軟葉系の「透ける窓」とは別のものだということと、その見方
出典つきで整理した図鑑です — 品種は「候補」と「次に見る所」まで示します

竜鱗とは — 硬葉系のなかで、いちばん遠くまで広がった種

この頁 / SPECIES
竜鱗という「種」の全体像
学名の現在地・32 の名前・州別の分布・格子模様の意味。「この植物は何者か」を知りたい人のための頁です。
別の頁 / MAP
ハオルチアの種類総覧
軟葉系・硬葉系・万象・玉扇という系統の地図。竜鱗が硬葉系のどこに座るかを俯瞰したい方はこちらから。
別の頁 / NAMES
名前の対照表
和名・学名・異名を横断検索できる辞書。ラベルの学名だけを突き合わせたいときは、この頁が最短です。

上の 2 枚目・3 枚目はそれぞれ別の記事です — ハオルチアの品種と系統の全体像ハオルチアの名前の対照表 からどうぞ。

まず、この植物の立ち位置をはっきりさせておきます。竜鱗は、葉がやわらかく光を透かす軟葉系ではなく、葉が硬くて厚い硬葉系のハオルチアです。硬葉系というと十二の巻やアテヌアータのような「白い点や帯が入る株」を思い浮かべる方が多いはずですが、竜鱗の模様はそれとは仕組みが違います。点でも帯でもなく、葉の面に走る細い線が縦横に交差して四角い格子を描く——これが竜鱗の顔です。種小名の tessellata はラテン語で「碁盤目状の」という意味で、南アフリカ国家生物多様性研究所(SANBI)の解説もその意味を明記しています。

そして、この種の最大の特徴は「広さ」です。SANBI はこの植物を「もっとも順応性が高く、広く分布し、変異に富む Haworthiopsis のひとつ」と書いています。実際、世界チェックリスト(WCVP)が記録する分布区分は、南アフリカのケープ諸州・自由州・北部諸州、そしてナミビアの 4 つ。国際的な生物多様性データベース GBIF に集まった出現記録も、南アフリカ 230 件のほかにナミビア 15 件を含みます。ハオルチア類の多くが南アフリカの一地域に閉じているのに対して、竜鱗は国境をまたいで分布しているという点が、まず押さえるべき事実です。

TAXONOMY / MEASURED 2026-08-14
3 属に分かれた旧ハオルチア属の、どこにいるか
属の 3 分割は Manning et al. 2014, Systematic Botany 39: 55-74(SANBI PlantZAfrica の属頁が明記)。属名 Haworthiopsis は「Haworthia のようなもの」の意

属名は書き換わった側です。かつて 1 つだった Haworthia 属は、2014 年の分子系統研究を受けて 3 つに分けられました。やわらかい葉に窓をもつ一群は狭義の Haworthia に残り、硬い葉の一群は Haworthiopsis 属へ、大型で硬質な一群は Tulista 属へ移っています。竜鱗は硬葉系なので Haworthiopsis 側です。古い本や古いラベルが「Haworthia ○○」と書いているのは、この分割より前の体系ということになります。属名が変わった経緯そのものは十二の巻とアテヌアータの記事で扱っています。

もうひとつ、名前の面で竜鱗は少し変わった立場にあります。硬葉系の多くは「Haworthia から Haworthiopsis へ属が動いた」だけですが、竜鱗の場合は属が動いたうえに、種としての階級そのものが行き来してきました。ベノーサ(venosa)という別の種の亜種として扱われた時期があり、変種として扱われた時期もあり、いまは独立した種として受理されています。この経緯は 03 章で書誌つきに追いかけます。「どれが正しい名前か」ではなく「いつ、誰が、どの階級に置いたか」で見ると、混乱がほどけます。

基本情報 — 学名・自生地・耐寒性

竜鱗の基本データ Quick Spec
受理名 Haworthiopsis tessellata (Haw.) G.D.Rowley
元の名前 Haworthia tessellata Haw.(1824)
原記載 Philosophical Magazine and Journal 66: 300
属への組替 Gordon D. Rowley、2013(掲載箇所は GBIF と IPNI で不一致要確認)
よく見る旧名 H. venosa subsp. tessellata(1982)/ var. tessellata(1997)
種小名の意味 ラテン語で「碁盤目状の」(square-patterned)
ツルボラン科(Asphodelaceae)
系統 硬葉系(Haworthiopsis)
受理変種 2(var. tessellata / var. crousii)
シノニム総数 種 + 2 変種の合計で 32
英名 veined haworthiopsis(アフリカーンス名は venstertjie =「小さな窓」)
自生地 南アフリカ 4 州ナミビア南部。夏雨地域が主
生育環境 藪地と岩場。自生地では塊をつくって空間を埋める
草姿 無茎・生長は遅い。高さ 150mm / 幅 100mm まで。匍匐する根をもつ
長さ 50mm・基部の幅 30mm まで。三角形で強く反り返る
細く針金状の花序に、二唇形のオフホワイト〜灰白色の花
越冬の目安 属全体の一般指針として最低 3〜5℃ を下回らない要確認
保全評価 南ア国内 LC(軽度懸念) / GBIF が持つ IUCN は未評価(NE)
流通名 竜鱗(りゅうりん)/ テッセラータ要確認

この表で最初に引っかかるのは、属への組替がどこに載ったかです。Haworthia tessellata という名前を Haworthiopsis 属へ移したのは英国の多肉研究者 Gordon D. Rowley で、年が 2013 年であることは GBIF と国際植物名索引(IPNI)の双方で一致します。ところが掲載箇所が揃いません。GBIF は Alsterworthia International の Special Issue 10 の 5 ページ、IPNI は同誌 13 巻 2 号の 25 ページ(しかも綴りが tessellate と誤植された状態)と記録しています。どちらか一方を採らず、両方を併記して「要確認」としました。年と著者は確かなので、実用上の問題は生じません。

2 つ目は、越冬温度です。SANBI の栽培の項に書かれているのは、水のやりすぎを避けること・直射を避けること・加湿器のそばに置かないことといった内容で、耐寒の下限を示す数値はありません。ただしクーペリーのような無霜地の植物とは違い、SANBI の園芸ゾーン欄には「冬雨カルー・軽い霜」(ゾーン 3)と「夏雨カルーとハイフェルト・冬に霜」(ゾーン 4)が挙がっています。自生地の側に軽い霜のある環境が含まれるということですが、これは南アフリカの気候区分であって、日本の屋外で越冬できるという意味ではありません。実用上はハオルチア属全体の一般指針として最低 3〜5℃ を目安に置き、種固有の数値は要確認として扱います(この目安の根拠はハオルチアの越冬(耐寒性)にまとめています)。

保全評価は 2 つの答えが並びます。GBIF が保持する IUCN のカテゴリは NOT EVALUATED(未評価)——まだ評価されていないという意味です。一方 SANBI は、南アフリカ植物レッドリストにもとづき本種を Least Concern(LC / 軽度懸念)と評価していると明記しています(査定は Von Staden, L. 2014、レッドリスト版 2020.1)。国際的な評価と、南アフリカ国内の評価は別物です。国内評価は分布域のうち南アフリカに入る部分だけを対象にするので、ナミビアまで広がるこの種では、国内 LC がそのまま世界全体の安全を意味するわけでもありません。

英名とアフリカーンス名にも見分けの手がかりが入っています。SANBI が挙げる英名は veined haworthiopsis、つまり「脈のあるハオルチオプシス」。アフリカーンス名は venstertjie で「小さな窓」を意味します。日本語の「竜鱗」も含めて、3 つの言語がそろって「面にある模様」を名前にしていることになります。なお和名「竜鱗」の由来を記した一次資料は確認できなかったため、由来は断定せず、流通名として扱います。

名前の現在地 — venosa の下から、独立種へ

竜鱗の名前が動いた 4 つの局面 — 記載 → 増える → 下に置かれる → 独立する FIG.01Timeline
第 1 期 記載 Haworth が Philosophical Magazine に発表 Aloe 属・Catevala 属へ移す試みも(現在はシノニム)
第 2 期 増える Poellnitz・Resende ら が変種と品種を次々に立てる 1942 年の Brotéria 誌 1 冊だけで 9 件
第 3 期 下に置かれる Bayer が H. venosa の亜種として扱う(1982) Halda は変種として組み替える(1997)
第 4 期 独立する Rowley が Haworthiopsis 属の独立種へ(2013) 翌 2014 年に Boatwright & Manning が同じ組合せを再発表
独立して扱う 名前が増える 別種の下に置く 概念図

竜鱗の名前は、200 年かけて上がったり下がったりしてきました。最初にこの植物を記載したのは Adrian Hardy Haworth で、1824 年の Philosophical Magazine and Journal 66 巻 300 ページに Haworthia tessellata として発表されています(IPNI 実測)。ハオルチア属そのものが Haworth への献名なので、属の名の由来になった人が、自分の名を冠した属のなかにこの種を置いたことになります。その後 1829 年に Aloe 属へ、1891 年には Catevala 属へ移す試みもありましたが、いずれも現在はシノニム扱いです。

大きな転機は 1982 年です。この年、Bruce Bayer が New Haworthia Handbook の 76 ページで、竜鱗を Haworthia venosa subsp. tessellata ——ベノーサという別の種の亜種——として扱いました。さらに 1997 年には Josef Halda が同じ考え方を変種の階級で組み替え、Haworthia venosa var. tessellata という組み合わせを発表しています。日本語の図鑑や販売ラベルでよく見る「Hp. venosa var. tessellata」は、この 1997 年の系譜にある表記です。

そして 2013 年に、竜鱗はふたたび独立した種になりました。硬葉系を Haworthiopsis 属として切り出す整理のなかで、Gordon D. Rowley が Haworthiopsis tessellata という組み合わせを発表します。GBIF Backbone はこれを受理名として採用しており、Bayer の亜種も Halda の変種も、その下のシノニムとして並んでいます(2026-08-14 実測)。つまり「ベノーサの変種」という言い方は、いま国際的な照合先が採る整理では使われていません。ただし——これが大事なところですが——それは「間違い」という意味ではありません

採用している整理が違うだけ、という言い方が正確です。ある集団を独立種と見るか、近縁種の亜種・変種と見るかは、分類学者の判断で分かれます。ハオルチアの種数について、林雅彦氏は 546 種、Ingo Breuer 氏は 366 種、Bruce Bayer 氏は 60 種という数を示してきました(細分派から統合派までの幅)。竜鱗をベノーサの下に置いた 1982 年の判断は、統合の側に立つ Bayer 氏のものです。この頁は国際的な照合先である GBIF Backbone の受理状況を採用しつつ、別の見解がある名前についてはその旨を書くという形をとっています。手元の株のラベルが古い表記でも、書き換える必要はありません。

もうひとつ、同じ組み合わせが二度発表されるという珍しいことも起きています。Rowley の発表(2013 年 7 月)の翌年、2014 年 2 月に Boatwright & Manning が Systematic Botany 39 巻で まったく同じ Haworthiopsis tessellata という組み合わせを発表しました。先に出た Rowley 版が優先されるため、GBIF ではこの 2014 年版のほうがシノニムとして登録されています。硬葉系全体の属の切り出しがこの時期に複数の研究者から同時多発的に出たことの副産物で、属名の変更が話題になった時期の慌ただしさがそのまま名前に残った形です。

32 の名前 — 1942 年の 1 冊だけで 9 件

階級名前誰が / いついまの扱い
種(受理)Haworthiopsis tessellata (Haw.) G.D.RowleyRowley・2013受理名
変種(受理)var. tessellata(基本変種)受理(シノニム 23)
変種(受理)var. crousii (M.Hayashi) Gildenh. & KlopperGildenhuys & Klopper・2016受理(シノニム 3)
Haworthia tessellata Haw.Haworth・1824基になった名前(シノニム)
Aloe tessellata (Haw.) Schult. & Schult.f.Schultes 父子・1829シノニム
Catevala tessellata (Haw.) KuntzeKuntze・1891シノニム
亜種Haworthia venosa subsp. tessellata (Haw.) M.B.BayerBayer・1982シノニム
変種Haworthia venosa var. tessellata (Haw.) Halda
= 日本語圏でよく見る表記
Halda・1997シノニム
Haworthiopsis tessellata (Haw.) Boatwr. & J.C.ManningBoatwright & Manning・2014シノニム(同じ組合せの再発表)
Haworthia parva Haw. / H. pseudotessellata Poelln. / H. engleri Dinter / H. pseudogranulata Poelln. / H. minutissima Poelln. / H. coriacea (Resende & Poelln.) Breuer ほか1824〜2010いずれも var. tessellata のシノニム
変種・品種var. inflexa / var. parva / var. tuberculata / var. engleri / var. elongata / var. simplex / var. stephaneana / var. luisieri / var. palhinhiae / var. coriacea / var. velutina / var. obesa / f. longior / f. brevior / f. major / var. minutissima1880〜1951いずれも var. tessellata のシノニム
合計受理 3 / シノニム 32
名前・書誌・階級・受理状況は、いずれも GBIF Backbone(taxonKey 9324953 とその children・synonyms)を 2026-08-14 に照会した実測値。原記載の書誌は国際植物名索引(IPNI)で突き合わせた。「シノニム 32」は種レベル 6 + var. tessellata の 23 + var. crousii の 3 の合計。

受理されている名前は 3 つ、シノニムは 32 件です。1 つの種を指すために、これまでに 35 通りの呼び方が世に出たことになります。クーペリー(受理 14・シノニム 84)ほどではありませんが、硬葉系としては厚いほうです。そしてこの 32 件の内訳を見ると、名前が増えた時期がはっきり偏っていることがわかります。

シノニムが発表された年代(GBIF 実測・32 件の内訳) FIG.02Names
1940 年代11 件
1820 年代4 件
1930 年代4 件
2010 年代3 件
1880 年代2 件
そのほか 7 つの年代各 1 件
年が記録されていないもの1 件

山は 1940 年代、しかもそのほとんどが 1 冊の雑誌に集中しています。ポルトガルの研究者 Flávio Resende と Karl von Poellnitz が、1942 年に Brotéria, Ciências Naturais 誌の 11 巻で、竜鱗の変種と品種を 9 件まとめて発表しました。しかも掲載ページは 49・50・51・51・52・52・52・54・54 と、わずか 6 ページのあいだに詰まっていますvar. simplexvar. stephaneanavar. luisierivar. palhinhiaevar. coriaceavar. velutinavar. obesaf. longiorf. brevior——名前だけ見ると壮観ですが、いまはすべて基本変種のシノニムです。

なぜこれほど名前が増えたのでしょうか。答えは 05 章で扱う「分布の広さ」にあります。南アフリカ 4 州とナミビアにまたがって生えている植物は、場所ごとに姿が少しずつ違います。葉が長い個体群、短い個体群、疣が目立つ個体群、ビロード状に見える個体群——それらを別の名前で区別しようとすれば、いくらでも名前は立ちます。longior(より長い)・brevior(より短い)・velutina(ビロードの)・tuberculata(疣のある)という変種名の意味そのものが、その時代の研究者が何を見ていたかを教えてくれます。

この種には、細分派の名前が「受理されている」珍しい例もあります。2 つある受理変種のうち、var. crousii は 林雅彦氏が 2001 年に Haworthia crousii として発表した種が基になっています。それを 2016 年に Gildenhuys & Klopper が Phytotaxa 誌で竜鱗の変種として組み替え、GBIF はこれを受理しています。クーペリーでは 林氏・Breuer 氏が立てた 42 件の名前がすべてシノニムへ畳み込まれていましたが、竜鱗では細分側の名前が変種として生き残っていることになります。細分派の名前が常に否定されるわけではない、という実例です。

ただし var. crousii は、実体としてはとても薄い変種です。GBIF に集まった出現記録は 1 件だけ(基本変種は 57 件)。しかも同じ 2016 年に Breuer 氏が同一の組み合わせを別の雑誌で発表しており、そちらは Gildenhuys & Klopper 版より 16 日遅かったためシノニム扱いになっています。名前をめぐる競争がこの規模でも起きているということです。園芸銘や登録名については、日本ハオルシア協会(ISHS が指定する ICRA)の登録名が正で、学名とは別の系統として扱います。

分布 — 4 州とナミビア、記述と記録の食い違い

乾いた岩の隙間に、赤褐色に焼けた小さなロゼットが隙間なく密集して広がる自生地の様子。葉は硬く三角で強く反り返り、下面には粒状の疣が並ぶ。周囲は褐色の岩と砂だけで、ほかの植物はほとんど見えない
北ケープ州 Halfmens Pass での野生の記録(研究等級・栽培個体ではない)。強い光と乾燥で葉が赤褐色に焼け、岩の隙間を埋めるように群れている。Photo: Andrew Hankey / CC BY-SA 4.0, via iNaturalist

自生地は南アフリカとナミビア南部です。GBIF に集まった出現記録は種全体で 298 件、うち南アフリカが 230 件、ナミビアが 15 件。世界チェックリスト(WCVP)が記録する分布区分も「Cape Provinces / Free State / Northern Provinces / Namibia」の 4 つで、これと整合します。SANBI も「南アフリカとナミビア南部に広く分布する」と書いており、国境をまたぐことについては 3 つのソースが一致しています。ナミビア産であることは名前にも残っていて、1914 年に Dinter が発表した Haworthia engleri は「南西アフリカの新植物」として記載されたもの(いまはシノニム)です。

南アフリカの座標付き記録 220 件の州別内訳 FIG.03Distribution
北ケープ州137 件
東ケープ州30 件
西ケープ州29 件
自由州19 件
“Cape Province” 表記2 件
北西州1 件

ここで、ソースどうしが食い違います。SANBI の解説は「主に東ケープ州に生え、ほかに自由州・北ケープ州・西ケープ州にも分布する」と書いています。ところが GBIF の座標付き記録を州別に数えると、北ケープ州が 137 件(62%)で圧倒的に多く、東ケープ州は 30 件にとどまります。どちらかを採って一方を消す、ということはしません。記述ベースでは東ケープ、記録ベースでは北ケープが最多——この 2 つを並べて出します。

食い違いの理由は、たぶん「どこを歩いたか」です。出現記録は、研究者や愛好家が採集・観察した場所の記録であって、植物が生えている場所そのものの地図ではありません。北ケープ州は多肉植物の宝庫として調査が集中する地域で、この記事に載せた自生地の写真も北ケープ州の Halfmens Pass で撮られたものです。調査の努力量が多い地域ほど記録が増えるという偏りは、この種類のデータに必ず付きまといます。したがって「北ケープ州のほうが東ケープ州より竜鱗が多い」とまでは書けません。

種(硬葉系)GBIF 出現記録分布区分(WCVP)
Hp. tessellata(竜鱗)298ケープ諸州 / 自由州 / 北部諸州 / ナミビア
Hp. viscosa(ビスコーサ)415西ケープ州・東ケープ州
Hp. reinwardtii(レインワルディ)371東ケープ州
Hp. attenuata(アテヌアータ)310東ケープ州(ほかに導入地)
Hp. fasciata(十二の巻)291東ケープ州
Hp. limifolia(瑠璃殿)223クワズール・ナタール州 / ムプマランガ州 / エスワティニ / モザンビーク
Hp. nigra136西ケープ州・東ケープ州
Hp. scabra107西ケープ州・東ケープ州
Hp. venosa(ベノーサ)100西ケープ州
Hp. granulata37西ケープ州・北ケープ州
Hp. koelmaniorum17リンポポ州・ムプマランガ州
Hp. woolleyi9東ケープ州
GBIF Backbone の受理種について、出現記録件数(GBIF Occurrence)と WCVP の分布区分を 2026-08-14 に照会した実測値。当サイトが選んだ 12 種の比較で、Haworthiopsis 属の全種ではない。国境を越える分布をもつのは、この 12 種のうち竜鱗(ナミビア)と瑠璃殿(エスワティニ・モザンビーク)の 2 種。

同属のほかの種と並べると、竜鱗の位置がよく見えます。出現記録の件数だけならビスコーサやレインワルディのほうが多いのですが、それらはいずれも東ケープ州や西ケープ州という一地域に収まっています。この 12 種のうち南アフリカ国内で 4 州にまたがるのは竜鱗だけで、国境を越えるのは竜鱗と瑠璃殿の 2 種だけです。SANBI が「もっとも順応性が高く、広く分布し、変異に富む Haworthiopsis のひとつ」と書く根拠が、データの側からも裏づけられる形になっています。

そして、かつて竜鱗を下に置いていたベノーサのほうが、分布は狭いという逆転もあります。Haworthiopsis venosa の出現記録は 100 件で、WCVP の分布区分は西ケープ州のみ。「広いほうが狭いほうの亜種として扱われていた」という状態が 30 年ほど続いていたことになります。これは分類学的な誤りという話ではなく、亜種・変種という階級が「分布の広さ」で決まるものではないからですが、階級の関係と実際の分布の広さは一致しないことを知っておくと、名前の話が飲み込みやすくなります。

生育環境は「藪地と岩場」です。SANBI は、この植物が主に夏雨地域に分布し、藪地(bushy areas)と岩場(rocky areas)に生えること、そしてしばしば非常に旺盛で、自生地では塊をつくって空間を埋めることを記しています。上の写真がまさにその姿で、岩の隙間を埋めるように小さなロゼットが密集しています。匍匐する根(stoloniferous roots)をもつことも SANBI が挙げる特徴で、この根が横へ伸びて仔株を出すことが、塊をつくる殖え方を支えています。

自生地の写真は、栽培株とはまるで違う色をしています。この記事に載せた自生地のカットでは、葉が緑ではなく赤褐色に焼けています。SANBI は「直射に当たると葉は赤みを帯びる」「弱〜中光では緑、中〜強光では褐色から赤になる」と明記しており、写真の色はその通りの反応です。色は品種の違いではなく、光の量の記録だと考えたほうが実際的で、これは 08 章の置き場所の話にそのままつながります。

格子の窓紋 — tessellata は「碁盤目」という意味

鉢植えの株を真上から写したクローズアップ。灰緑色の硬い三角葉が放射状に並び、それぞれの葉の面に白っぽい細い線が縦横に走って四角い格子模様をつくっている。葉のふちには白く小さな鋸歯が等間隔に並ぶ
葉の面に走る線が交差して四角い区画をつくる。種小名 tessellata(碁盤目状の)と、アフリカーンス名 venstertjie(小さな窓)が指しているのはこの模様。Photo: stephen boisvert / CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

竜鱗の模様は、軟葉系の「窓」とは別のものです。オブツーサやクーペリーの窓は、葉の先端が半透明になって光を内部へ通す構造で、横から見ると厚みのあるゼリーのように透けます。竜鱗の格子は違います。SANBI の記述では、葉の上面に淡い緑の線が入り、それが交差して四角い模様(square-patterned design)を描くとされており、透過性そのものより面に描かれた線が主役です。上の写真を真上から見ると、1 枚の葉のなかに碁盤の目のような区画がいくつも並んでいるのがわかります。

見る場所
竜鱗
(硬葉系の「紋」)
オブツーサ・クーペリー
(軟葉系の「窓」)
葉の硬さ
硬く厚い やわらかい
模様の正体
線が交差して四角 葉先が透ける窓
横から見ると
透けず面の模様 厚みごと透ける
葉の下面
革質の疣が隆起 疣は目立たない
強い光での色
褐色〜赤に転ぶ 紫を帯びる

左列は SANBI PlantZAfrica の Haworthiopsis tessellata の記述と本記事に載せた 4 枚の写真の所見、右列はクーペリーの頁オブツーサの頁の記述にもとづく。写真の同定は撮影者・掲載カテゴリによるものです候補として読む

アフリカーンス名の venstertjie(小さな窓)は、この線に付けられた名前です。「窓」という語が使われているせいで軟葉系と同じ構造だと思われがちですが、竜鱗で窓と呼ばれているのは格子の内側にある一区画のことです。英名の veined haworthiopsis(脈のあるハオルチオプシス)も、線のほうを見た名前です。日本語の「竜鱗」も、区画が鱗のように並ぶ見た目を捉えた呼び名と考えると 3 つの言語がきれいにつながりますが、和名の由来を記した一次資料は確認できませんでした。

葉の裏側にも、見分けの手がかりがあります。SANBI は、葉の下面がやや丸みを帯び、革質の疣(coriaceous tubercles)が隆起すると記しています。自生地の写真では、赤褐色に焼けた葉の裏に粒々が並んでいるのが見えます。表は線の格子、裏は粒の疣——この組み合わせが竜鱗の質感をつくっています。株を真上から眺めるだけでは裏面が見えないので、斜め横から、できれば反り返った葉の下側が見える角度から観察するのが実際的です。

葉の形にも特徴があります。SANBI の記述では、葉は肉厚で硬く、おおむね三角形で、強く反り返る(sturdily bent backwards)とされています。長さは 50mm まで、基部の幅は 30mm まで。株全体では高さ 150mm・幅 100mm までで、生長は遅い植物です。「小さな三角の葉が、外へ強く反り返って星のように開く」——これが竜鱗のシルエットで、上へ塔のように伸びるレインワルディや、葉が 3 列に重なるビスコーサとは輪郭からして違います。系統ごとの姿の違いはハオルチアの品種と系統の全体像で図解しています。

ただし、格子の見え方には個体差があります。この記事に載せた 4 枚を比べると、鉢植えの株では白い線がくっきり出ているのに対し、自生地の焼けた株では線が地色に沈んで見えにくくなっています。SANBI が「変異に富む」と書く通りで、光の強さ・水の量・個体の由来によって、同じ種でも模様の出方が変わるということです。図鑑の写真と手元の株が一致しないことは珍しくありません。

見分けの入口 — 候補までを出して、手順は別の頁へ

硬葉系の「模様」は 4 タイプに分かれる — 断定でなく「次に見る所」の表
竜鱗 HP. TESSELLATA
模様
面に走る線が交差して四角を描く
姿
小さな三角葉が強く反り返り、平たく開く
次に見る所
葉の下面に革質の疣が隆起しているか
十二の巻・アテヌアータ HP. FASCIATA / ATTENUATA
模様
白い疣が横の帯や点として並ぶ
姿
細長い葉が立ち上がる
次に見る所
葉の内側にも白点があるか。両者の分け方は専用の頁
レインワルディ HP. REINWARDTII
模様
白い疣がらせん状に散る
姿
上へ伸びる塔状。輪郭からして違う
次に見る所
株が縦に伸びるか、平たく開くか
瑠璃殿 HP. LIMIFOLIA
模様
指紋のような隆条が葉を横切る
姿
三角葉が平たく開く(竜鱗と輪郭が近い)
次に見る所
模様が触ってわかる隆起か、面の線か

この表は「答え」ではなく「次に何を見るか」の表です。できるのは候補を複数挙げて、次に見るべき場所を示すところまでです。上の 4 タイプは硬葉系でよく見かける模様の型を並べたもので、「これ以外ではない」という意味ではありません。硬葉系にはほかにも多くの種があり、交配種も流通しています。

そのうえで、竜鱗を疑うときの入口を 1 つだけ挙げておきます。それは「模様が点か、線か」です。十二の巻・アテヌアータ・レインワルディの模様は白い疣(いぼ)で、触れば粒として指に当たります。竜鱗の格子は葉の面にある線なので、指でなぞっても凹凸としてはほとんど感じません。白い粒が並んでいるなら竜鱗の候補からは遠ざかり、面に線が走って四角い区画が見えるなら竜鱗の候補に入る——ここが最初の分岐です。

いちばん紛らわしいのは瑠璃殿(Hp. limifolia)です。どちらも三角の葉が平たく開き、模様が葉の面全体に広がります。違いは模様の性質で、瑠璃殿の模様は指紋のように盛り上がった隆条(ridge)、竜鱗は盛り上がらない線です。斜めから光を当てて影ができるかどうかを見るとわかりやすくなります。瑠璃殿については瑠璃殿の頁に詳しくまとめています。

ここから先の絞り込みは、この頁の担当ではありません。硬葉系のなかで名前が絞りきれないとき、あるいは軟葉系との区別からやり直したいときは、見分けの記事をまとめた見分け方ガイドの入口からお進みください。とくに十二の巻とアテヌアータの見分けは、硬葉系で最も取り違えの多い組み合わせを 1 本まるごと使って扱っています。レインワルディ十二の巻の原種(Haworthiopsis fasciata)アテヌアータにはそれぞれ単体の図鑑頁があります。

名前が絞りきれない株は、この種ではとくに珍しくありません。竜鱗は 4 州とナミビアにまたがって分布し、SANBI が「変異に富む」と書くほど産地ごとの姿の幅があります。過去に 32 もの名前が立てられたのは、その幅を名前で表現しようとした結果でした。「図鑑の写真と少し違う」ことが、そのまま別種の証拠にはならない——この前提を共有しておくことが、この植物とつきあううえでいちばん役に立ちます。

育て方の要点 — 直射で焼き、水にひたすと終わる

LIGHT SANBI は「medium light で足り、直射は葉を焼く」と明記。判断は葉色でできる — 弱〜中光で緑、中〜強光で褐色〜赤。日本(北半球)では北向きの窓辺、または東西の窓の近くが目安。
WATER 最大の危険は水のやりすぎ。水にひたした状態にしない。用土が数センチの深さまで乾いたのを指で確かめてから、深く与える。真夏は減らす(生長が鈍る・止まるため)。
SOIL 用土と鉢 砂質でやや酸性(SANBI の Plant Attributes は Soil = Sandy / PH = Acid)。排水穴は必須で、余分な水が抜けきる配合にする。岩場の植物なので粗い粒が合う。
TEMPERATURE 温度と湿度 室内の常温・常湿で問題ない。加湿器のそばに置かない(高湿度は根腐れなど菌類の病気を招く)。越冬の具体的な数値は種固有の一次情報が無く要確認(本サイト共通の目安は 3〜5℃)。

SANBI が名指しする最大の危険は、水のやりすぎです。「どんな条件でも水にひたした状態にしてはならない」と、かなり強い書き方をしています。判断は日数ではなく乾き具合で——用土が数センチの深さまで乾いたのを指で確かめてから、深く与えるいちばん暑い時期は水を減らすとも明記されています(夏に生長が鈍る・止まるため)。日本の夏は自生地より高温多湿になりやすいので、「夏に元気がないから水を増やす」は逆手になりかねません。逆に乾かすことには神経質にならなくてよく、SANBI は耐乾性を挙げ、栽培の難易度を「Easy」としています。

置き場所は、日本では読み替えが要ります。SANBI の「南向きの窓辺」は南半球での話で、同じ文に「北半球では北向きの窓辺」と但し書きが付いています。日本では北向きの窓辺、または東向き・西向きの窓の近く。南向きに置くならレース越しにして直射を切ってください。葉が褐色や赤に転んだら光が強すぎるサインです。徒長して姿が崩れた場合の考え方はハオルチアの徒長に、季節ごとの管理はハオルチアの育て方は「窓」で決まるに、補光や鉢と用土の組み合わせはハオルチアの育成環境ガイド(LED・用土・鉢・棚)にまとめています。

殖やし方は、この植物が自分でやってくれます。SANBI いわく「繁殖を私たちの代わりにやってくれる」——たくさんの仔株を出し、それが親株と同じ大きさに育ちます。外すときの条件は、ある程度の大きさになるまで待つことと、仔株に自分の根が付いていること。手順はハオルチアの増やし方にまとめています。なお SANBI は本種を含む Haworthiopsis人にも動物にも無毒としており、ペットや小さな子どもがいる部屋でも扱いやすい植物です。

入手時の注意 — ラベルは旧名を保存している

植物園の角鉢に植わった株を斜め上から。強い光で黒紫色に焼けた三角の葉が反り返り、面に赤褐色の格子線と粒状の疣が見える。背後の白いラベルには WORTHIA VENOSA SSP. TESSELLATA と印字されている
カリフォルニア大学植物園の栽培株。ラベルには「HAWORTHIA VENOSA SSP. TESSELLATA」——1982 年の亜種としての組み合わせが印字されている。ラベルは、それが作られた時点の分類体系を保存する。Photo: Stan Shebs / CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

上の写真は、この記事のいちばん実用的な 1 枚かもしれません。植物園の株に添えられたラベルには「HAWORTHIA VENOSA SSP. TESSELLATA」と印字されています。これは Bayer が 1982 年に立てた亜種としての組み合わせで、いまの受理名ではありません。けれどもこのラベルが間違っているわけではなく、そのラベルが作られた時点の体系を保存しているだけです。売り場のラベルも、古い図鑑の見出しも、同じように読むのが実際に近いといえます。

売り場・ラベルで見かける表記現行の受理名(GBIF)読み方
Haworthia venosa subsp. tessellataHaworthiopsis tessellataBayer・1982 の組み合わせ。竜鱗をベノーサの亜種として扱った時代の名前
Haworthia venosa var. tessellata / Hp. venosa var. tessellataHaworthiopsis tessellataHalda・1997 の組み合わせ。日本語圏でいちばんよく見る表記
Haworthia tessellataHaworthiopsis tessellata1824 年の元の名前。属が分かれる前の表記で、種としての扱いは今と同じ
Haworthia parva / H. minutissima / H. pseudotessellata / H. engleri ほかいずれも var. tessellata のシノニム産地ごとの差を別種として立てた名前。間違いではなく、採用する整理が違う
Haworthia crousii(林)Hp. tessellata var. crousii2016 年に変種として受理された。細分側の名前が生き残った例
注意: Haworthiopsis venosa(ベノーサ)Haworthiopsis venosa(別の受理種)これは竜鱗ではない。西ケープ州に分布する別種で、いまは対等な種として並ぶ
受理状況は GBIF Backbone(2026-08-14 照会)。表記の対応は名前ごとの受理・シノニム関係にもとづく。

竜鱗を買うときにいちばん戸惑うのは、名前が一致しないことです。「テッセラータ」「ベノーサ・テッセラータ」「Haworthia venosa var. tessellata」「Haworthiopsis tessellata」——これらはすべて同じ植物を指しています。上の表を手元に置いておくと、別の植物だと思って二重に買ってしまうような事故を避けられます。名前の対照表でも、竜鱗の行から異名をまとめて引けます。

ひとつだけ、注意の向きが逆になる名前があります。「ベノーサ」(Haworthiopsis venosa)は、竜鱗の別名ではなくいまも有効な別の種です。かつて竜鱗をその下に置いていた相手なので名前は近いのですが、両者は現在の整理では対等な種として並びます。「ベノーサ」とだけ書かれた株が竜鱗とは限らないということで、この場合は模様と葉の形を見て候補を絞ることになります(07 章)。

変種名まで書かれた株は、慎重に見るのが無難です。受理されている変種は 2 つだけですが、そのうち var. crousii の GBIF 出現記録は 1 件しかありません。流通名として「クロウシー」などが付いていても、その株が本当にその変種かを外から確かめる手立ては、ふつうありません。変種名は「そう表示されている」という事実として受け取り、断定の根拠にはしない扱いにしています。

斑入りや園芸銘については、扱いを分けています。竜鱗にも斑の入った個体や選抜個体が流通しています。園芸銘の正式名は日本ハオルシア協会(ISHS が指定する ICRA)の登録名が正になります。価格については、この頁では扱いません。平均落札価格は掲載していません。

まとめ

Summary
4 州とナミビアに広がった幅が、格子の模様と 32 の名前をつくった
竜鱗は、硬い三角の葉に細い線が交差して四角い格子を描く硬葉系のハオルチアです。GBIF の現行の整理では Haworthiopsis tessellata という独立種として受理され、日本語圏でよく見る「venosa の変種」は 1997 年の組み合わせにあたります。南アフリカ 4 州とナミビア南部にまたがる分布の広さが、産地ごとの姿の幅と、これまでに立てられた 32 の名前の背景にあります。
いまは独立種venosa の亜種(1982)・変種(1997)を経て 2013 年に独立
模様は線であって点ではない白い疣が並ぶ十二の巻の類とは仕組みが違う
国境を越える硬葉系南ア 4 州 + ナミビア。比較した 12 種では竜鱗と瑠璃殿だけ
直射で焼き、過湿で終わるmedium light・水にひたさない・夏は減らす
  • 竜鱗(りゅうりん)の現行の受理名は Haworthiopsis tessellata (Haw.) G.D.Rowley です。基になった名前は Haworth が 1824 年に発表した Haworthia tessellata で、種小名はラテン語で「碁盤目状の」を意味します
  • 硬葉系は 2014 年の整理で Haworthiopsis 属として切り出されました。古い本やラベルの「Haworthia ○○」はこの分割より前の表記です
  • 日本語圏でよく見る H. venosa var. tessellata は、Halda が 1997 年に立てた組み合わせで、GBIF 現行ではシノニムです。1982 年の Bayer による亜種の組み合わせも同様。誤りではなく、採用する整理が違うだけです
  • 受理名 3(種 1 + 変種 2)に対してシノニムは 32 件。うち 9 件は 1942 年の Brotéria 誌 11 巻という 1 冊のなかで発表されたものです
  • 受理変種の 1 つ var. crousii は、林(M.Hayashi)が立てた種名が変種として受理された例です。ただし GBIF 出現記録は 1 件と薄く、外から確かめる手立ては通常ありません
  • 自生地は南アフリカ4 州とナミビア南部。SANBI は「主に東ケープ州」と記しますが、GBIF の座標付き記録では北ケープ州が 137 件で最多(東ケープ 30)。本記事は両方を併記します
  • 比較した硬葉系 12 種のうち、国境を越える分布をもつのは竜鱗(ナミビア)と瑠璃殿(エスワティニ・モザンビーク)だけでした
  • 模様は軟葉系の「透ける窓」とは別物で、面に走る線が交差して四角い区画を描いたもの。葉の下面には革質の疣が隆起します
  • 栽培は SANBI が「Easy」とする一方、直射は葉を焼き、水にひたした状態は許されません。日本(北半球)では北向きの窓辺、または東西の窓の近くが目安です
  • 保全評価は南アフリカ国内で LC(軽度懸念)、GBIF が持つ IUCN のカテゴリは未評価(NE)。越冬温度に種固有の一次情報はなく、属全体の一般指針として最低 3〜5℃ を目安に置き要確認としています
  • 見分けは候補と「次に見る所」までを示す形で扱っており、見分けの記事は見分け方ガイドにまとめています

硬葉系のほかの品種と注目度を比べたいときは、ハオルチア人気品種ランキングが早い入口です。

FAQ

竜鱗の学名は結局どれが正しいのですか?
国際的な照合先である GBIF Backbone が現在受理しているのは Haworthiopsis tessellata (Haw.) G.D.Rowley です(2026-08-14 実測)。Haworthia venosa subsp. tessellata(Bayer・1982)と H. venosa var. tessellata(Halda・1997)は、そのシノニムとして登録されています。ただしこれは「どちらかが誤り」という意味ではなく、独立種と見るか近縁種の下に置くかという分類の判断が分かれているということです。この頁は GBIF の受理状況を採用しつつ、別の見解も併記しています。
「ベノーサ」と書かれた株を買いました。竜鱗ですか?
断定はできません。Haworthiopsis venosa(ベノーサ)は現在も有効な別の種で、竜鱗の別名ではないからです。一方で「ベノーサ・テッセラータ」のように 2 語で書かれていれば、それは 1982 年または 1997 年の組み合わせにあたり、竜鱗を指している可能性が高くなります。見るべきは模様で、面に走る線が交差して四角い区画を描いていれば竜鱗の候補に入ります。
竜鱗の「窓」は、オブツーサの窓と同じものですか?
別のものです。オブツーサやクーペリーの窓は葉の先端が半透明になって光を内部へ通す構造で、横から見ると厚みごと透けます。竜鱗の模様は、SANBI の記述では葉の上面に入る淡い緑の線が交差して四角い模様を描くもので、面の模様として見えます。アフリカーンス名の venstertjie(小さな窓)は、この格子の一区画を指した呼び名です。葉の硬さも違い、竜鱗は硬く厚い葉をもちます。
葉が茶色や赤になってきました。枯れかけですか?
光が強いことのサインである可能性が高いといえます。SANBI は「弱〜中光では緑、中〜強光では褐色から赤になる」「光の適切さは葉の色で判断できる」と明記しており、色は品種の違いではなく光量の記録として読めます。自生地の写真でも、強い日射を浴びた株は赤褐色に焼けています。緑に戻したい場合は光を弱めてください。ただし葉が縮んで張りを失っているなら水不足の可能性もあるので、色と形をセットで見るのが実際的です。
どこに置けばいいですか?
よく明るく、直射の当たらない場所です。SANBI は「南向きの窓辺(北半球では北向きの窓辺)」と書いており、南アフリカが南半球であることを踏まえた但し書きが付いています。日本で読むなら北向きの窓辺、または東向き・西向きの窓の近くにあたります。南向きの窓に置く場合はレース越しにするなどして直射を切ってください。また加湿器のそばは避けます(高湿度は根腐れなど菌類の病気を招くため)。
何℃まで耐えられますか?
最低でも 3〜5℃ を下回らせないのが実用の線です(ハオルチア属全体の一般的な指針)。本種に固有の耐寒限界を示す信頼できる一次情報は確認できていないため、この数値は属の指針として使い、要確認としています。なお SANBI の園芸ゾーン欄には「軽い霜」「冬に霜」を含むゾーンが挙がっていますが、これは南アフリカの気候区分であって、日本の屋外で越冬できるという意味ではありません。
増やせますか?
仔株(offset)でよく増えます。SANBI は「この植物は繁殖を私たちの代わりにやってくれる」と書くほどで、多数の仔株を出し、それが親と同じ大きさまで育ちます。外すときの条件は 2 つ——ある程度の大きさになるまで待つこと、そして仔株に自分の根が付いていることです。根が無い状態で切り離すと独立して生きられません。匍匐する根をもつ植物なので、鉢のなかで横へ広がっていきます。
竜鱗は絶滅危惧種ですか?
南アフリカ国内の評価では Least Concern(LC / 軽度懸念)とされています(SANBI PlantZAfrica の記述。査定は Von Staden, L. 2014、レッドリスト版 2020.1)。一方、GBIF が保持する IUCN のカテゴリは NOT EVALUATED(未評価)です。国内評価は分布域のうち南アフリカに入る部分だけを対象にするため、ナミビアまで広がる本種では、国内 LC が世界全体の評価と同じとは限りません。
道具はここに集約
ハオルチアの育成環境ガイド(LED・用土・鉢・棚)
硬葉系で最も多い取り違え
十二の巻とは — アテヌアータとの違いと Haworthiopsis 再分類
模様がいちばん紛らわしい隣
瑠璃殿(ハオルチオプシス・リミフォリア)— 指紋のような隆条の見方
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出典
  • GBIF Backbone Taxonomy — Haworthiopsis tessellata (Haw.) G.D.Rowley(taxonKey 9324953・status ACCEPTED)。バシオニム Haworthia tessellata Haw.、種レベルのシノニム 6 件、受理変種 2、IUCN カテゴリ NOT_EVALUATED、WCVP の分布区分(Cape Provinces / Free State / Northern Provinces / Namibia)。2026-08-14 照会: gbif.org
  • GBIF Backbone — var. tessellata(9442788・シノニム 23)/ var. crousii (M.Hayashi) Gildenh. & Klopper(9580707・Phytotaxa 265: 15, 2016・バシオニム Haworthia crousii M.Hayashi, Haworthiad 15: 16, 2001)。2026-08-14 照会: gbif.org
  • GBIF Occurrence — 出現記録 298 件、国別(南アフリカ 230 / ナミビア 15 ほか)、南ア座標付き 220 件の州別内訳(北ケープ 137 / 東ケープ 30 / 西ケープ 29 / 自由州 19)、記録種別、比較した同属 12 種の件数。2026-08-14 照会: gbif.org
  • SANBI PlantZAfrica Haworthiopsis tessellata(Sboniso Zwane & Sihle Nqentsu、Pretoria National Botanical Garden、2021-05)— 英名 veined haworthiopsis / アフリカーンス名 venstertjie、形態(高さ 150mm・幅 100mm・葉 50×30mm・強く反り返る・上面の格子模様・下面の革質の疣)、分布と生育地、語源(tessellata = 碁盤目状の)、保全評価 LC、栽培(直射不可・過湿厳禁・夏は減水・仔株での繁殖・加湿器を避ける)、Plant Attributes: pza.sanbi.org
  • SANBI PlantZAfrica Haworthia 属 — 属の 3 分割(Manning et al. 2014, Systematic Botany 39: 55-74)、属名は Adrian Hardy Haworth への献名: pza.sanbi.org
  • IPNI(国際植物名索引)— Haworthia tessellata Haw. の原記載書誌(Philos. Mag. J. 66: 300, 1824): ipni.org / Haworthiopsis tessellata (Haw.) G.D.Rowley の組替(Alsterworthia Int. 13(2): 25, 2013-07-01): ipni.org
  • 南アフリカ植物レッドリスト(SANBI Threatened Species Programme)— 本種の LC 評価は SANBI PlantZAfrica の記述および Von Staden, L. 2014, Red List of South African plants version 2020.1 による: redlist.sanbi.org
  • iNaturalist — Haworthiopsis tessellata(taxon 586825)の観察 242 件、うち野生 169 / 栽培 73 / research grade 162(2026-08-14 実測): inaturalist.org
  • Wikimedia Commons — Category:Haworthiopsis tessellata(ファイル 16 件 + サブカテゴリ 1。各画像のライセンス版と作者は API で実測)
  • 本記事が参照した分類整理の一次文献: Rowley, G.D. 2013. Alsterworthia International(Special Issue 10 / 13(2))/ Boatwright, J.S. & Manning, J.C. 2014. Systematic Botany 39: 55-74 / Bayer, M.B. 1982. The New Haworthia Handbook. National Botanic Gardens / Gildenhuys, S.D. & Klopper, R.R. 2016. Phytotaxa 265(いずれも GBIF / IPNI の書誌欄に記載。原典は直接参照しておらず、記述はデータベースの登録内容と SANBI にもとづきます)
  • 画像は CC ライセンス画像(PD / CC0 / CC BY / CC BY-SA)のみを使用しています。各画像の作者・ライセンス・出典は 画像クレジット・出典一覧 に掲載しています
Field Noteデータ集約図鑑

運営者は栽培による一次観察を持たないため、同定は断定せず、候補と「次に見る所」までを示します。とくに注意していただきたい点として、分布については SANBI が「主に東ケープ州」と記す一方、GBIF の座標付き記録では北ケープ州が最多で、両者を併記しています。出現記録の件数は調査の努力量に左右されるため、野生での個体数や分布の広さそのものではありません。また写真の同定は Wikimedia Commons の投稿者・分類カテゴリおよび iNaturalist の同定に由来するもので、当サイトが検分した結果ではありません。

画像クレジット

本記事の写真は Wikimedia Commons と iNaturalist の CC ライセンス画像です(PD / CC0 / CC BY / CC BY-SA のみ採用・ND / NC は不採用)。継承ライセンス(CC BY-SA)が 3 点、表示ライセンス(CC BY)が 1 点です。
扉の写真: Photo: Krzysztof Ziarnek, Kenraiz / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
本文中の 3 枚(05 章・06 章・09 章)の帰属は各 figure のキャプションに記載しています。サイト全体の画像出典は画像クレジットにまとめています。

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